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不屈の七鐘  作者: losedog
第一幕:アルヘオ王国編
18/43

間章:亡国の制圧者たち

思ったよりも長くなっちゃいました。


とりあえずどうぞ。


あ、あと全編に至って設定と表記を間違えていた部分を見つけたので変えました。

小将⇒下将

 そこは全体が石造りの部屋だった。そのため漂う空気は冷たい。石と言う材質ゆえに質素に感じられる部屋でも、床に敷かれた赤絨毯が、中央に置かれた四人掛けの木製テーブルが、部屋の隅に置かれたソファーやその反対側に置かれた執務机がその雰囲気を遠ざける。

 今は亡きアルヘオ王国、その王城である。さらにその内部の国王が使っていたであろう来客も想定した執務室だった。その執務机に掛ける少女が一人。背に垂れる黒髪を今はおさげにしている。

 今回のアルヘオ王国侵攻の指揮を執った帝国上将、鱗堂 仄華(りんどう ほのか)である。彼女は部下の報告を聞いていた。


「では、王女はすでにこちらに連れてきた、ということだな? アミナ」

「はい。……ですが」

「ああ。聞こう。あなたが要注意だという人物について、わたしは新任ゆえに知らないのだ。王女がこの国に入っていたその者たちと接触していた可能性があるならば、あらゆる可能性を考慮するためにも知識が必要だ」


 目を閉じ腕を組む姿勢をとる仄華。その態度は十七という若さながら堂に入ったものでありアミナが無駄に縮こまる。


「で、では。え、えぇとまず〝潜影の死神〟についてですが彼女はアサギ出身だと思われる暗殺者です。もともと今は亡き凄腕であった暗殺者の元で育てられたという話からも彼女の潜伏能力や攪乱能力などは世界中を見ても指折りではないかと思います」


 話を聞く仄華はピクリとも動かない。気の弱いものならばこの態度だけで萎縮してしまうほどの不動の態度である。


「そ、その名がよく知られることになるのは天主の暗殺のときです。暗殺自体は達成されておらず、彼女も無傷でこの場を脱しています。彼女の育ての親でもあり師でもあった男はこの件で天下八絶の一人に殺されていますが、彼女はかの八人の目を掻い潜り天主の元へと辿り着きました」


 ちらりと上目づかいに仄華の様子を窺うアミナ。仄華はいまだ動かない。


「なぜそこまで辿り着きながら何もしなかったのかは不明ですが、天下八絶の目を掻い潜れるというのははっきり言って異常です。この件以来行方知れずであった彼女が近くにいる理由も不明ですが警戒が必要であることは間違いありません」


 再び仄華の様子を窺うアミナ。


「うん。なるほど。次は?」


 仄華は身じろぎひとつせず次を促す。


「は、はい……。えぇと〝傭兵将軍ブル″は一人で多数を相手取ることで有名なサギール族の傭兵です。彼がもっともその名を知らしめるのは〝デシエルト戦線防衛戦〟でのことでした」

「ああ……。あの戦いはひどかったらしいな……」


 薄目を開けた仄華は過去を振り返るようであった。そのまま自分の中にある知識を引っ張り出すように続けて語る。


「帝国の西に位置するデシエルト地方において、小国家連合軍の大反攻があったのだな。本国の部隊と任地を変更する隙を突かれたため、数は勝っていても統制がとれず甚大な被害があったと聞くが……」

「それで間違いありません。当時の彼は帝国側に雇われていました。その大反攻の際一人で数百人の相手を足止めしたという記録が残っています」


 アミナの言葉に感心したように息を漏らす仄華。


「それはなかなか厄介そうな相手だな」

「しかし彼の実力が突出していたというわけではなく、彼の戦闘法が多数を相手にするのに効果的だったというのが真相です」


 アミナに顔を向けた仄華は、どういうことだと続きを聞きたがる顔だ。アミナもその顔を見てひとつ頷いてから、話を続ける。


「彼の解放感覚は〝耳〟と〝目〟の二つだと報告を受けています。大規模な魔術の多い詠唱魔術(ソング)や大半が暴力的な能力をもたらす加護魔法(プロテクション)が使えないということからも彼個人が大規模火力を有しているわけでも、一騎当千の戦力というわけでもありません。問題は彼が刻印魔術(サイン)を並列施行することにあります」

「……並列施行?」


 並列施行とは刻印魔術における応用技術である。刻印魔術の欠点は印を刻むという点から大規模な効果を短時間では得られないということだ。〝口〟や〝肌〟まで感覚を解放した者たちからは蔑称として〝ネズミ算〟と言われている技術である。それゆえに使う者は少ない。


「その欠点を補うのが並列施行です。詳しい説明は省きますが、彼は防衛線でおよそ一五〇〇のゴーレムを率いて戦線を維持しました。普通に刻印魔法でその規模のゴーレムを生み出そうと思えば最短でも三日はかかるでしょう」

「なるほど……彼一人で集団戦が展開できるわけだな。いくら実力が突出しているわけではないと言ってもあの防衛線を生き抜いているということはあなたくらいの戦闘力はあるのではないか、アミナ?」

「……そうですね。彼自身も油断できるような人物ではありません」


 そこまで聞いた仄華は再び不動の構えを見せる。次に行け、ということだろう。アミナもわかっているのか深く息を吐き出してから話し始める。


「……最後の人物はもっとも警戒が必要だと思います。仄華上将の前任でもあった帝国十二将、ヴィオレッタ・サートゥルヌス。上将であったためすべての感覚を解放しています。使用する魔法則は〝光〟の魔法則。彼女が帝国を離れた理由は見当もつきませんが、出奔直前に彼女が帝都の王城へと入る姿が目撃されています」

 そこで一旦話を止めるアミナ。そんな彼女の様子に違和感を感じたのか仄華が目を開けてアミナを見やる。彼女の顔は強張っていた。


「……どうした?」

「い、いえ。続けます。彼女が王城に入った日というのは……皇帝襲撃があった日です」

「それは……皇帝と直接戦闘をしたということか!?」


 さすがに声を荒げる仄華に対し、ますます縮こまってしまうアミナ。向かい合って座るソファーにその身を深く沈ませる。


「そ、それは判明していませんが、上層部と何かしらの意見の食い違いがあったことは確かだそうです……」


 アミナが弱々しく言った言葉に深呼吸して落着きを取り戻す仄華。アミナは十二将として他国の人間などと向き合う時はまだマシなのだが、普段は気が弱い性格がはっきりと出ると思っていた矢先のことだ。

 アミナの後方にあるドアが憩いよく開いたのは。大きな音が部屋に響く。


「わわっ!?」

「何を言っている、アミナ下将。ヴィオレッタ・サートゥルヌスは間違いなく反逆者である。意見の食い違いなどという程度の低い問題ではない」


 現れたのは四人の人物。全身隙間なく覆う鎧、顔のすべてを隠す兜。それらには刻印魔法が施されており、四人とも腰に長剣を帯びている。背中にたなびくのは漆黒のマント。


「……エヘクトル……一体なんの用だ?」


 帝国も一枚岩ではない。対外的な力が十二将ならば、エヘクトルは身内をも監視する法の体現者。彼らは制圧後の土地における反攻勢力の鎮圧、有力者の処分などあらゆる制圧地を帝国の色に染め上げる武力を伴った法の番人である。

 十二将は対外的には侵略といった任務を遂行し、それぞれ四人の上将に至っては東西南北の守護も預かるという役割から絶大な権力を有している。

 一方エヘクトルも国内の監視を請け負い、時には同胞を情なく切り捨てる処罰を行うという権利を唯一持ち、あらゆる裁きは彼らの一声で決まる。

 互いに大きな力を持つために彼らの仲は決して良くはない。


「なんの用とはまた異なことを言う。この国の制圧は完了しているのだから我らがここに来てもおかしくはあるまい。報告は見ましたが、上将としては実力が伴っていないのでは、仄華上将?」

「……なにが言いたい?」


 執務室の空気が一気に張り詰める。それをもっとも敏感に感じ取ったのはやはりというか気の弱いアミナである。


「言葉のままだが? 国王などは討ち取ったと聞いたが王女に関しては一対一の状況から逃がしてしまうなど、上将としての実力に疑問が残る。あなたは帝国の剣の中でも最高峰の四人であることに自覚はあるか?」


 エヘクトルの四人が顔の見えない兜の中で失笑を漏らす。対して仄華は無言である。


「まぁ我らが来たからには安心してくれればいい。いくら上将と言ってもありふれた〝炎〟の魔法則を扱う小娘などいくらでも替えが利く。所詮我らが制圧した土地の出身者。もとより期待はしていない。五年前、貴様を取り戻すため皇帝陛下に単身挑み、切り離された左腕とともに崖下へと落ちていった小僧とともに命を落としていても我らとしては何も困ることはなかった」


 その話は初耳だったのだろう。アミナが目を見開いて仄華を見る。しかし真に劇的なのはその直後の顔色の変化であった。エヘクトルの嘲笑に対し、普段は他の評価などに動じない己の上官が明らかに怒気を発していたからだ。アミナの顔色は青色を通り越し白色にまで血の気が失せていた。


「――貴様ら如きが彼を侮辱するな。彼はわたしのかけがえのない恩人であり、支えでもある偉大な故人だ。彼がいたからこそ今のわたしがある。それに」


 瞬間、部屋の温度が急上昇する。それまで仄華を見くびる空気を発していたエヘクトルの四人が息を呑む。それほどまでに圧倒的な威圧感を発していた。


「帝国史上最年少で上将にまでなったわたしが、本当にたかが〝炎〟の魔法則を使うのだと思っていたのか? つくづく目出度い頭をしているな。なんなら今、この場で見せてやろうか? その身を以てな……」


 そう言って笑う仄華の顔はアミナが今まで見たことがないものであった。制圧した土地でも無駄に武力を振るわず、拾える命は拾ってきた上官が余計な殺意を抱く姿など見たくはなかった。彼女が憧れたのはいかなる状況においても自分を見失うことのなかった仄華である。今の仄華は誰が見ても明らかに怒りで我を忘れている。


「……ほ、仄華上将……」


 だからアミナが僅かにソファーから身を起こし、弱々しく声を掛けたのは我に返すためである。エヘクトルはいまだに身動きが出来ない。このままでは本当に殺してしまう。そんな予感があった。


「……」


 無言で腰に吊る二振りの剣へと手を伸ばす仄華。さらに温度が跳ね上がる。アミナの傍のソファーから焦げ臭い煙がたなびき始める。


「ま、待て……」


 やっとのことで動き出すエヘクトル。手で制止を促すが、仄華は止まらない。


「や、やめてください……上将……」


 アミナの声も届かず、ついに光を浴びる仄華の愛剣。


「ほ、仄華上将……上将! やめてくださいっ!! 仄華っ!!」


 アミナの決死の制止を促す声が部屋に満ち、仄華がわずかに反応する。そして同時である。部屋に居る誰もが動きを止めたその瞬間を狙ったかのように、入り口に立つ四人のエヘクトルの間隙を縫って一人の大男が素早く剣を持つ仄華の腕を抑えたのは。


「そこまでだ、嬢ちゃん。こんなやつらに嬢ちゃんの剣を血に汚すこたぁねぇ。……さぁ、ゆっくりと息を吐き出しながら、その剣を鞘に納めな」

「……オルソ中将……」


 もはや涙目のアミナが弛緩したのか勢いよくソファーへと身を沈めた。

 一九〇を超えるだろう中年の男性が仄華の威圧にも怯まずに真正面から仄華を見やる。


「……すまない」


 ゆっくりと温度が低下するとともに剣を降ろし鞘へと納める仄華。


 アミナはその後のことをよく覚えていない。ただ逃げるようにエヘクトルの四人が部屋を出て行ったこと、エヘクトル達の手で三日後にはアンナ王女の公開処刑がなされることはぼんやりと理解できた。


「処刑か……」

「こればかりはもうどうしようもできねぇよ、嬢ちゃん。一対一であちらが嬢ちゃんの話に乗らなかった時点で逃げ切るか、こうなるかしかなかった。嬢ちゃんはできる手はすべて打ったんだ。気に病むな」


 オルソと呼ばれた大男が仄華の頭をこねくり回す。


「わ、わかっている。しかしそれがエヘクトルの監督の下でというのが気に食わん」


 オルソはそれを聞いてにっかりと笑って退室していく。仄華は一息ついてからアミナへ顔を向けた。


「アミナもすまなかったな……」

「……ふぇっ!? い、いえ! わたしは気にしてません! 部下として当然のことをしたまでです!」

「……ふふ。さっきみたいに〝仄華〟と呼び捨てでもわたしは構わないぞ?」

「~~っ!?」


 申し訳ないやら、なぜあんな呼び方をしてしまったのかあの時の自分を問い詰めたいという気持ちやらで顔を真っ赤にして俯くアミナであった。



     ●



 一人になった執務室でただぼんやりと外を眺めている。帝国に来て五年が経った。ついにここまで来れたと思う。上将にまで上り詰め、自分の考えに同調する仲間たちも集めることが出来た。


――だが、まだ足りない。この戦乱の世を終わらすにはまだ()には届かない。


「……目的のためとはいえ、帝国に与している今のわたしを見たら、キミはどう思うかな?」


 帝国が侵略を始めるまでは至って平和だったと振り返る。主に関係が悪かったのは帝国とブリスコアだった。それでも戦闘にまではなっていなかったのだ。


――なぜ、急に侵略を始めた? ラルゴ……。


 帝国の小国家群への侵略が始まったのはおよそ八年前だ。それまで動かなかったのは機が熟していなかったということだろうか。

 いや、それはどうでもいい。やるべきは己の目的のために突き進むことだ。いままで辛い道程だったし、これからもそうだろう。もしかしたら道半ばで倒れてしまうかもしれない。それでも彼に救われた命だ。彼のように使いたいと思う。


「わたしの代わりに死んでなど欲しくなかったよ……。どうしていつもキミはそうなんだろうな? 困った人は放っておけない、キミ自身が困った人だったよ。……何故、何故あそこで命を懸けたんだ? 兼光……」


 外は曇り空。だから雨が降ったのかと思ったが、自分の目に映る水は雨ではなかった。これは何年ぶりに流しただろうかと、このひと時は流れるままにしておこうと思った。

次は第三章。

起承転結「転」の章です。

いわゆる山場というやつです。


いままで起伏のない話が続いたとは思いますが、ここで動く……ことが表現できればいいなぁ……。


読んでくださっている方が面白いと思えるように頑張って書きますので宜しくお願いします!


ご意見ご感想もお待ちしております。

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