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不屈の七鐘  作者: losedog
第一幕:アルヘオ王国編
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2章:辺境の邂逅者たち 04

お待たせしました。

もうしばらくちょっとした説明にお付き合いください。

 そして魔法の指導を始めよう、ということにはなったが、


「で、どうやって感覚を解放するんだ?」

「え? あぁ、それは結構簡単なのよ。要は魔法を使える人が魔法を使うときに、そばにずっといるの。個人差はあるけれど大体第一次解放感覚はこの方法で解放できるわ。第二次からはまた別だけれど」

「……そんなに簡単にできるものなのか?」

「グレイの疑問も尤もだと思うけれど、できるわ。帝国以外ではあまり知られていないのが不思議なくらい。得体が知れないというイメージがあるからなのか、感覚を解放する際も普通とは違う方法が必要だと思う人が多いけれど、最初にも言った通り必要なのは感じるということ。つまり普通は感じられないのなら、感じられるように身体が順応するまでそばで魔法を使い続ければいいの」

「……過去に魔法を使えるようになるまでに一生を費やした人間が哀れになってくるな……」


 グレイの吐露した言葉は、帝国以外の人間がこの話を聞いた際の感想と言ってもいいだろう。魔法は強力だが帝国以外では中々人材が揃わないというのが常識であったため、感覚を解放するためだけの教育機関まで創設した国もあるほどだ。それが「魔術大国」の情報のふたを開けてみれば、特殊な方法などいらず、より近くで魔法に晒されろと言うだけだ。帝国以外の専門家と名乗る人間が聞いたら卒倒しかねない。


「ただ、どんな魔法でも超常のものであることには変わりはない。だから一番安全なのは刻印魔法が施されたものを携帯すること。早ければその日のうちに、遅くとも一か月の間には耳か鼻のどちらかは解放される」


 ヴィオレッタはそこで腰に手を当て一息ついた。


「わたしの役目はここまで。わたしの使う魔法は大体が戦闘用だから危険だし、刻印魔法はあまり得意じゃないから、誰かにバトンを渡すとしましょうか」

「ではわたしが変わりましょう。刻印魔法を施したものならある程度所持しているので」

「ふむ。持つだけでいいのならこの機会に魔法がなぜそこまで重要視されているのかも交えて説明するとわかりやすいだろうの。説明を終えるころにはちょうど夕餉の時刻にもなろう。誰か準備をすればよいのではないか?」


 ブルが女性陣に目を向ける。


「あっはっはっは! 自慢じゃないけどあたしは焼くか油に突っ込むしかできないよ」

「……女性が皆料理できるとは思わないでね?」

「……わたしが説明についても請け負いましょう」

「……おぬしらそれでよく、コキアの将来などと言っておったの……。身を守るすべも必要だろうが、生活のすべはもっとも基本だろうに……」


 そう言って車内の簡易キッチンに向かうブルの背中は、サギールと言うことを差し引いても小さく見えた。


「さて、始めましょうか」


 何事もなかったかのように、ベルデが始まりを告げる。その際懐から小さなペンダントを取り出す。シロツメクサを意匠したものだ。俗に言う「四葉のクローバー」である。よく見るとそれぞれの葉に記号のようなものを組み合わせ、細かく模様が刻まれている。これが刻印魔法で刻まれたものなのだろう。


「コキア。これをあげましょう。ある程度の危険はこれ一つで回避できると思います」

「ありがとう。これにはどんな魔法が掛かってるの?」

「四つの葉にわたしの魔法則による魔法文字を刻んであります。それぞれ気配遮断、暗視、消音、隠蔽の効果を付与されるよう彫刻しました」

「え? ベルデがこのペンダントを作ったの?」

「それも後で説明しますが、魔法が軍事力はもちろん、いろいろな方面で重要視されている理由を説明しましょう」


 コキアに正座で向かい合うベルデの説明が始まる。


「まず過去にエタン帝国といまのブリスコアの前身であった国が戦争をしたことは知っていますか?」


 コキアは首を横に振る。この二国の仲が悪い背景にはこの過去の戦争も関係している。


「今と同じでそれぞれ魔法と科学の敵対でした。科学とは人の知識、その結晶である技術であると考えてください。結果から言うと帝国の圧勝でした。この戦争で魔法は人の積み上げてきた知識、その産物である技術をはるかに上回ることを示したことになるわけです」

「おいおい、ベルデ。難しい説明はやめときな。簡単に実践してみせればいいじゃないのさ」


 あたしもわからないしな、と言い眉を寄せて困ったようにしていたコキアの頭をかき回すファン。コキアの緊張を霧散させる。


「……そうですね。百聞は一見にしかずと言いますし。では」


 己の荷物の中から何かを取り出す。それは、


「……驚いた。今の時代、銃なんてものをよく持っているな。魔法を使う人間にはまず通用しないだろう?」


 それに肯定の返事をしながらブルの荷物を勝手に漁る。引っ張り出してきたのは全身金属鎧だ。よく見るとこれにも刻印魔法が施されている。


「この銃という武器は人の技術の結晶です。この引き金ひとつ引くだけで、拳大にも満たない金属弾が簡単に人の命を奪います。対するはただ刻印魔法が施された金属の板です。鎧、という形はとっていますが」


 そしておもむろに引き金を引く。その鎧に向けて。その銃声に驚く周囲。そして放たれた弾丸は鎧に当たり跳ねかえる……ことなく「ぽすっ」という音を立てて落ちた。


「魔法に対しては魔法しか通じない、というのが常識です。まぁ超常法則と呼ぶくらいなのですから物理法則は通じないでしょう。鎧はなくとも魔法を使う人間は、通常と比べると遥かに物理耐性が高くなっているため効果は小さいです。仮に当たったとしても何かで数センチ刺されるか、高速で何かをぶつけられたくらいのダメージです」


 これは魔法則を感じられるように感覚が順応するとともに、身体能力の面でも順応していくためである。

 銃声を聞きつけて戻ってきたブルが、人の荷物を勝手に漁っていたベルデに拳骨をしてまた戻っていった。

 涙目で頭を押さえるベルデにカネミツが質問する。


「でもさ、その銃にも刻印魔法を施せば鎧も貫くんじゃ? たしかにブリスコアも、その前身であった国も魔法については他の大国より劣っているだろうけど、それでも全く存在しないわけじゃなかったんだろ。それならその技術に魔法を活用することだって出来た筈だ」

「いいところに気づきましたカネミツ。そしてここに、まさに刻印魔法が施された銃があるのです」


 再び取り出した銃は、最初の物とは違い刻印魔法が施されている。そしてまたおもむろに引き金を引き、起こった結果も全く一緒だった。


「……これは銃の刻印魔法の効力が鎧のそれに及ばなかったからと考えていいのか?」

「いいえ、違います。この銃も武器として通用しますよ……ただし、鈍器として、ですが。鈍器としてではなく、ちゃんと銃として魔法を活用したいなら刻印する対象が違ったのです」


 銃が人を傷つける原因は、あくまで発射された「弾」である。いくら銃に刻印魔法を施そうと弾自体は普通なので通用しないのだ。


「こんな小さいものに魔法文字を刻むのは割に合いません。刻印魔法の利点は、魔法文字が消えたりしない限り永続する効果と対象の変質にあります。しかし銃の弾のように消耗品一つ一つにまで魔法文字を刻むには膨大な時間と、すぐに消耗してしまうゆえに利点を殺してしまうという大きな問題があったのです。またこれほどまで小さいと大した効果を付与できないという問題もありました」


 技術の進歩に従って、一回限りの消耗品は増えてきた。だがそれ故に魔法との両立が難しく、そのため魔法と対峙した際に物理法則の域を出られない科学は魔法の前に屈したのだった。

 だから今でもこの世界では、剣や槍が活躍している。そんな中ブリスコアが魔導核という発明を世に出したことは一つの革命といってもよかった出来事だっただろう。


「で、さっきのペンダントはベルデが作ったものでいいのかい?」

そう言うアスワドにちらりと目を向け簡潔に肯定の意を答えるベルデ。

「しかし刻印魔法を使えることと、装飾品や武器に刻印魔法として魔法文字を刻めるのはまた別じゃないのか?」

「へぇ、そうなのかカネミツ? あたしは刻印魔法なんだから同じだと思うけど?」

「カネミツの言うことは正しいですよ、ファン。同じ刻印魔法でも主に使われるのは対象を変容させるものがほとんどですからね。物に効果を付与する場合はまた別に、細工師や鍛冶師などの別の技能も必要になってくるので、機械による大量生産というような科学の利点が全く生かせないことを意味しています。だからそういった品は結構値が張りますよ?」

「えぇ!? そんな貴重なものもらえないよ!」

「それはわたしが自ら作ったものですので気にしなくてもいいですよ。他の皆も何かあればわたしが魔法を施してあげますので、気軽に言ってください。さてコキア。魔法が重要視されている理由はわかりましたか?」

「え、えぇ? う~ん……そもそも魔法自体が人の技術じゃ敵わないし、魔法と作った道具を一緒にしようとしても、機械の手を借りられないから時間が掛かっちゃう、それをできる人も少ないってことだよね?」

コキアは頭を抱えて唸る。そしておもむろに明るい表情で顔を勢いよくあげた。

「……あ、そうか! 科学っていうのは誰でも使える道具を作れるけれど、それじゃ魔法には敵わない。だから魔法を使える人がえらいんだ!」


よくできました、というように微笑んだベルデが言う。


「えらい、という言い方はちょっと違いますが……優遇されるといったところでしょう」

「よっしゃ! よくやったコキア!」

「きゃっ!? く、くすぐったいよファン!」


 ファンがコキアを抱きしめて、揉みくちゃにする。

 魔法の知識についてはヴィオレッタが、それ以外の知識などは主にベルデが担当し、皆の食事はブルが傭兵時代に培った腕で簡単なものを作る。

 そのほか護身術についてはグレイが請け負うことになった。そしてコキアがブリスコアの出来事を思い出したりするためか、ふと雰囲気が沈むとアスワドがムードを明るくする。ファンはよくコキアとじゃれついてリラックスさせている……というよりしていると言ったほうがいいのだろうか、ともかくそんな彼らを一歩退いて眺めていたためか、なぜか相談や最終的な決定についての意見などをよく聞かれるのはカネミツになっていた。彼らは出会って間もないながら、まだぎこちなくではあるが助け合いアルヘオ王国跡地へと進む。

 そして翌日。目的地までもう一日という林道に入ったところで彼らも予想にしていなかった出会いが起こることとなる。

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