真実
日影視点
俺は、燃え盛る炎に包まれる自分の村を見ていた。
育ててくれた長老や、優しくしてくれた村のみんながまだいるその村は、すでにどこにも逃げ場はない。
まさか俺が少し山に出ている間にこんなことになるなんて……。
俺は彼らを助けることができないこと自分の無力さを嘆いた。
彼らの死が伝わってくるような感覚に襲われ、流れ出す涙を止めることができない。
だが俺は、焼け落ちていく村から絶対に目を離さなかった。
俺は、彼らのことを胸に刻みつけ、そして復讐を誓った。
俺は、こんなことをしたやつを許さない。
俺は少しずつ目を開くと、見知らぬ部屋にいた。
そこのベッドに寝かされている。
そして、そのベッドの隣には俺を心配そうに見つめる咲先輩がいた。
「日影君っ!私が誰だかわかる?」
不安そうな目をする咲先輩を見て、俺は自分があの戦闘の後あと倒れたことを思い出し、答える。
「はい。咲先輩。大丈夫です」
「そう、よかった……」
咲先輩はほっとした様子で優しい笑顔を向けてくれる。
あれからどのくらいたったのだろう。
この部屋がおそらく保健室だということは分かるのだが。
「あれからどのくらいたちました?」
「まだ一時間くらいよ。生徒達は先生に状況を説明してもらって、そのあと体育館で待機してるわ」
「じゃあ俺たちも行った方がいいですね」
俺がそう言ったとき、扉が開く音がする。
「その必要はないわ」
扉を開いてこちらに入ってきた立花先輩だった。
この人扉の外でも俺の声聞こえたのか。
彼女は続ける。
「もう生徒たちは帰したから。一応安全だと確認できたし。それにしてもあなたたち月本の相手してよく無事だったわね。あいつの強さは普通じゃないし、先生たち全員が束になっても勝てないとまで言われてたわ」
「日影君のおかげよ。彼がいなかったら私は殺されてたわ」
「でも、いくら神谷君でも月本をどうにかできるとは思えないわ。一体何をしでかしてくれたのかしら」
俺は、話すべきなのだろうか。
自分自身の能力のこと、過去のこと、そして俺の目的……。
咲先輩たちに俺自身のことを隠していることがもう苦しくなってきている。
俺のことを真っ直ぐ見つめてくれる咲先輩に、俺は正直でありたい。
だけど、彼女を巻き込みたくない。
いや、本当は咲先輩に本当のことを知られるのが怖いだけか。
俺は弱い人間だから。
そんな時、二人の人物が保健室に入ってくる。
一人は大久保先生、そしてもう一人は……
「よう、日影。久しいな」
どこか懐かしささえ感じさせるその声の正体は、俺の師匠である神谷里香であった。
「し、師匠、なぜここに?旅から帰ってきてたんですか?」
「んー、まあそれについては後だな。それよりもお前はそこの御嬢さん方や、他の友人達にも言わなきゃならんことがあるだろう。お前のことだから、どうせ巻き込みたくないだのなんだのってうだうだ考えてるんだろうが、そんなことは関係ない。周りの人間巻き込んでもお前が全員守ってやれ。私はお前がそれくらいのことをやれるくらいには育てたつもりだぞ」
違うんですよ、師匠。
俺は誰かを守れる人間じゃない。
……もういっそここで咲先輩にそれを伝えた方がいいのかもしれない。
その方がこれ以上辛いことはなくなるはずだ。
それで元通り。
今までの俺であるだけでいいんだから。
「そうですね師匠。ありがとうございます。咲先輩、さっきの月本との戦いの最後に俺が使ったのは、炎系統能力です」
「……でも炎系統能力者はもうこの世にはいないはずじゃ」
咲先輩は実際に見ているので、驚きはするものの疑問を投げかけてくる程度だが、立花先輩や大久保先生は何を言ってるんだ、といった顔だ。まあ無理もない。
「はい。俺の一族は5年前に滅び、俺も死んだことになっていると思いますから。」
咲視点
彼は私達にすべてを話してくれようとしている。彼は辛そうな顔一つせず、淡々と話していった。
「俺は、5年前に滅んだ炎真一族の生き残りなんですよ」
炎真一族、5年前に炎に包まれてそこにいる人々は村ごと焼失したと聞いているわ。
日影君、君は本当につらい人生を歩んでいるのね。
「俺の父は炎真皇成、一族最強の男でした。俺はその血を受け継いでいるので、炎系統の能力には高い適性があるんです。」
「それで月本にあれだけのダメージを与えれたのね」
私は納得した。炎真皇成は7年前の東部戦線の最前線に立ち亡くなったと聞いている。彼がその子供なら炎系統に強い適性があるのにもうなずける。炎系能力は適性が出るのは世界でも炎真一族くらいなものだったが、その威力は他の能力の比にならないものである。その能力をまともに受けては、月本も無事じゃすまないということだったみたいね。
「はい。そして俺は、一族を滅ぼした人間、いやおそらく複数の人間達の思惑によるものだと考えているのですが、俺はそいつらを探しています。そのためにこの学園に来たんです。」
「でも探してどうするの?今となっては真相は闇の中なんでしょ?」
ここまで黙って聞いていた穂香が尋ねる。
彼は多分……。
「殺すためです。俺は復讐することだけを考えて生きてきました」
「日影、お前まだそんなことを……」
彼の師匠、里香さんは悲しそうな表情をしているが、日影君はこれまでとなんら変わらない口調で話している。
やっぱりそうなんだ。
日影君はそういう危うさを持っていると私は気づいていた。
でも、彼はこのまま進んでもきっと幸せにはなれない。
復讐の先にあるのはさらなる復讐だけ。
彼もきっとそのことは分かっているけど、それでも歩みを止められないんだよね。
私にしてあげられることは、何もないのかな……。
私は、彼のことを真っ直ぐ見れなくなっていた。
その後のことはあまり覚えていない。
私が何とか把握しているのは里香さんが学校に教師として雇われることになったことと、そのあと来た朝倉君や二見さん、加藤さんにも日影君は同じように打ち明けていたことくらいだ。
「それじゃ俺は帰ります。咲先輩、ごめんなさい」
日影君はそう言うと保健室から出ていった。
私は彼に何の言葉もかけられなかった。
少しずつ近づいていけると思っていた彼との距離は、ほんとは全然近づいてなんかなかったんだと気づいてしまった。その距離が近づくことはきっともうないのだということにも。
そうして私は涙を流しながら、その場に崩れ落ちた。