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Papagena  作者: 来生尚
SIDE STORYS
90/99

番外編:「そうだ、京都、行こう」2

【大阪18時-2】


 ふと腕時計を見る。

 もうすぐ18時。優実も仕事が終わる頃だろう。

 スマホからメッセージを送ろうかと思い浮かんだけれど、律儀に返事を変えそうとするだろうからやめておこう。

 そのせいで乗り換えがバタバタしたりしてもいけない。

 新幹線が19時10分発だから、その頃にしよう。

 京都に着くのが21時27分か。

 あと3時間半。

 久々に優実に会えると思うと頬が緩む。

 毎日のように電話もしてるし、メッセージのやり取りもしているけれど、会うのは2週間ぶり。

 京都に優実。

 どう考えても似合いすぎる。

 着物、着てくれないかな。絶対に似合うと思うんだけれど。

 でも舞妓の格好は違うんだよな、イメージ的に。

 着物のことは良くわからないけれど、顔を白塗りにしちゃうのは、優実の良さを台無しにしてしまう気がするから、普通の着物がいいんだけれど。

 きっと着物のレンタルなんかもやってるよな。

 でも直前になってからで予約出来るかな。

 その前に優実の希望を聞いておかないと。もしかしたら色々歩いて見て回りたいかもしれないし。

 昼間の紅葉もキレイだけれど、ライトアップしたところもキレイだと言うし、色々優実と見て回りたいな。


 妄想は終業のベルの音で途切れる。

 帰り支度もほぼ終わっている。

 後はパソコンの電源を落して、ジャケット着て鞄を持てば終了だ。

 逸る気持ちを溜息で押し殺して、パソコンが完全に電源が切れるのを待つ。

「今野ー」

 頭上から声を掛けられて、顔を上げる。

 プロジェクトチームの先輩の金子さんだ。

「お疲れさまです。金子さん。何かありましたか?」

 愛妻家で知られる金子さんは、残業をしてはいけない日には誰よりも早く帰る。それこそベルと同時に。

 プロジェクトチームの名物でもある。

 もっとも、プロジェクトチームの主任を任されているだけあって、仕事もものすごく速い。

 だからこそ、名物の光景に誰も何も文句をつけず、ほほえましく見守り、酒の席ではからかわれていたりもする。

 今日は残る理由も無いので、普段なら既にエレベータに乗っている頃のはずだけれど。

 残業禁止の日の終業のベルの後にいるということは、プロジェクトに何らかの問題が発生したということだろう。

 ちゃんと優実に会う時間までに終わるかな。

 そんな心配が顔に出たのか、金子さんは「ちゃうちゃう」と言いながら笑う。

「お前、今日の懇親会出ないんか?」

「そのつもりですが」

「今日はマーケ(ティング部)全体の懇親会やから、もし時間あるなら顔出せって課長がゆうとった。お前そそくさと帰ろうとしてたやろ」

「予定があるんで」

「あー。なるほどなぁ」

 ニヤニヤと笑う金子さんは、僕の事情に明るい。

 だから容易に彼女(優実)と会うという事がわかったのだろう。

「お前が素っ気なーい時は大概あれやもんな」

 こそこそっと声を潜めながら言うのは、本人なりの配慮かもしれない。

 別に隠すつもりはないのだけれど。

「わかっているなら、そういうことで」

 懇親会はすげなくお断りさせてもらう。

 一度実家に戻って着替えをして、荷物も取りに戻りたい。

 実家から京都までは一時間は掛かるから、懇親会に出ていたら約束の時間に間に合わなくなる。

「おいおい。今野。先輩の話はちゃんと聞けや」

「聞いてますよ。だから予定があるから無理ですよ」

「少しでも顔だしとき」

 そこまでしてでも出たほうが良いという事か。

 課やプロジェクト全体の懇親会は何度かあったけれど、部全体のというのは初めてだ。

 確かに顔を繋ぐためにも、ここは出たほうがいいかもしれない。

 課長も金子さんもそういう配慮があったんだろう。

「わかりました」

 21時半前に優実が京都に着くから、実家を20時くらいに出るように考えると、そうだな……。

「19時過ぎには出ないといけませんが、それで大丈夫ですか?」

「あー。今日の会は18時半スタートらしいから大丈夫やろ」

「わかりました」

 パソコンの電源が落ちたのを確認し、ジャケットを羽織り、鞄を手に持つ。

 営業の仕事をしていた時に学んだ、人当たりが良い笑顔を先輩に向ける。

 何故かそんな僕を見て、金子さんはほっとしたような顔をした。

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