1、僕の妹が可愛い訳がない
最近、妹萌え、シスコンなんて言葉を耳にする。
だが、本当の妹を知る僕にとっては全く意味が分からない。世間が好きなのは本当の妹を知らないからだ。
本当の妹というものを知ったら皆は幻滅するだろう。
それくらい妹という生命体は狡くて酷い生き物なのだ。もしかしたら、これは僕の妹に限るのかもしれないけど。
つまり、何を言いたいのかというと、僕は妹に期待や幻想を持っている人達を救いたいのだ。
アニメや漫画であんなにも可愛く描かれていたら勘違いしてしまう人がいるだろうから、僕の妹との話で思い直して欲しい。
そして、出来れば妹のことを熟知した上で妹好きを名乗って欲しい。僕はそんな強靭な精神の持ち主が現れることを望んでいる。
さて、それではいこうか。
「おにぃちゃぁぁあんっ!」
自分の性別を忘れて鼻息荒く僕を呼ぶ声。妹だ。
「どうしたの?」
僕が妹の元へと向かうと妹はテレビを指差して顔を紅潮させていた。
「みてみてみて!」
「うん……?」
テレビを覗いたが対して酷い画像も怖い画像も映ってない。妹が崇拝するかの様に好きなアイドルがいるだけだ。どうして僕を呼んだのだろうか。
「酷くない!?」
「え?」
妹は僕を睨んでいるが僕にとっては意味が分からないよ。え、どこに酷い画像があるの? と、首を傾げると妹は苛立った様子を見せる。
「どこ観てるの!? これよ、これ!」
妹が指差したところには小さな女性が映っていて何か書いてあるうちわを持っていた。
(このテレビに映っているのははとあるアイドルグループのコンサート映像らしい。こないだ妹に教えられた気がする)
「うちわを持っているね」
「そのうちわに書いている字をよく読んでみて」
小さいからよく分からなくてテレビに近づくと妹に「れいきゅんが見えない。邪魔」と罵られた。なんとワガママな。
「うーん、古林?」
「そう!!」
妹がいきなり立ち上がって叫んだ。思ってたけどさ、何か熱が入りすぎじゃないか?
「古林の何が悪いの?」
と、優しく聞いてやったはずなのに妹はプッツンしてしまった。鼻息荒く拳をブンブン振り回す姿はもはや、女子としてのナニかを失っている気がする。
「悪い! れいきゅんは古林じゃなくて小林なの! れいらーはそんなミスをしちゃダメなのに、きっとこいつは生半可な気持ちでれいらーをしてるんだ!」
「れいらー、古林、小林?」
もう妹の言っている意味が分からない。何を僕に伝えたいのだろうか。とりあえず、怒ってることぐらいしか分からないんだけど。
「そう。私の大好きなアイドルのれいちゃんを本格的に好きな人をれいらーって呼ぶんだけど、れいちゃんの苗字は古林じゃなくて小林なのよ。分かる? もの凄い間違いを起こしてるの」
「んー、うん」
「本当に、信じられないよね。こういう人!」
まあ、確かに自分の応援する人の名前を間違えられるのは嫌だけど、たかがそれだけのことでこの世の終わりかと思わせる程憤慨する、妹の方が信じられないよ。
僕は曖昧に笑ってその場を終えたつもりだったが、妹の気持ちはそれは収まらず訳の分からないことを繰り返し訴えられた。
ほら、どうだ。シスコン共よ。これでも妹が可愛いと言えるか? 自信を持って大好きだと言えるか?
妹が変なところに怒りのスイッチがあるプチおたくでも可愛いと言えるのか? 僕は言えない。だって、この子怖いからね。
ああ、でもたまに可愛いと思ってしまう時があるから嫌なんだよ。どうしようもなく、ね。