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Papagena  作者: 来生尚
SIDE STORYS
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番外編:「そうだ、京都、行こう」9

 穏やかな表情で腕の中で眠る優実を見つめる。

 ついつい昨晩はがっつきすぎてしまったようだ。普段なら起きる時間なのに、全く起きる気配も無い。

 起こさないようにそっと腕を抜き、あちこちに赤い花が散らばっている肢体を真っ白なシーツで覆う。

 本当はその体を朝から食べてしまいたいけれど、あまり疲れさせてしまうと、優実の負担になる。

 キスしたい気持ちも抑えてベッドを降り、散らかったままの服を拾っていく。

 うーん。我ながら余裕の無さが表れている。

 そんな事を思いつつ、一枚一枚拾いあげていく。

 付き合いだした頃は「そんな事しなくて良いから!!」と真っ赤な顔で恥ずかしそうにしていた優実も、もう諦めたのか、何も言わなくなった。

 それとも「全部脱いだまんまで散らかして置く方が好きならそれでいいよ」と冗談交じりに言った、ちょっとした意地悪のせいだろうか。

 そんな事を考えつつ、優実の服はベッド傍のソファに置き、自分はシャワーへと向かう。

 昨夜は優実を食べる事に熱中してそのまま二人で眠ってしまった。

 優実、お腹空いているかな。

 何が食べたいだろう。

 夕飯食べられなかった分だけお腹空いているだろうから、朝食バイキングのほうがいいんだろうか。

 それともあまりぐったりしているようなら、ルームサービスにしてしまおうか。

 ああ、ルームサービス。

 それなら別に部屋を出なくてもゆっくり食事も出来るし、もう一回くらい……。

 いやいやいや!

 今日は観光だ。落ち着こう。

 今晩も一緒にいられるし、そんなに焦らなくてもいいんだから。

 いや、でも……。


 煩悩と戦いながらシャワーを済ませてバスタオルだけ巻きつけて部屋に戻ると、ぼーっとした顔で優実がベッドの上に座っている。

 いつもはシャキシャキしているのに、寝起きは結構悪い。

 自分が何も身に纏っていないという事実さえ抜け落ちているようだ。

 普段はなかなか見せてくれない、細いけれどメリハリのある体を隠そうともしていない。

 あの「ロボット」とまで言われている『加山優実』の片鱗はどこにも無い。

 こんなところ、他の誰も知らないんだろうな。

 そんな優越感で、心が満たされる。

「おはよう」

 のんびりとした声で、ふにゃっと顔を崩して優実が笑う。

 ああ、やっぱりダメかもしれない、俺。

 その笑顔にドキっと胸が跳ねて苦しくなった。

「おはよう。そんな格好してると風邪引くよ」

 気まずい欲望は笑顔で隠して挨拶の声を掛けると、優実が真っ直ぐに腕を伸ばしてくる。

 ベッドを回りこんで、優実の傍に腰を下ろすと、ぎゅっと抱きつかれる。

 こんなにストレートに甘えてくるなんて珍しい。

「どうしたの、優実」

 お互い何も纏っていない素肌が触れ合い、やわらかな胸が押し付けられる。

 どくどくどくと心音が大きくなっていく。

 これは、えっと……。

 頭の中で九九を唱えたほうがいいんだろうか。それとも?

「起きたらいなかったから」

 じーっと見上げてくる顔は責めているようでもあるけれど、もうおねだりされているようにしか見えない。

 キスしたら止まらない。絶対止まらない。止められない。

「りょー?」

 首を傾げないでください、優実さん。

 ああっ。もうっ。首筋が、白い肌が、柔らかな感触が誘惑してくる。

「んー?」

 曖昧に誤魔化すと、優実が更に体を摺り寄せて、頬にキスをしてくる。

 ちゅっと音がしたかと思うと、今度は唇の端にキスをして、最後はふんわりと唇を重ねてくる。

 これはお許しが出たって事だ。間違いない。

 優実の背中に腕を回し、なるべく優しくベッドに押し倒し、その腕を縫い付ける。

 左手一本で頭の上で優実の両手を掴み、赤い花の残る首筋へ唇を押し当てる。

「あっ、いやっ」

 鎖骨から耳の方へと舌を這わすと、既に熱の篭った、心の底からの拒絶とは思えない言葉が優実から漏れる。

 はふっと漏れた吐息が色っぽくて、ごくりと唾を飲み込む。

「本当に止めていいの?」

 耳たぶを食みながら問いかけると、優実が身を捩る。

 漏れ出でる吐息は、欲を加速させていく。

「りょー、あ、やぁっ」

 唇と舌と指先から与えられる刺激に、優実の頬が朱色に染まっていく。

 快楽に眉を寄せながら、優実が潤んだ瞳で見つめてくる。

「ごはんは」

「いらない」

「だって昨日も食べて……」

「いらない。今は優実を食べさせて」

 下唇を舐め、舌を差し入れ、口腔内を舐め尽くす。

 これで抵抗が無くなるはずだと目論んで。

 唇を離すと、お互いの間に銀糸が繋がる。

 一瞬見つめ合ってから、自由になった両腕を優実が伸ばしてくる。

「もっと、して」

 優実の瞳にも飢えを感じた。

 だからもう、何もかもがどうでも良くなった。

 微笑みながら、ゆっくりと優実の体へ唇を落す。

 観光、なんだっけ、それ?

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