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世界が赤く染まる日  作者: 夜桜
第二章 闘技大会編
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幕間 師匠と弟子の出会い

日影と里香師匠との出会いについてです。

里香視点


しかし、彼はまだ過去を引きずっているのか。

どうにかしてやりたかったが、私にはどうすることもできなかった。


あれは、5年前の炎真一族最後の日。

私はたまたま炎真一族の村の近くの山で任務をこなしていた。


「ふう、今日は楽な仕事だったな」


その日の任務はさほど難しいものではなく、私はちょうど任務を終えて帰ろうとしていた。

その時、私はある異変に気付く。


「ん、あそこ妙に明るくないか」


あたりはもう暗くなっているにも関わらず、妙に明るい場所がある。

あの方角は……炎真の村か。きっとなにかの祭か何かだろう。

私は、そこで気にせず帰ろうとしたが、なにか嫌な予感がした。

念のため少し見てくるか。

私は後にこの時の行動がよかったのか悪かったのか、悩むことになる。


私は村に近づいていく毎に、煙くささが増していることに気づいた。

これは本当にヤバいかもしれない。

そうして私は強化系統能力の瞬歩を使い、移動速度を限界まで高めた。

だが、私が村にたどり着いたときにはもう遅く、村は文字通り火の海となっていた。


「なんだ、なんなんだこれは……」


村からはすでに生きた人間の気配はなく、人の焼ける臭いに私はむせ返りそうになる。

私は、そうしてただ茫然と村を見ているしかなかった。

その時、


「うわああああああああああ」


という少年の悲鳴がその場に響いた。

私はすぐにその方向に意識を向けると、村が見渡せる位置に、一人の少年がいる。

村の中にばかり意識を向けていた私は、その少年の存在に気付かなかった。

おそらく彼は村の生き残りだろう。

私は彼をいち早く保護しなくてはならないと思い、彼に向って走り出す。そして私は彼の近くにたどり着き、声をかけようとしたが様子がおかしいことに気づく。いや、村が焼けているのだから様子がおかしいのは当たり前なのだが、彼のそれは異様だった。


「許さない……絶対に許さない……」


彼がつぶやく声を聞き、私は彼がものすごく危うい状況であると判断した。そして私が彼に近づこうとしたその時、彼の身は炎に包まれた。その炎からは暗い闇、彼の黒い感情が流れ込んでいるように感じる。こんな少年がそんな感情を抱いてしまい、そして彼はその感情を力にしている。それぞれの能力は、確かに能力を発動する者の感情によって、その威力や形は少しずつ異なってくるが、これは異常としか言いようがない。しかも、彼は能力の発動に詠唱を必要としなかった。いや、これではただ能力が暴走しているだけだ。

早く止めないと彼の命に係わる。私はそう判断し、彼に水系統能力、アクアスプレッドを放つ。しかし、それは彼に届くことなかった。彼の身に纏う炎がそれを阻んだのだ。

そして彼は振り向き、私を見つめた。

彼の赤く燃えるような瞳には、ただすべてを拒絶し、すべてを燃やし尽くさんとする者の目をしていた。私は彼のその眼を見て、心の底から恐怖した。

しかし、彼が身に纏っていた炎は次の瞬間消え去り、そして彼はその場に崩れ落ちた。

私はそんな彼を抱きかかえ、すぐに自宅に連れ帰った。






彼は3日三晩眠り続け、ようやく目を覚ました。

彼は、目が覚めた時にはすべてに無関心で碌に飯にも手を付けず、水も最低限しか飲まなかった。

私は彼を育てる決心をその時する。彼は今復讐にとらわれている。このまま彼が自分だけで歩んでいけば、きっと自分の身を滅ぼすことになるだろう。そんなことはさせたくない。あの村を救うことはできなかったが、せめてこの子だけは……。

私はそう誓った。


それからというもの、私は彼の面倒を見続けた。いつしか彼も少しずつ心を開いてくれるようになった。そして私は彼に神谷の姓を名乗るように伝えた。それは彼の存在を外に漏らさないためではなく、彼自身が炎真という重い十字架を背負う必要がないことを伝えるためだったのだが、どうやら伝わらなかったようだ。

そして彼の能力が二度と暴走しないよう、私は彼に能力の扱い方を教えることにした。

こうして私たちは師弟の関係を築くことになったのである。


私は、あれから彼になにかしてあげることはできたのだろうか。

今も彼は復讐に囚われ、生きている。

私はそれを思うと胸が痛む。

いつか彼を、この悲しい運命から解き放ってくれるものが現れるのだろうか。




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