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不屈の七鐘  作者: losedog
第二幕:芸術大国・アサギ編
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間章:そして舞台は整った

質問とか、疑問とかあれば受け付けますとは言っても反応がないのは、みなさんちゃんとわかってるのか、突っ込みどころがありすぎてお手上げなのか……。


自分としては後者のような気がしてどうにも自分の脳みそが不安。

それ以前に読者が少ないか。読んでくださる方、ありがとう!

黄櫨(はぜ)ぇ! 貴様、どういうことだ!?」

「アウグストゥス……ちっとは落ち着かんかい」


 老人二人が会話する部屋、そこには徐々に訪問者が増えつつあった。


「……そこの小僧が担いでんのは浅緋だな? てめぇら、ヤツらを利用すると言っておきながらなぜ浅緋を連れ戻してる?」


 黄櫨と呼ばれた方の老人はその問いに答えなかった。ただ曖昧に笑っただけだ。問いかけたほうの老人、アウグストゥスはその表情で自ら答えを導き出した。


「貴様……味方として利用するのではなくて敵として仕立て上げるか!」

「国のことも考えれば彼らに肩入れするほうが難しい。それは分かってもらえるだろうかご老人」


 天下八絶の全員が集まり手狭となった部屋、そこに生まれた声はまだ若い少女の者。声の下に現れたのは華やかな正装で頭には金の冠を飾った少女が居た。

 彼女こそ、この国の象徴として敬われる存在。

 天子と呼ばれしこの国の創設者、その血統。


「……浅葱(あさぎ)か」

「然様。このような形で面通すことになろうとは思わなんだ。許せ、〝五始祖〟」

「小娘ぇ……」


 アウグストゥスの暴言に反応したのは黄櫨を除く八絶。全てが己の得物に手を添えた。


「ご老人。如何なあなたとて我らを前に無事で済むとは思っておりますまい? 天子の御前で不穏当な発言は控えていただきたい」


 菫の誰何に同調するように彼らから闘気が漏れる。山鳩の肩に担がれたままの浅緋があまりの威圧感に硬直した。

 嫌な緊張感のなか、八絶たちを諫めるために浅葱が口を出そうとしたとき、





「――試してみるか。小僧ども」





 空気が動く。

 部屋の中に相変わらず残るのは老人二人。残りの人間は全てが距離を取っていた。浅葱も茜に抱えられ避難させられている。

 浅葱と浅緋の姉妹はあまりに早業であった退避に驚いたがそれよりも別の衝撃が大きかった。それは、




 ――天下八絶が、逃げた……? 




 七人すべての表情が強張っている。それほどの緊張感。二人には隔絶者たちが老人に何を感じたのかすらわからない。


「…………冗談じゃねぇぞ。黄櫨(じじい)、本当にこの作戦で大丈夫なのか?」


 姉妹二人が見た八絶の変化を表すならそれは――戦慄。

 硬い声で問う山鳩にそのことがハッキリと感じられた。姉妹もまたそれを悟り老人に視線を転ず。


「ふむ。のう、アウグストゥス。世捨て人となって細々と活動し取ったお前が何故あの七人には手を差し伸べた?

 ヤツらに何を見た? 希望か? 期待か? 

 ラルゴを止められなんだワシらに出来ることはもう無いとまで言いきって、一番に去ったお前だ。贖罪のつもりか? 世界を混沌の坩堝に追い込んだ一端は確かにワシらが〝見つけてしまった〟からじゃろう。

 ワシのように後進の育成にすら乗り出さんかったくせにあの七人には短期間で随分と思い入れが激しいのぅ」


 何を言っているのか分かるものは当人たち以外には居ないだろう。浅葱と浅緋に至っては全く、八絶ですら断片しか理解できない内容だ。

 浅緋は他に出来ることもなくただ思考に没頭した。

 黄櫨とアウグストゥス。そして話に出てきた帝国皇帝ラルゴに黄櫨の言う〝ワシら〟。彼らの過去に何があったのか。見つけてしまったという言葉に現在の世界の情勢を招いた一端があるという。いまの会話でどれだけの重大な真実が隠されている?

 そして――五始祖。

 確かに思い返せば帝国の隆盛は異常なほどに短期間である。五十年ほどでここまで大きくなった国が未だ衰えるどころか全盛期とまで怖れられ他国を侵略している。

 魔法帝国、エタン。

 その異名は――魔術大国「闇」の国。全てを飲み込む、貪欲な闇だ。

 各国の魔法の歴史は実は浅い。魔法と言う新技術体系が台頭し始めたのは僅か百五十年ほど前のことである。

 東のブリスコアは元々の科学技術に、西のアサギは伝統に、南のプラデラは魂に、中央の聖都は信仰に。それぞれの秀でたものに、魔法則を見出した。

 エタンの、北の地方は元々国など興らず厳しい環境のなか、各部族の争いが絶えなかったと聞く。狩猟民族同士の衝突だ。技術などなかった。文化などなかった。思想も、信じる者もなくただ争いがあったという。

 あそこに見出されたのはただ人の本質だったと言う。

 そこまで考えて浅緋は背中に悪寒が走るのを感じた。なぜならそれは、



 ――各魔法則と、結びついている?



 自然型(ネイチャー)動作型(モーション)概念型(イメージ)魂魄型(スピリット)精神型(ハート)。今でこそ世界に散らばった魔法使いたちであり、現在では魔法使いがほとんど確認されないブリスコアなどの環境も確認されるが元々は各地方でそれぞれの魔法使いが確認された歴史は、良く知られている。

 科学技術とは解き明かすことだ。彼らは周囲の自然を切り拓くに当たりそれらについて知識を深めることになる。東の魔法は「自然型」。

 伝統とは礼儀作法に始まる。工芸然り、武術然り。受け継がれる技には決められた手順と意味があることを学ぶこと。西の魔法は「動作型」。

 魂とは定義だ。人に、動物に、木に花に。時には物にすら宿ると言われて不可解なことに、形の無いものに名前を付けて属性づける。南の魔法は「魂魄型」。

 本質とは印象だ。一目見て七割がたの本質を人は見るという。残りの三割は付き合いから、伝聞から受け取るイメージだ。決定された印象は絶対の価値観へと昇華する。北の魔法は「概念型」。

 信仰とは心だ。度を過ぎる心は肉体の苦痛すら凌駕する。それは人をまとめる絆になれば迫害する鎖にもなり、極限下にて体力とは別のエネルギーにすら変貌する。中央の魔法は「精神型」。

 各国の魔法史の一文だ。これらの魔法を最初に見付け、体現し、行使したのは誰か、これは魔法史最大の謎とまで言われている。たかが百五十年ぽっちの技術の始祖が不明なのである。

 そして魔法と言う技術体系が当時の世界のバランスを崩す一手となったことは疑いない。

 それらの知識を鑑みて今の会話を振り返ると――、



「浅緋、それ以上は知らん方がいい。今はな」



 黄櫨の声で我に返る。二人の老人は睨み合ったままだ。

 それからどれくらい経っただろうか。一分にも一時間にも思える重い空気の中、ゆっくりとアウグストゥスが語りだした。


「黄櫨よぉ。おれ達は未だに過去に囚われた亡霊だ。そうは思わんか?」

「ふむ。確かに本来ならばワシらの時代はとうに終わってる。それでもこの世界に留まらざるを得なんだ。そのまま人生の幕を閉じれば残った亡霊が何をしでかすか分かったもんではなかったからの」


 それでもお前はただ細々としておっただけではないかと、黄櫨が続ける。アウグストゥスは頷いた。その通りだったからだ。


「さっき聞いたな。ヤツらに何を見たかだと?

 希望?

 期待?

 ヤツらに何を求めるかだと? 贖罪のつもりかだと? バカを言うなよ。このアウグストゥス、何もそこまで耄碌した憶えは無い。

 ヤツらに見たのは――未来だ」

「……ほう?」

「なぁ、黄櫨。おれは自分たちが過去にしでかしたことで、未来に生きるこれからの命に申し訳ないことをしたとずっと思っていた。だからと言って正面からあのバカとぶつかることも出来ん」

「仕方あるまい。あのバカは間違いなく最強で、挑むより残ることで奴の枷になるしかなかったのは皆が同じだ」

「ふん。マイルズあたりはどうか知らんが……ともかくだ。おれ達の過去のおかげで崩れた世界でも、人は確かに生きていく。アルヘオ事変は、魔法と言う技術体系から派生した悲劇の一つだった。

 それでも人は、抗えるのだと。抗うのだと。

 理不尽に憤り、絶望に挑むことが出来るのだと。

 あの時、あの日、あの場所で。おれは確かにこの眼をもってそれを見た。

 超常現象を前にそれでも。人の想いは無価値じゃない」

「お前らしいのぅ。〝想いの煌めき〟」

「ほざけ〝技の源泉〟。未来を望む心は確かに今の世でも人の内にある。ならば過去に世界を揺るがした一人として、その未来を導いてやる手助けをしてやろうと思ったまでだ」


 そこまで言ってアウグストゥスは身を立てる。出口へと向かう足取りを黄櫨は止めようとはしない。八絶は身構えたまま視線だけを彼に固定し動かない。

 浅葱が、


「……ご老人。私の選択は未来のためのものに映るだろうか?」


 対しアウグストゥスは彼女の頭を乱暴に撫でた。


「悩め、小娘。苦渋の決断であれ、想いを殺した決断であれ、心の内を無視した選択なぞ意志ある生き物には不可能だ。悩むというその過程が、想いを殺すというその行動が自らの内を把握している証拠だからな。

 心が無いなどと自分に嘘を吐くのはヤメロ。今回に限って言えば苦悩したという事実が、お前がどんな選択こそすれ姉を、浅葱を思ったことの証明になる」


 浅葱は顔を歪めたのち無言で頭を下げた。

 天子が頭を下げたという事実に周りの八絶が瞠目する。この老人の言葉はいまのアサギにとってどれほどの価値があったのだろう。

 完全に部屋を出て、背中を向けたままで今度は浅葱に言葉を投げる。


「お前の状況は今の世界から見れば不必要だと見捨てられたようなもんなんだろう。浅緋」

「…………」

「そんなお前にヤツらが何と言うか。おれは今から楽しみだ」

「……あそこまで打ちのめされて、それでも来ると?」

「来ないと思うか?」


 半分振り返って見せた表情は獰猛な笑みだ。浅緋は思わずそれ以上の言葉を呑みこんだ。


「さて、小僧ども」


 立ち去りながらに投げかける先は――八絶。


「あれで、ヤツらを叩いたなどと思わんことだ。ヤツらの優しさ(バカ)はそれを妨げる奴にとっては相当厄介かつしつこいだろうよ」

「……それは是非、十二将にこそ言ってもらいたいことね」


 辛うじて白橡が返す。最後に黄櫨が、


「引き渡しは一週間後。この関所がアサギの北西端。その外にある平原にて行われる。待っとるぞ」


 告げた先では振り返らず去る背中。廊下の軋みと共に立ち去る老人は言葉を返さなかった。

 構わず黄櫨は言葉を掛ける。


「ワシは、最強に挑むぞ。どうやら奴は向かっとるらしいからの。ご指名らしい」

「……そりゃあ見物だ、最巧」


 今度は歩みこそとめないが、応答する。この遣り取りに込められた感情を、歴史を、いったい誰が知り得るだろうか。


「時代はアルヘオ事変で確かに動いたの。ワシらも年貢の納め時やもしれぬぞ」

「くくっ……馬鹿を言え。今更死ぬことに忌避感があるのか?」

「ふむ、違いあるまい。ならばこれもまた世界の流れと言うことか」

「種は、咲いたか? 黄櫨」

「お前の眼は節穴か? ここに七つもの至高の花がおるだろう」

「止められるか? あの過去からの悪霊を」

「ワシが負けるという前提は間違いかもしれんぞ」

「どちらにせよおれより先であることは間違いない」

「道理じゃ」


 既に通路の奥、その暗がりに姿の大半を溶け込ませたアウグストゥスが振り向いた。


「だが……種が咲いたのなら悔いはあるまいよ」


 その言葉に、部屋で座したままであった黄櫨が破顔する。


「ようやく、長くはあったが後顧の憂いは絶てたわい」

「羨ましい限りだよ…………一週間後に、また会おう。武技の鬼たち」

「整えた舞台にて待ち受けよう。折れぬ七の福音よ」


 その言葉を最後にアウグストゥスの姿は完全に通路の奥へと吸い込まれる。





     ●





 この後より一週間後、アサギ北西端の国境付近の平原で天子浅葱の帝国への引き渡しが決定された。

 大国の一角がついに帝国に膝を屈するという出来事に世界の関心は向かうことになる。

 後の世に、関所より丑寅の方角にあることから「丑寅の奇跡」と呼ばれることになる事件の舞台はこうして整った。



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