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不屈の七鐘  作者: losedog
第一幕:アルヘオ王国編
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4章:世界に抗う不屈者たち 04

今回、かなり短めかつほとんど戦闘してないです。

すみません……。

 瓦礫とともに重装備で身を固めた帝国兵が何人も宙に舞っている。

 幾人もの男たちが束なり襲い掛かる中心には、長身の女性。

 銀色の髪が翻り、金の瞳の残光が棚引く。


「どうしたっ! さっさと押さえてしまわんか!!」


 他の男たちとは違う黒い鎧に身を固めた男が狂乱の体を現し始めながら怒鳴る。

 それでも女は止まらない。

 ただ、歩を進め。

 ただ、虫を追い払うように手を払い。

 ただ、邪魔だとばかりに溜息を吐く。

 いま、この場を支配しているのは彼女。

 ファン・ムシン。


「全く、邪魔で仕方がないよあんたたち。痛い目を見たくないならそこをどきな。あたしの〝自由奔放(フライハイト)〟はそう簡単に止められるもんじゃあないんだ」


 纏うのは、己が生まれ持った才気。それがファンの加護魔法(プロテクション)の正体。超常の法則により覇気にも似たそれは、帝国兵たちが触れることすら許さない。

 鶏が鷹には敵わないように。

 鷹は決して龍には敵わない。

 彼女は闘うということすら、今の相手には必要としていなかった。ただ前を歩くだけで有象無象は平伏していく。それは人も瓦礫も、有機物も無機物も関係なしに。


「あたしはただ気に入った奴を助けに来ただけ。あたしは、ただ自由にやりたいことをやる。どきな」


 彼女の本質は、カネミツ達のような考え方とは違い寧ろ帝国の法に近いのかもしれない。

 力がある者が行うことに弱者はどのような異も唱えることが出来ない。

 同じように才能を持ち生まれた彼女は、気に入らない物は認めない。

 だが、


「貴様……! 行っていることは我ら帝国と同じようなものではないか! 貴様も力こそが正義だというこの世の真理を分かっているのだろう!? 己の主張を通したくば力を身に付けるほかには無い。それを分かっていながら、なぜ〝敗者〟である王女を助けようなどする!?」

「あんたらと同じにするな。力があるから、他の者を守るんだよ。あんたらのように力で以て押さえつけるんじゃあない。力で以て掬い上げるんだ」


 本質を土台に築き上げた心構えが違う。

 欲求に従い蹂躙するのか。

 心に従い慈しむのか。


「あんたらの法なんて、ただの檻だ。弱者を閉じ込める檻。あたしは自由な女だからね。そんなものを掲げる屑とは相容れない。法を語るんであれば弱者を庇護する盾を実現してから法の番人を名乗りな。

 あんたらのそれは強制だ。

 法ってのは特定の誰かを縛る物じゃなく、誰もが守るべきものだろう」


 ファンの母国はいろんな部族が入り乱れる国だ。その多くの部族がまとまる際、彼らの伝統の違いなども含めて〝大戒律〟と呼ばれる大原則が作られた。誰もが順守すべき最低限のルール。

 だからこそ彼女は知っている。自由を愛するからこそ知っている。

 法とは人から自由を奪い縛り上げるものではない。

 最低限の規律という揺り籠の中で自由を保証するものだ


「アンナがお前らのように誰かを害したか? 寧ろ民のために一生懸命頑張ってきた。そんなアンナからお前らは自由を奪おうとしてるんだ。だったらあたしは逆に自由を与えに行くよ。あたしの中の大原則には、苦しんでる人が居れば気の向くままに手を差し伸べるっていうものがあるから、自由気ままに人助け、やらせてもらうわ」


 にぃっと口角を釣り上げる。


「……法とは弱者の反意を抑えつける、徹底すべき戒律よ。そこに自由など入り込む余地は無し。統一のためには力が必要なのだっ! 行くぞ!」


 最後まで後方に待機していた二人のエヘクトルが剣を手にファンへと襲い掛かる。

 ファンは何もしなかった。

 ただ纏う、風のような覇気が膨れ上がり振り降ろされる剣を受け止めた。


「わかってもらおうとは思ってない。ただ数で、法で、力で、人を縛り、自由の意志に抗しきれると思っている時点であんたたちに国をまとめるということはムリだよ」


 そして〝自由奔放(フライハイト)〟が膨れ上がり二人の男を弾き飛ばした。

 瓦礫転がるその場所に立つのはただ一人、ファンだけだ。

 数にも、法にも、帝国という力にも屈せず、ただアンナへと自由を届けるためにファンは歩みだす。


「さて、あたしの相手は大したことなかったけれど三人ほどやばそうな奴が居たしなぁ。大丈夫かな、あいつら」


 悲惨な状況ともいえる、崩れ落ちた街中を飄々と歩く姿には言葉とは裏腹に何の心配も抱いているようには見えない。


「ヴィオはまず大丈夫だろうし、アスワドはグレイが一緒だから大丈夫か。ブルはやばくなったら逃げるだろうから、心配なのは病み上がりのカネミツか? ベルデがまだ一緒ならいいけど」


 独り言をぽそぽそと呟いていたファンが突如歩みを止めた。すると、


「ま、まて……」


 後方より人の声。それは今彼女が打ち負かしたばかりの男の声だった。


「……どうしてもわからない。教えてくれ」

「何をだい」


 戦闘が終わってもなおこちらを足止めする相手にいい加減苛立っていたが、それでも律儀に相手をする。


「アンナ・アルヘオ・モリートヴァは敗戦国の王族として、何らかのペナルティを受けなければならない。それが戦争のルールというものだ。何のリスクもない戦いなどないだろう。個人の小さな喧嘩から、国同士の大きな戦争に例外なく」


 せき込む声。命に別状はないだろうが話すのは相当に苦しいはずだ。ファンはそれくらいには本気で相手をした。


「今回もそうだ。個人がどう思おうと、これは国という集団による出来事なのだ。貴様らが、どれほど心情的に正しかろうと、大きな集団の意志の前ではたかが知れている。この場を潜り抜けたとしても帝国の追手は厳しくなるばかりだ。本当に助けられるとでも思っているのか?」

「当然じゃん」


 一拍の間もなく返ってきた答えに続いたのは乾いた笑い声。


「くくっ……。そうか。だが今回このような行動に出たということに対して賛成する者が居ても次はどうするのだ?」

「……次?」

「そうだ。もし、あの王女と同じような状況で助けを求める人間がいたならば、どうする? 貴様らが我ら帝国の世界に知らしめる処刑の場において、人を助けたならば貴様らは同じような事態で同様の行動をしなければ、世界は納得しまい?

 なぜあいつだけ。

 あのときは助けたのに。

 自分は見捨てるのか。

 正しい行いとは、いつ、いかなる時も貫き通せることを言う。我ら帝国にはそれが出来る力がある。故に我らは掲げるのだ。〝強者こそ法〟。

 貴様らに、あるのか? 覚悟と力が」


 陰々とした声で語られる言葉はまるでファンに呪いをかけるようだ。言葉の呪縛で行動を、決心を鈍らせるべく放たれる、ゆさぶりの言葉。これもまた強者の攻撃手段だった。


「あんたは一つ勘違いをしている」


 今までの会話で初めてファンは相手の眼を見た。


「あたしたちは、自分たちの行動が正義の行いだとは思っていない」

「……なんだと?」

「自分たちが行うことにいちいち、正しいのか、間違っているのかなんてお伺いを立ててちゃ、何もできなくなる。だからあたしたちは考えない。心の赴くままに自由に行動する。

 正義や悪なんてのは、後で他者が評価するもんだ。

 あんた言ったな? 貫き通す行動が正義だと。じゃあなんで世界は帝国に従わない? あんたらの行いが本当に正しいのなら、誰だって従うはずさ」


 相手は喋らない。ファンの声だけが紡がれる。


「答えは簡単。誰もあんたら帝国を正義だと評価しなかったからだ。

 それともう一つ。次はどうするだって? 助けるに、決まってんじゃん」


 犬歯を見せて、好戦的に微笑んだ。


「賛成も求めてない。

 反対も恐れていない。

 求めているのは、嬉しいこと。

 恐れているのは、哀しいこと。

 友人がこの先も幸せなら嬉しい。

 友人がここで死んでしまうなんて哀しい。

 わかっていないようだから、もう一度言ってやるよ。

 たかが法ごときで、数ごときで、世界最強という国の人間であるという事実ごときで、このあたしを縛れると、妨げられると、抗しきれると、あんたらはそう、言うんだね?」


 それはある意味究極の自由の意志と言えるのかもしれない。迷うことなく、周りを気にすることなく、障害に妨げられることなく、そんなことが出来るならそれは間違いなく自由と言えるだろうから。


「誰だって、より良い未来を望む自由はある。その心を縛ることは、何人(なんぴと)たりとも、不可能だ。あとはその一歩を踏み出す勇気。別にあたしたちが特別なわけじゃない。あんたらは今まであたしたちのようなやつに会ったことが無かったんだろうさ」

「……貴様のバカさ加減は、わかった」


 相手がこれ以上は辛いと言うばかりに、顔を伏し、完全に横たわる。


「貴様の言う自由とやらが、この世界でどこまで通用するか試してみるがいいさ。私の瞼には力に踏みつぶされる様が浮かぶ。せいぜい束の間の幸福に喜んでいればいい。すぐに、我ら帝国の力を思い知ることになるだろうよ。

 ……エタン帝国の力こそ絶対の正義なり」


 そして力尽きた。ファンはただその様を何の感情も含まない視線で貫いていたが、やがて踵を返して歩き始めた。


「力が絶対ならば、人はこの時代に至る前に争いによって滅んでいたと思うけどね。あたしたちがこんなクソッタレの時代でも生きているということは……」


 空を見上げて一言。


「先人たちも、力で決めつけることを良しとしなかったんだろうね」


 人の命を繋いでいくのは、女性であり、次にバトンを運んでいくのは子どもたちだ。どちらも間違いなく〝弱者〟だとファンは思う。自分も女性だが世の女性たちと男性では、種族として、遺伝として単純な力は男性の方が強い。子どもなど言わずもがなである。


「情けは人の為ならずというように、暴虐も人の為ならずなんだよ。この世の中は。幸も不幸も反ってくるもんなのさ。だから幸せが反ってくると書いて〝報い〟と言うんだ」


 ファンは最後にもう一度振り返って、届かぬ言葉を贈った。


「そんなこともわからないから、力で語って力で反ってくるような戦争になるんだよ、ば~か」


話が全く進まない……。

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