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Papagena  作者: 来生尚
SIDE STORYS
94/99

番外編:「そうだ、京都、行こう」6

【大阪20時45分】


 今野さんはいつの間にか懇親会の会場から消えていた。

 頭の中は「可愛い彼女」の事でぐるぐる。

 可愛い彼女がいるのに、どうして笑いかけてくれたんだろう。

 色んな矛盾を感じながらも、でもやっぱり今野さんのことばかり考えてしまう。

 そうやって悶々としながら飲んでいたのが悪かったのか、体調が悪くなり、懇親会を中抜けさせてもらった。

 一人で帰れる? と心配してくれる同期たちに「大丈夫」と断りをいれ、大阪駅で一人。

 野洲行きの電車が来て乗り込み、タイミング良く座れてほっとする。

 乗り換えの京都まで約30分。

 眠るには微妙な時間。

 ふーっと溜息を吐き出して、ぼーっと車内を見渡す。

 なんかみんな疲れた顔してるなあ。金曜日だからかな。

 あとは浮かれた感じのUSJ帰りの人たち。

 カップルが楽しそうにお土産袋片手に話しているのを見て、うらやましくなる。

 今野さん、USJとか好きかな。

 一緒に行けたらいいのにな。

 きっと無理だけど。

 もう一度溜息を吐き出し、そっと目を瞑る。

 瞼の裏に映ったのは、懇親会のときに見た今野さんの笑顔。

 ダメだなぁ。重症だなぁ。

 同時に「可愛い彼女」の事を思い出し、目を開く。

 あんまり思い出したくないから。

 期待と絶望が同時に湧き上がり、胸が苦しい。

 どうしてとか、でもとか、色んな想いでいっぱいになる。

 眠ることも目を瞑ることも諦めて車窓を見る。

 暗い夜の色と、煌びやかなネオン。

 まるで私の心の対比みたい。


「あれ?」

 思わず口から言葉が出た。

 隣の席のおじさんに怪訝そうな顔をされたので、咳払いをして誤魔化す。

 それよりも、あれって。

 目を凝らして、気になったあたりを再度見つめる。

 私服だったから気がつかなかったけれど、今野さんだ。

 この偶然はなんなの! 神様からのプレゼント?

 一気に気持ちが盛り上がる。

 気持ち悪さも霧散し、眠気もどこかへ吹き飛んでいった。

 どうしよう。

 声かけようかな。それともやめようかな。

 立ち上がろうかと思ってやめ、また立ち上がろうかと足に力を入れてやめ。

 そんな事を繰り返しながらも、今野さんを見つめる。

 ずっとそこに座ってたのかな。

 案外近いところに座ってたのに、立っている人が邪魔になっていて、今まで気がつかなかったのかも。

 大阪で気がついていたら、今野さんの傍にいったのに。

 もっと早く気が付けば良かった!

 今野さんの私服、初めて見た。

 私服姿もカッコイイ。

 グレーのジャケットが今野さんに似合ってる。

 ラフなジーンズもカッコイイ。

 こんな人が彼氏だったらいいのに。

 今野さんは手に持ったスマホを見ながら、時折にっこりと笑みを浮かべる。

 いつもどおりの魅力的な笑みに、心を奪われる。

 私だけに、その笑顔を向けて欲しい。

 どんなものを見ているんだろう。

 メール? SNS?

 今野さんが笑うのは、一体どんなものなんだろう。

 結局声を掛けるタイミングを逸し、そのまま今野さんを観察し続ける。

 手からスマホを離さないけれど、時々画面から目を離して外を見たりもしている。

 今野さんが見ている景色はどんな景色なんだろう。

 振り返って外を見ると、ちょうど駅に着いたところで、駅の確認をしていたのかもしれない。

 あれ、そもそも今野さんどこに行くんだろう。こんな時間に。

 懇親会は早く抜けたから、一度帰ってるんだよね、自宅に。私服だし。

 この時間から出かけるのは何か用事があるのかな。


 この時、偶然私服の今野さんと一緒になったことで、嬉しくて、色んなことが頭から抜けてしまっていた。

 懇親会の時に今野さんが何て言っていたのかすら抜けていた。

 彼女がいるということも。

 彼女と約束があるという事も。

 自分の視界に映る、私服の今野さんというサプライズプレゼントに浮かれすぎていた。

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