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妹の本質  作者: 太郎
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8、お兄ちゃんのばーか

 妹と辞書で調べたら真っ先に出る言葉は『ワガママ』だと思う。特に僕の妹で調べたら。



「お兄ちゃん、今日は何日だと思う?」

「あー、またその質問?」

「何その言い方」


 むっと顔をしかめたのは、ソファの上であぐらをかく妹。

 だってその通りじゃないか。

 そうやって重要なことを何日? と聞いて僕を確かめているじゃないか。いつもいつも手口は同じだ。

 だが、こういう風に聞く時は失敗すると怖いのを僕は知っている。

 ごほんと咳払いしてから言った。


「3月17日だろう?」

「そう、それで?」


 さも当然のように僕を見る妹。


「ははは……」


 勿論今日の日付を言っても意味がないことは長年の経験で熟知している。

 だから今日何があったかを完璧に思い出さなくては。

 妹は中学3年生。受験を終えたばかりで、大好きなアイドル鑑賞に勤しんでいる。

 ついこないだ妹と会話をしたときに、今日のことについて触れていたはずだ。何を話していた? 僕よ、思い出せ。

 ……そうだ。

 思い出した。


「今日は……高校の合格発表日か」

「そうよ。お兄ちゃんが私の質問に答えられるなんて珍しいわね。ちゃんと覚えてたの?」

「勿論、だよ」


 嘘です。本当は今必死に思い出しました。


「ふぅん。じゃあ、やることは分かっているわよね?」


 ん? と、ハテナマークが頭上に飛んだ。

 妹は頬を弛緩させながら腕を組んだが、その意味が分からない。


「何をするの?」

「分からないの? 授業中に私が合格しているかを真っ先に調べるって仕事があるでしょ」

「お、おう……?」


 やはり当たり前のように言う妹。

 いや、高校は携帯の持ち込みは可能だが授業中の使用は禁止なんだよ。それを分かって言っている…んだろうね。


「何よその顔。当たり前でしょ」


 どこに妹の合格発表を授業中に確認する奴がいる。僕はそんな野郎にあったことがないから当たり前だとは思えない。

 けど、そう思っているのに言えないのが辛いところだ。こういう兄の威厳のなさをどうにかしたい。


「そうだね。じゃあ、二時間目の合間に調べるよ」

「うん。偉い」


 妹はニヤリと笑ってから、ふと思い出したように言った。


「お兄ちゃんさ、こうやって普通に私と会話してるけど学校行かなくて良いの? もう8時になるわよ」

「……え?」


 首を捻って僕の背後にある時計を見ると、それは妹の言った通りに8時の5分前を指していた。

 勿論そんな時間に僕が家にいていい訳もなく、僕は焦って家を出るのであった。


 家を出る際に、けらけらと笑う妹の声が聞こえた。



 家を出てからずっと走った僕はギリギリ登校時間に間に合った。これで皆勤賞間違いなしだな、とか一人で笑いながら教室に入ると皆騒いでいたから安堵した。

 そして、席についてから携帯に目をやる。

 そう言えば妹は合格発表を携帯で確認しろと言っていたが、僕の携帯は3年も前の機種だから、連絡手段としてしか役目を果たしていない。

 つまりは調べられないのだ。


「まあ、良いか」


 一人ごちていると先生が来たから慌てて机の中に携帯をしまった。


 そのまま時間は過ぎて、ついには妹の言っていた合格発表の時間となったが僕は見ることもなく家に帰った。


 すると当然家で待っていたのは仁王立ちの妹であった。


「お兄ちゃん、調べた?」

「いや調べてないけど……」

「はぁ? 調べてって言ったのに何で調べてないの」

「僕の携帯ではインターネット使えないの、知ってるよね?」

「だから何? 友達にでも頼んで見せてもらえば良かったじゃない。妹のためなんだからそれぐらい出来るしょ」


 イライラしているのだろうか。

 妹はぱたぱたと足をならしながら僕を睨んでいる。


「ところでさ。まだ合格発表確認してないの?」

「当たり前じゃない。何で一人で見なくちゃいけないのよ?」


 さも当然そうな顔で聞いてくるけど……僕からしてみれば『何で一人で見れないの?』だ。

 僕も去年合格発表を体験したが、その時は一人で高校に行って少し喜んでから普通に帰ってきた。


「あー。じゃあまだ合格してるか知らないんだ」

「調べてないんだから知らなくて当然でしょ。もう、早く知りたいんだからさっさと調べてよ。そこにパソコンあるから、早く」

「わっ、とと」


 腕を引かれてぽいっと投げられた先は居間で、目の前にはパソコンがあった。

 しかも丁寧に起動されていて妹の行く予定の高校、僕の通う高校を検索されていた。

 どれだけ一人で見るのが嫌だったんだよ。

 はぁっとため息をついてからパソコンに向き直り、マウスを移動させてからクリックした。


「ちょっ、やるならやるって言いなさいよ」

「はいはい」


 学校のホームページを開いてからどんどんと下にスクロールさせていくと合格発表のリンクがあったから、入ると。

 あった。


「ん、受験番号何番?」


 目を覆って視界を隠している妹は小さな声で「……22」と呟いた。

 上から順番に見ていくとバラバラと数字が別れていた。

 22……22と呟きながら探す。


「……目を隠してないで見て」

「う、うう」


 唸りながら手を外した妹は目を細めてからゆっくりお画面に顔を向けてから、目を丸くした。


「ある。私の番号がある」

「そうだね。おめでとう」

「う、うそうそうそうそうそ。有り得ない」

「いや、合格してるよ」


 顔を赤くさせたり青くさせたりしている妹は、激しく髪を振り乱した。


「知ってるわよ! そんなこと! うぁぁあっっ」

「ちょ、え?」


 急に泣き出した妹は僕の服の裾をつかんでから胸に顔を埋めた。

 大きな声を出して泣いているのだが、地味にポカポカと僕の胸を叩いているのは何故だろうか。


「うぅっ……ひっく」


 でもいいか。

 合格したからお祝いってことで今日だけは許してあげよう。


 妹の頭に手を乗せて、ゆっくりと撫でた。




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