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「帽子っていうのは、一般的に思われている以上に頭を守るのに役立つんだぞ」

 克磨かつまは言う。

「プロのピッチャーのボールならわかるとして、地区大会一回戦止まりのうちみたいな野球部に、そこまで威力あるボールを、しかも補欠投手なんかが投げられるとは思えない」

 あからさまに酷いことを言っているが、克磨の意見には一理ある。伏垣ふしがきくんは小柄で、そう速いボールを投げるようには思えない。

「君は、何が言いたいんだ?」

池幡いけはたさんが気を失った原因は、ボールなんかじゃない。もっと他のもの。もっと殺傷力のあるもの」

 剣呑な単語が飛び出し、思わず苦笑いを浮かべてしまった。

「殺傷力ってなんだよ? まるで殺意があったみたいじゃないか」

 私が言うと、克磨は「殺意ねぇ」と興味なさそうに言った。

「殺意は、まあ、あったのかな」

 さりげなくトンデモナイこと言ったぞ、コノ子?

「何言ってんの?」

「最初は事故だったんだと思う。だけど、最終的には事故だけじゃなかったんじゃないかな?」

 克磨の言っていることはよくわからなかった。最初は事故で、それから何かが起こったとでも言うのだろうか?

「だってさ、だって……まあ、ボクが今言ったボールによって出血が起こっていないとすればだよ、いったいどうして池幡さんは出血していたんだと思う? それも頭部周辺の地面一帯にも及ぶほどに?」

「それは……」

 もっと力のある何かで殴られたから? でも、何で?

「思い浮かばないだろう? 倒れたときに頭を切ったって言うのも考えられるけど、出血は帽子で守られている個所からだった」

 そんなものを確認していたのか、コノ子。

「それに、そうだとしたらわからないことがある。何かで殴ったとして、血がその何かについてもおかしくない。何かから血が地面に滴り落ちてもおかしくない。辺りにも血の跡が残っていてもおかしくない。だが、なかった」

 そう言われて試しに思い返してみると、確かに血は彼女の頭部周辺にしか見られなかった。かつ、あの校舎裏で不自然に血のついていたものはなかった。

「殴った何かがあるはずだけど、あの場所にはなかった。隠したのか持ち去ったのか」

 校舎裏にはものを隠すような場所はなかった。それに校舎裏へ通じる校庭からの通路もしかり。ただの一本道だから隠すような場所はない。

「持ち去ったのかな?」

「こればっかりは伏垣くんが離れて、大条だいじょうがやってくるまでどれくらい時間があったのか次第だからな。でもまあ、持ち去ったらどこかしらに血の跡は残るだろうから、たぶんないだろうけどね」

「えっ? じゃあ、君の考えはそこでストップじゃないか」

 堂々巡りをはじめている。克磨は考えすぎなだけで、本当のところボールが原因でしかないのではないのだろうか?

「例えば血を拭ったとか」

 克磨は目線だけをこちらに向けた。私は思わず背を正した。

「でも、何で?」

「着ていた服とか」

「ナンセンス。血がついていたのは池幡さんの帽子だけだよ」

「雑巾とか」

「なんで?」

「なんとなく」

 克磨はそっと立ち上がり、背伸びをした。

「ちょっとゴミ捨て場にいってくる」

 突然そんなことを言ったかと思うと、早速実行に移していた。

「ちょっと待ってよ! 私もいく!」

「来てもいいけど、オマエには他にやってもらいたいことが今浮かんだ」

 なんだかちぐはぐな言い方をする。私は首を傾げながら、「それって、ついてくるなってことでしょ?」と聞いた。克磨は頷くと、「伏垣くんを足止めしてくれ」と言った。

「もうそろそろ伏垣くんは解放されてるだろう。もういなかったら仕方ないけど、いるんならボクが戻ってくるまで生徒指導室の前で留めておいてくれないか?」

 簡単だろう? そんな顔をした。

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