2章:辺境の邂逅者たち 01
第二章をお送りします。
やっと少しずつ状況が動き始めたのではないかと思います……。
いろいろ戦闘なども一応構想はあるのですが、そこまでたどり着くまでの状況説明や登場人物の邂逅など書きたいことが多すぎて……。
魔法の設定についてもまだですしね……。
前書きが長くなりました。それでは第二章、どうぞ!
カネミツたちがコキアを助けた日から二日が経っていた。あれからアウグストゥスのもとで身を隠し、騒ぎが収まるのを待つつもりでいたカネミツたちだが、だれにも思わぬ形で事態は――というより、世界の情勢は変化した。
アルヘオ王国にエタン帝国侵攻。今日その報せが世界中を駆け巡った。
アルヘオ王国は小国家群のなかでも高い国力を有していた国だった。魔法を使えるものは少なかったが、ブリスコアと国交も行っており魔導核を所有していたので保有する軍事力はなかなか目を見張るところがあったのだ。
しかし各国のその評価を覆すようにエタン帝国はわずか一日でアルヘオを陥落させてしまう。
「……評価すべきは帝国の軍事力というよりも、今回のアルヘオ侵攻を請け負った新任の上将を評価すべきか」
街の売店で入手してきた情報誌に目を落としながらアウグストゥスが呟く。
彼の周りではその仲間たちがいろいろと会話をしている。カネミツはそんな彼らを見ながらコキアとアスワド、ブル、グレイとカードゲームをして暇をつぶしていた。
「帝国に負けちゃったって言っても、この国じゃないんでしょ? どうしてみんなあんなにピリピリしてるの?」
コキアの疑問に答えたのはグレイ。
「アルヘオはブリスコアと隣接する国だからな。まず、すぐ隣の国が無くなったことで人々の生活にも影響が出てくる。魔導核と交換で食料をもらっていたからまずは食事制限が出るかもしれない。つぎに、今までの友好的だった隣人との仲が、急に悪くなるということ。いつこの国も戦闘状態になるのか、皆気が気でならない。そしてこれが最も大きいが……各国の首脳陣が共通認識として抱いていたアルヘオの国力を、圧倒的にねじ伏せられる力を帝国は持っている。帝国は、お前たちなら手こずるだろうと思っていた相手を軽く叩けると各国に示したことになる」
子どもに対して一応わかりやすく言っているのだろうが、それでも戦争による影響の話などコキアに理解できているのだろうか? そう思いつつブルの手から一枚カードを引く。
「うーん……つまり今までもらってた食べ物がもらえなくなるから、みんなに食べ物が分けられなくなっちゃう。そして友達だった人がいきなり魔物のように危険になっちゃって、自分たちがあの人は強い! と思ってた人を、ほかの人が簡単にやっつけっちゃったから焦ってる、ってこと?」
カネミツはブルとアスワド達と顔を見合わせる。この二日で薄々わかっていたがこの子は呑み込みが早く、思考も柔軟だ。何よりも賢い。環境が環境なら、――教育機関などに通えていたなら間違いなく、かなり優秀な成績だっただろう。
「……そのような考えで間違いではない」
グレイもコキアがなかなかの理解力を示したことに、それなりの驚きを抱いているようだ。
まぁ一部分しか説明していないというのもあるだろう。難民の問題などほかにも大きな問題は出てくると予想もできる。
コキアとグレイを中心にそのような話をしていると、アウグストゥスたちと混じって話をしていたヴィオレッタ、ベルデ、ファンの女性陣がこちらにやってきた。
「どうやらわたし達もこの国を出ることになりそうね」
「どういうことさ、ヴィオ?」
「そうだな。ワシもいずれはこの国を出るとは思っとったが、コキアの問題がまだ何も解決しておらんではないか?」
男性陣の疑問を代表するようにアスワドとブルがそう尋ねる。
「それも説明するわ。まずこの国を出ることになったきっかけだけど……」
「帝国の侵攻だろう? だがこの国も大国の一国だ。そんなに慌ててこの国から避難する必要があるのか? むしろいまはすぐに国外へと行くほうが危険だと思うが……」
カネミツが自分の考えを述べる。ヴィオレッタもその考えはわかっているのだろう。ひとつ頷いてから話を続ける。
「一つ。まずわたし達がこの国を出るのは避難のためじゃないということを、皆知っておいて頂戴」
「ま、仕方ねーんだろうけどな」
ファンが合いの手を挟む。
「皆も知っての通り、アウグストゥス達のこの集団は、戦争などで被害にあった土地に行ってはいろいろボランティアみたいな活動をしているわ」
ここでヴィオレッタが「みたい」と付けたことには理由がある。ボランティアもアウグストゥス達の行動も善意の行動であることには間違いない。しかしこの二つには決定的な違いがあるのだ。それは許可を得ているか否か。
通常そういった行動をする際、そこの土地または手伝いに行くイベントの責任者達へ、手伝う旨や手助けをすることをまず申し出なければならない。その旨を相手側が了承し、初めて胸を張って「認められた善意の行動」となるわけである。
ところがアウグストゥス達には許可などもらえる筈がない。いま元アルヘオの土地は帝国の支配地だ。そこへ彼らが原住民達を助けたい旨を伝えてもまず了承されないだろうからだ。
主な理由は二つ。
一つは、彼ら現住民は侵略された側として不安があるため、何とかその土地を離れたいと思っている者が多い。しかし帝国側としては、彼らを今後は帝国の人材として使いたいのだ。徴税・徴兵、そして戦闘によって崩落した土地の修繕など事後処理にも、帝国の人間だけよりも現地の人間がいるほうが捗るため、帝国は彼ら現住民の流出はできる限り防ぎたい、というのが実情である。
そして二つ目は、もしアウグストゥスたちがそういった善意からくる行動を帝国に申し出て、帝国が了承したとしよう。すると帝国は自ら、アルヘオ王国を害したことを公に認めることになる。彼らは国として掲げた理由から侵略を行っているのである。原住民からすれば堪ったものではないが、帝国としては大きな目的のために必要であることなのだ。そう、帝国にとっては「侵略」ではなく「統一」。自分たちが正しいことを貫くために、同情などからくる善意の行動は認められない。
認めるならば帝国の目的を「是」とする善意からくる献身。分かりやすく例を挙げるならば義勇兵だろうか。アウグストゥス達が抱く善意とはまた違った行動になるのである。可哀そうだから、辛いだろうからといった善意は、帝国の目的を否定していなければ湧いてこないのだから。
ゆえに彼らの善意は「一方的」なのである。それを安っぽい正義と言うか、あらゆる環境、柵に屈しない人間性と言うかは人それぞれだろうが。
「アウグストゥス達は今回のアルヘオ陥落を受けて、アルヘオ王国跡地へと向かうことになったわ。目的は原住民の避難。何も全員を助けようというわけじゃなく、本当に逃げ遅れて困っている人たちの支援ね。自らの意志で残ったり、ただ逃げることもせず状況に流されるままに滅亡した王族を詰る人は除外。まぁそういった人の見極めは彼らが一日の長であるから任せることになる。ここまで言えばもうわかってきてるでしょう?」
「……つまりおれ達もその活動に同行することになる、と?」
「そうよ、カネミツ。この国を出るにしてもあの騒ぎからまだ二日。いくら帝国の侵攻で大きな波紋が広がっているとはいえ、流石にまだわたし達は胸を張って表を歩けるとは思わない。だからアウグストゥス達の出国に紛れて同行するの」
「しかしその活動まで参加する意味はあるのか? ワシ達も出国後それぞれ解散という選択もあると思っとったが……」
「ブルの言うことも一つの選択でしょうね。でもそうすると……最初にあなたが言ったように、コキアはどうするの?」
「あ……」
そこで皆がコキアのほうを見る。コキアは不安そうな顔をしていた。
「この子を助けてそれで終わり、というわけにはいかない。コキアは武国化政策によって技術院に連行されそうになっていたのよ? まさか一人でこれからの生活をやっていけるとは思えないし、コキアを保護するならアウグストゥス達のこの集団は打ってつけでしょう。それでもコキアを助けたのはわたし達、七人。コキアが自立できるまでの責任はあると思わない? そしてその責任を果たしていくならば、わたし達もアウグストゥス達と同行していくことがベストよ」
「なるほど。助けるというならば確かにあの場だけでは助けたとは言えないかもな。この後もコキアの面倒を見ていくことも、おれ達七人があの場で選択した〝人助け〟に含まれる。コキアの将来まで面倒を見て初めて助けた、と言えるのかもな」
グレイの言葉にベルデが頷いて言い添える。
「そもそもこのままコキアと別れることは気が進みません。しっかりコキアの今後についてもしっかりと責任を果たすべきでしょう」
そしてコキアをギュッと抱きしめる。抱きしめられたコキアは顔を赤くして「あうあう」と慌てている。これからも皆と一緒に居れる嬉しさと急に抱きしめられた恥ずかしさで、その心情が言葉にできないようだ。
「まぁそういうことね。まさか皆、このままさよならなんて言わないわよね?」
話をそうまとめるヴィオレッタ。
「この国で出会ったのも何かの縁だろうし、気が済むまで付き合うよ!」
「わたしは先ほども言った通りです。あの場で助けに入った責任はまだ果たしきれていません」
「ふむ。そのようなことを聞かされれば、ワシも最後まで付き合うのが最善だろうの」
「キシシ。楽しいことはあたしがいろいろ教えてやるから、将来は明るくなるぜ、コキア!」
「コキアの面倒を見ることで己の存在価値の一部分を見出すのもアリかもな……」
「そんな理由付けをしなくても最初からそのつもりだったろうに……」
「グレイもあなたほどのお人よしには言われたくなかったでしょうね、カネミツ。とりあえずは決まりね。出発は今日の昼過ぎ。もう五時間ほどしかないわ。準備を急いだほうがよさそう……と言ってもわたし達にはそこまで準備に時間がかかるものもないから、あとは情報の整理と、アウグストゥス達の荷造りの手伝い。それにあっちに着いてからの基本的な活動の把握と言ったところかしら? 必要なものはアウグストゥス達に頼めば、食料の調達などのついでに請け負ってくれるそうだから何かあれば彼らに。皆の方からは何かある?」
その最後の言葉に手を挙げたのは意外にもコキアだった。
「ん? 何か欲しいものでもあった? それならわたしの方から言ってくるわよ?」
「ううん。そうじゃなくて……。皆、ありがとう」
コキアはその言葉を、まるで花が咲くような笑顔とともに言った。その言葉にカネミツたちが見せた反応は、
「……この感謝の言葉と、笑顔が見られることがあるから、お人よしはやめられないって言ったらどう思う?」
まさに同意せざるを得ないという、苦笑であった。




