そして二人は
日影視点
俺は馬鹿だ。
皆と距離をおけばすべて解決すると思ってた。
でも皆はそんなこと望んでなかったんじゃないのか。
咲先輩もきっと……。
そんなことを考えながら、俺は学園内を走り回る。
咲先輩に何かあったかもしれないんだ。
俺が彼女と向き合うことを怖がらなければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
咲先輩に何かあったら、俺は……。
俺は無我夢中で走る。
すべてを打ち明けて彼女から離れようと思ったのに、俺は結局彼女のことを忘れられない。
俺は彼女の存在がどうしても消せなかったんだ。
そうして俺はようやく今になって、彼女の大切さがわかった。
生まれて初めてのこの感情に、俺はただ戸惑っていたんだ。
今はまず、彼女を探さなくては!
咲視点
「んんっ……」
私は強烈な体のだるさを感じながら気が付くと、体育用具倉庫にいた。
なんでこんなところに。
そして私は自分の体が縛られていて、口にガムテープが張られていることに気づく。
え……
私はここでようやく自分のおかれている状況を理解する。
私は誰かに捕まってこんなところにいるのだと。
「やっと目覚めたか」
私は声のする方を見ると、三人の男子生徒が私を見下ろしていた。
彼らは皆、嫌な笑みを浮かべている。
「いやー、水野の様子が最近おかしいってよく気づいたな」
「まあな。でもこんなにうまくいくとは思わなかったな」
彼らはそんな話をしている。
くそっ、能力が使えれば……。
自分の使いたい能力は口に出さなくては使えないため、私は今能力が使えない。
「今はまだ部活も禁止になってるし、ここならだれも来ないだろ。さあたっぷり楽しませてもらおうかな」
男たちはこちらをじっくりとなめまわすように見てくる。
私は自分の目に涙がたまっているのが分かる。
いやだっ、誰か、誰か助けて……。
日影君っ……!
私がそう心の中で叫んだとき、倉庫の扉が開いた。
そこには彼、神谷日影君が立っていた。
ああ、日影君……ほんとに来てくれた。
「咲先輩!」
「げっ、こいつ新入生代表の……」
三人の男子生徒は動揺しつつも、そのうちの一人が私の髪を引っ張り、のど元にナイフを突きつけてきた。
「んんっ……」
ガムテープで口を塞がれている私はうまく叫べない。
「お前たち……覚悟はいいな」
日影君はそう言うと、次の瞬間には強化系能力の瞬歩で私の元まで駆け寄り、そのまま私を掴んでいる男を殴り飛ばす。その時バランスを崩した私を片手で抱えながらもう一人男子生徒を殴り、気絶させた。その間に、残りの一人の男子生徒は逃げていってしまった。
そして日影君は私の口に張られたガムテープをとり、体を結んでいるロープをほどいてくれた。
私は我慢できずに、
「日影君っ……日影君っ」
と泣きながら抱き付いてしまう。彼はそんな私の頭を優しくなでてくれた。
私はしばらくそのまま、彼の優しさに甘えていた。
日影視点
間に合って本当によかった。
俺は抱き付いてきて離そうとしない咲先輩の頭をなでながらそう思う。
そして怒りのままに殴り飛ばしてしまったが、停学とかならないかな、とかくだらないことも少し思いついたがそんなことはどうでもよかった。
俺は彼女が無事だったことにただただ安堵するのみだった。
そうしてしばらく彼女の頭をなでていると、倉庫の入り口から
「おーおー、お熱いことで」
と立花先輩が声をかけてきた。
すると咲先輩は急に真っ赤になって俺から離れた。
俺も少し顔が熱くなっているのを感じる。
「その様子ならもう心配はいらないな。私はもういくよ。お邪魔なようなので。あ、そこの二人だけもらってくねー、残りの一人はあっちでのびてるから心配しないで。ではではー」
と軽い口調で俺たちをいじりつつ、俺が殴り飛ばした男子生徒たちを引きづりながら出ていった。
全くすごい人だな、と感心してしまう。
その後俺たちは、少しの間沈黙に包まれる。
よし、俺の今の気持ちをちゃんと先輩に伝えよう。
俺の気持ちはもう決まっている。
俺は決意を固め、彼女に話しかけた。
「咲先輩」
俺がそう呼ぶと、彼女は体をビクっと震わせ、こちらを向く。
先輩は少し緊張したような様子だが、ちゃんと俺の目を見てくれている。
俺も先輩の青い瞳から目を離さない。
「この前からすみませんでした。俺は傷つく先輩を見るのが怖くて、逃げていました。でもそれじゃダメで、逃げてても何も解決しないってわかりました。俺は先輩のことがすごく大事なんだって今更になって気づいたんです。」
先輩は真剣な表情で俺の話に耳を傾けてくれる。
「だから、俺はもう逃げるのはやめます。傷つく咲先輩は見たくないけど、いや、だからこそ一緒にいて守ってみせます。咲先輩、俺はあなたのことが好きです。これからずっと、俺と一緒にいてくれませんか」
俺は、復讐とか過去のことなんてどうでもよくて、ただこの人と一緒に生きていきたいって本気で思えた。俺はそれだけ咲先輩のことが好きなんだ。
そして彼女の口元が動く。
彼女は涙を浮かべながら満面の笑みで答える。
「はい。私も日影君が大好きです」
と。
こうして二人は結ばれました。
なんか書きながらドキドキしてしまいました。
まだまだ話は続きますので、ぜひこれからもよろしくお願いします!