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Papagena  作者: 来生尚
SIDE STORYS
89/99

番外編:「そうだ、京都、行こう」1

拍手小話でアップしていたのものの転載&続きです。

【のぞみ125号 広島行き】


 仕事を定時で終えて、なんとか予定通りの電車に乗って、東京駅に着けた。

 指定席を取っているから、新幹線に乗り遅れるのだけは困る。

 それに金曜日のこの時間は、自由席が混みあうから、絶対に指定席じゃないと大変だから。

 明日からの三連休、久しぶりにのんびりと一緒に過ごせるかと思うと、知らず知らずのうちに顔がにやけてきてしまう。

 早く会いたい。

 2週間も会っていなかったんだもん。

 気持ちはウキウキしていても、東京駅の混雑は変わらず不快で、行き交う人を避けながら東海道新幹線の改札口へ向かう。

 もう何度も通った改札を通り抜け、新幹線の駅の構内のコーヒーショップへ向かう。

 毎回ここでコーヒーを買うのが習慣になっている。

 コーヒーとサンドイッチを一つ買ってから、ホームへ行く。

 新幹線に乗れば、2時間半。

 そうすれば、りょうに会える。

 あ。今日は2時間半じゃないんだ。2時間15分。

 いつもは新大阪駅で待ち合わせるけれど、今日は京都。

 紅葉の京都を一緒に見に行く事にしたから。

 せっかく向こうにりょうがいるんだから、向こうにいる時にしか出来ない楽しみを満喫しようって事で。

 新幹線の座席に座り、京都のガイドブックを取り出す。

 たくさん見てみたいところがあるけれど、どこに行こう。

 りょうは好きなところでいいよなんて言ってくれたけれど、お寺とか神社とか好きなのかな。

 それとも紅葉の景色を見るのが好きなのかな。

 今日会ったらゆっくり聞いてみよう。




【大阪 18時】


「ねえねえ、今日の懇親会、今野さん来るって?」

「え? 聞いてないよ。来るのかな」

 もうすぐ定時。

 いそいそとお化粧直しの為にトイレにやってきた同期に聞かれて、今日何度か聞かれた質問に答える。

 隣の隣の担当の今野さん。

 夏前に東日本の支社からここに転籍で移ってきた社員で、とにかく人気がある。

 たまたま同じセクションってだけなのに、いいなーいいなーと言われる事多数。

 確かに見た目もカッコいいし、人当たりもいいと思う。

「でもさー。今日はマーケの部の懇親会でしょ? きっと来るよねー?」

「さー。どうだろう。今野さんってあんまり飲み会参加しないんだよね」

「でもー、部の全体の懇親会で、部課長も揃うしー」

「来て欲しい気持ちはよーくわかるけれど、こればっかりはわかんないよ」

「えー。出欠取った時に聞かなかったの?」

「……今日は本当は東京で会議の予定だったから」

 なのに、翌週に延びたんだよね。

 だから東京出張予定だったプロジェクトチームのメンバーは、全員不参加の予定だったって聞いている。

「出張なくなったんだから、来ないかなー」

「来るといいね」

 ちょっと投げやりに答えたけれど、言葉の棘までは届いていなかったみたいだ。


 アイメイクと口紅を直し、マーケティング部へ戻る。

 終業前のざわざわとした少し浮き足立ったような空気が広い室内に漂っている。

 マーケティング部で全員で200人近くいるはずだけれど、今日の懇親会は出席率が高いらしい。

 普段はあまり懇親会に来ない派遣さんたちも来るようだし。

 多分、今野さん効果だろうなぁ。

 女性たちがチラチラとプロジェクトチームのほうを伺っているし。

 そんなに良いかな、今野さん。

 ちらっと今野さんの方を見ると、たまたまなんだろうけれど、彼が笑顔のままこちらを見る。

 ドキっと心臓が音を立てて跳ねた。

 何かの会話のついでにこっちを見ただけなのに、目が合ったような気がして、ぺこりと会釈すると、会釈が返ってくる。

 胸の中にあたたかいものが溢れ出す。

 嬉しいっ。

 目が合うことなんて、めったにないのに。

 同期には興味が無いふりをしたけれど、本当は誰よりも一番、今野さんに懇親会に来て欲しいと思っている。

 少しでも近くの席に座れますように。

 少しでも傍にいられますように。

 たくさん話が出来ますように。

 そんな願いを心の中に押し込めて、終業のチャイムが鳴るのを今か今かと待ち構える。

 どうか懇親会に来てくれますように。

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