2章:天下往来の隔絶者たち 04
中途半端かと思いましたが、投稿。
あと、あらすじを変えてみた。
し、新規読者とか狙ってないんだからねっ……!
結局、カネミツ達が代金の肩代わりをする羽目になった。
ブルを探している最中に出くわした騒ぎで、全く関係のないことではあったが声を掛けられたことにより周りの注目を集め、無視しづらくなってしまった為である。
「褒めてやろう」
「……もっと感謝の気持ちが籠っててもいいんじゃない?」
騒ぎの元凶となった、少女と言ってもよさそうな小柄な人物が尊大で言い放つので呆れるカネミツであるが。
「さすが、帝国にケンカを仕掛けたお人よしと言えばいいのでしょうか」
その横に立つ、怜悧な印象の女性が放った言葉で一気に空気が張り詰めた。カネミツが何気ない動作でアンナを庇い、その二人より一歩グレイが女性たちに踏み込んだ。
「俺達の事情を知っている人間なんてほとんど限られると思うんだが……何者だ?」
「どうやら我の顔はまだまだ知れ渡っておらんらしい」
グレイの問いに小柄な人物が嘆息すれば、
「あなた、特に名を売るような活動はしていないでしょうが」
腰までの黒髪を揺らして、怜悧な女性が指摘して、
「まぁ、ワタクシたちの個人的な情報はあまり知られておりませんからね」
瞼を閉じた女性が補足する。
カネミツ達は顔を見合わせる。彼らの事情を知っているのであれば、カネミツ達がある程度の実力者であることも知っているはずだ。アルヘオ事変でアンナを帝国の手から救い出したことはマグレでも、奇跡でもないと評価されるべき内容だったのだから。
そのことを知っていて、しかも自分たちの方から接触してきたということは――
「……アサギは私たちに、何か用があるのね?」
「さすがに聡明であらせられる。アンナ・アルヘオ・モリートヴァ王女。世界情勢を鑑みて話をできるのは、この場ではあなたしかいないということを知っておいてもらいたい」
「カネミツ達の力が必要? でも彼らの力を借りるということは諸刃の剣でもあるのよ?」
当然だが「不屈の七鐘」は帝国から追われる身である。彼らを味方とする、力を借りるということは帝国に攻められる理由を与えることにもなるからだ。
「それとも帝国に媚びるために捕えに来たの?」
「王女。早まらないでいただきたいのです。ワタクシたちは何も命を奪うだとか野蛮な目的のためにあなた方に接触したのではありません。だからと言って、あなた方の力を借りたいというのも、実力に関してはそこまで求めていないのです」
では、何故だとアンナは脳をフル回転させる。助力が必要だとは明言しなかった。しかしカネミツ達に害をなす意思はないという。実力は、戦闘能力はそこまで必要とはしていない? 確かにこの国の武人たちは優秀だし、そもそも戦争に参加しろと言われてどこかの国に所属する形で参加するカネミツ達ではない。そのことは彼女たちもアルヘオ事変で感じているはずだ。アンナもこの国はわざわざ「不屈の七鐘」の助けを必要とはしていないだろうと思う。まずは、そのことを確かめてみるべく切り出した。
「…………いま、アサギは帝国との情勢は芳しくない筈ね。私が知っている情報はもう大分最新のものとは鮮度が違うけれど」
アンナが王女として知り得た当時の情報ですらアサギの対帝国戦線は国境を押し込まれ続けていたのだ。
「まさか…………既に主力が国境を越えてきた?」
答えたのは、黒髪の女性だった。
「おっしゃる通りです。しかし、王女の恩人に参戦してもらおうなどとは思いません」
「そうでしょうね。武人の国であるアサギがなりふり構わず助力を乞うなんて醜態をさらすとは思えない。ここは最後の一人まで誇りを貫き通す国だもの」
「王女にそのように評していただくとは光栄の至り。王女の故国も見事な最期でありました。おっしゃる通り、我が国は最後の一人に至るまで帝国の暴力に屈することはないでしょう」
「それに……この国にはまだ、八絶が控えている?」
「然様。お言葉ですが…………王女の恩人程度の実力などは当てにするどころか歯牙にもかけないのが実情でありましょう。それでも接触しなければならない理由があったのです」
その言葉に、アンナは再び考え込んだ。カネミツは何が何やら分からないという顔をしているし、グレイは眉をひそめている。割と頭の回転が速い彼に話が見えないということは知識が絶対的に不足しているのだろう。
彼女たちは、世界情勢を鑑みて話を出来るのはアンナだけだと言った。わざわざ明言したのだ。そこに理由があるのだろう。
「あくまで噂で聞いただけだけど」
「なんでしょう」
「アサギの国主……いえ〝浅葱〟にはよく似た姉妹が一人いると聞いたことがあるわ」
公式発表では六代目浅葱、彼女は先代の唯一のこどもである。
「アサギを訪れた国の大使が、公式の場以外で彼女付きの護衛の中に浅葱と見紛うほどの、瓜二つの少女を見たと噂する小国家群がいくつかあった――アルヘオも、その一つ」
「…………」
「彼女はアサギの古い習わしで、忌子とされる存在――浅葱と双子の関係にあるのではないのかと」
確証はない。だが、その噂が流れた当時。そう噂する国はあまりに多すぎた。当然アサギは否定したが、一時的にアサギ上層部が緊張状態に陥り、アサギを主体とした対帝国体制が揺らぎかねるほどだったことがある。
「忌子と言う存在はかつてかなり危険視されたと聞いているわ。未だ古い習わしを先祖代々の教えとして誇り高く受け継ぐアサギの国柄。もしかして……その忌子、実在するんじゃないの?」
「実在したとして、それがどのようにこの接触に関係すると?」
「帝国に攻め込まれているんでしょう? かなり攻め込まれた現状、帝国から何かしらのアクションがあったはずよ。たとえば――降伏勧告とか、ね」
その単語にギョッとしたのはアンナの傍にいるカネミツとグレイだった。
「帝国は反攻の芽を完全に摘むために国主である浅葱の身柄を要求するはず。賠償金で済ませるほどあの国は甘くない。絶対に併呑するために国の形が残ることを許さない」
それがあの国の侵略国家たる所以なのだからと、アンナは声には出さず口の中で呟いた。
「しかし当然アサギはその要求を呑むわけがない。でも帝国に対して表向きは条件を呑んだと見るべきね。いま、ここにあなた達が居るということからそれくらい推測できるわ」
「何故、そう思われる?」
「大国同士とは言え、体力の差が勝負を分けた。このまま戦闘を続ければ果てるのは間違いないと判断した者が上層部では大半を占めたのでしょう? 一旦矛を収め、反撃の機を待って屈辱に耐えながらも雌伏するべきだとね。
問題になったのは、帝国がアサギに求めた条件だけど」
アンナは一息、一度目を伏せてから真正面、黒髪の女性を見据えた。
「浅葱と見紛う者を差し出せば、帝国を出し抜けるのかもしれないわね?」
「…………よく、よくそこまで辿り着けましたね」
「居るのね? 姉妹が」
「浅葱の姉になります。名を――琴吹 浅緋」
「ここで、あなた達がわざわざ不屈の七鐘に接触してきたことに話が戻るわけだけど…………あなた達、その天子の姉を救うためにカネミツ達を利用したいのね?」
アンナを見返りもなく、感情論で助けに走った者たちだ。浅緋の境遇を見れば同じように動く可能性を否定できない。国の決定にすら逆らって人助けに走る、彼らの立場を利用したいのだ。
では、誰が浅緋を助けたいと思うのか――?
「六代目天子。妹が姉を想うと考えても不思議ではないとは思わない? 国主としての立場? そんなものは不屈の七鐘に接触してきたことから無視してもいい。そもそも彼らがそんなものに捉われない人間なのだから」
「おっしゃる通り。見事です、王女。浅葱はそもそも反対だったのです。未だ一度も参戦しておらず、無傷の八絶が残っているのだから、わざわざ誰かを生贄にする方法を取るべき段階ではないと。それでも感情で国の上層部を握ることはできない。だからこそ、帝国に、この国の浅緋を疎む上層部に、抗う力としてあなた達に白羽の矢が立った」
「それで? 天子の使いとして遣わされるあなた達は、一体何者なのかしら?」
アンナの誰何に、三人の女性が恭しく頭を下げた。名乗りは、まず今まで言葉を交わしてきた黒髪の女性、
「申し遅れました――天下八絶が一人、菫」
続くは目を伏せた女性、
「同じく天下八絶、茜と申します」
最後に小柄ながら尊大な女性が、
「我こそは天下八絶が一人! 名を紅花という!」
堂々と、己の素性を明かしたのだった。
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三人が名乗った瞬間、身体が強張ったのは男性陣のみであった。アンナはさすがに目を細めはしたが目に見えて動揺を悟らせるような動きはしなかった。
それどころか、
「――アンナ?」
「何をしているの、カネミツ。グレイも」
一人、身体から朱のオーラを立ち上らせ戦闘態勢をとったのだ。
「相手はその琴吹 浅緋を助けたいから私たちの立場を利用したいとは言ったけれど、任せるとは言っていないわ」
それがなんだというのかと、表情で語る二人にアンナは教えることにする。
「私たちに動いてほしいのに使者として頼みに来たのでのではなく、託せるのか試しに来たのよ。そうでなかったら天下八絶のような武力の象徴がわざわざ直接来る意味が見出せない」
「……試す?」
「そうよ、カネミツ。あなたに助けられた私が言うのもなんだけど腹が立つわ」
そう、アンナが真っ先に戦闘態勢に入ったのは事情を察し相手の思惑に乗ったためでも、相手の思惑を拒むために排除するためでもない。
ただ、怒っている。
「別に、実力が伴っているからお人好しなんじゃない。覚悟があるから助けるんじゃない。助けたいから、動くのがあなた達なのに。
彼らは実力が無いならお前たちに琴吹 浅緋を助ける資格は無いって言ってるの」
託すとは、相手の能力を見込んで頼むこと。
試すとは、相手の能力が希望に足るかを見極めること。
試した結果、期待に満たなければ託すことはないとそういう考えなのだろう。彼らの性格を利用したいくせに、彼らの優しさを求めるくせに。
「私の恩人をバカにするのも大概にしろっ! 試されるまでもなく、託されるまでもなく、助けたいと思ったなら誰に言われずとも助けに行くのが不屈の七鐘だ! 本当にその琴吹 浅緋という人を救ってほしいならそんなまどろっこしいことしないでストレートに想いを言えばいい!
そんなに私の恩人たちが、信用ならないか!?」
アンナは、この時代には愚かしいほど愚直で目を逸らしたくなるくらいに眩しいその優しさに救われたのだ。
だからこそ、たったそれだけの原動力で見返りもなくアンナを助けに動いたことが、途轍もなく尊い〝強さ〟だと知っている。それを今更試すなどという彼らの態度が許せなかった。
「…………はぁ。先にアンナが怒っちゃったからあんまりとやかくは言わないけれど」
カネミツが身体に青の光を纏わせる。
「アンナが怒ったように、俺達のお人よしは託されるまでもなく、試されるまでもなくおれ達を衝き動かすだろうな」
グレイの身体が表面から白い粒子となって宙に溶けていく。
だが、相手は動じない。
「無礼は承知。それでも力を示してもらわねば納得できない。帝国にアサギ上層部の浅緋排除派。彼らを退け浅緋を助けられるだけの実力があることを示してもらわねば、姉妹を生まれた時から見守ってきた私たちが納得できない」
彼女たち自身が動ければどれだけ楽だっただろうか。しかし天子の思惑そのままに、天下八絶が動くことを良しとしなかったのは彼女たち自身だ。
「力を伴わぬ優しさは、悲劇をより加速させるということをお知りいただきたい、王女」
三人がそれぞれの得物に手を添えた。
それを見てカネミツとグレイも戦闘態勢を取る。遠まわしに、周囲に出来ていた人集りから驚きの声が漏れる。間を置かずに四方八方へと散っていく。
それが合図だったかのように。
六人が一斉に動いた。
あ、遅くなりましたが新しくお気に入り登録してくださった方、ありがとうございます!
文字数とか見ると最早新規の読者は獲得できなさそうな作品ですが、それでも目を通して下さったことに感謝。
ちょっとリアルがごたごたしているので更新が遅くなりがちですが今後ともよろしくお願いします!




