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 金重(かなしげ)光羽(みつは)さんは、一年生のときに同じクラスだった。諦観したような眼差しをしながらも、体育の時間では他の人より活動的だった記憶がある。なるほど、体育会系だったのか。

 彼女も伏垣くんがここで練習していることを知っていた。池幡さんが伏垣くんを問い詰めたとき、いっしょにいたらしい。金重さんもクラスメイトだとか。

「校舎裏に着くと、血を流して横たわってる池幡を見付けたんだ。それから間もなくして道具の点検をしていたマネージャーの一人である金重もやってきた」

 そう大条くんは説明を続けた。

 金重さんはバットが一つ足りないことに気付き、池幡さんか伏垣くんが知っているんじゃないかと思ってきたらしい。

「バット? そのバットは見付かったのかい?」

 克磨の問いに、「さっきまでの騒ぎがあれば、見付かってないことぐらいわかるだろう。探してすらいないんだから」と大条くんは返した。

「それもそうか。盗難じゃなきゃいいな」

 そんな心配をしていたらしい。


「ああ。……まったく、大会近いのに面倒なことになりやがって」

 大条くんは舌打ちをする。どうやらお話は終わりらしい。でも、あれ?

「そういえば、伏垣くんは?」

 口をついて出た。克磨と大条くんが私のことを見る。これまで私はその場にいながらにしていなかったようなものだけに、二人からしてみれば意外であったのだろう。でも、仕方ないじゃないか。最初から今まで、その伏垣くんを見かけていないことに気付いていしまったのだから。

「ふーん。そういえばそうだな」

「伏垣なら生徒指導室だよ。顧問にそのまま話を聞かされてる」

 言われてみればあたりまえか。

「じゃあ、あとで伏垣くんにも話を聞いてみようかな」

 ぼそり、と克磨は言った。思わず聞き逃してしまいそうだった。

「ちょい待てよ、武登! 何しようとしてんだ?」

 大条くんが憤然たる様子で克磨に迫った。私もなぜそこまでするのかわからず、克磨の口元を見た。

「何って、もっと詳しく聞きたいからだよ」

「話しただろう! 伏垣の気持ちを考えてみろよ! おまえ、楽しんでるだけじゃねーか! いいかげんにしろよ!」

 マシンガンのごとく大条くんは克磨を怒鳴った。……大条くんの言い分ももっともだし、これから私が克磨に言って聞かせようとしたことだけど……さすがに克磨がかわいそうになった。

「うるさいな。野次馬根性って言葉知ってるか? 日本人特有の性質の悪い性質だ」

 思考改正。やはり克磨は悪く言われて仕方ない。コウイウ子ニハ、仕方アリマセンッ!

「たわけがっ!」

 なっくるッ! 捻れを加えた左ストレートを、軽く克磨の右頬に喰らわせた。もんどりうって克磨は仰け反った。ザマァミロ。

「何すんねん!」

「黙っとけっ! もっと君は人の気持ちがわかるようになりんしゃい!」

「オマエこそ人の痛みを知れ!」

「嫌な思い出を掘り起こされるのは嫌でしょ! わかった!」

「ブーブー!」

 我ながら頭悪いやりとり。ほら、大条くん退いてるし! なんだか目線が冷たい……! 咳払いをしてみる。

「か、克磨は私が止めときます。お騒がせしました!」

 むんずと首をぞ捕まえて克磨に一礼させると、そのまま引っ張っていった。恥ずかしくて大条くんの表情なんて伺えなかった。

「はーなーせーやー!」

「あーほーいーえー!」

 こうして私と克磨は大条くんの前から退場した。


 して、部室。膨れっ面の克磨と二者面談のように向かい合っている。

「まったく。君はいつもマイペースというか自己中というか。むしろ事故中?」

「うるさいな。オマエには関係ないだろう」

「うるさいな。いっしょにいる人の身になってみろよ」

 克磨は頬杖を突いてそっぽうを向いた。

「そういえばさ、大条くんとは友達なの? 話してるところを見たことないけど?」

「それはオマエの間が悪いからだろ。アイツとは三年間同じクラスなんだよ。アイツは強打者でさ、うちの野球部の四番らしいんだ。それでキャプテン」

 なるほど、だから威圧感のようなものがあったのか。

「ありえないと思うんだ」

 ぽつり、克磨は呟いた。何か大切なことを言うとき、いつも突然、独り言のようにして彼は言いこぼす。

「何が?」

「硬球とはいえ、帽子を被った頭にボールがあたったぐらいじゃ、あそこまで出血するとは思えないんだ」

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