二
騒ぎのもとは、人気など建築当初から期待されていないという感じの校舎裏にあった。校庭から校舎とフェンスのあいだの一本道を抜けていった先にある。
校舎裏は不思議な場所だった。校舎とフェンスに囲まれた長方形の空間で、フェンス沿いに茂った木々の葉の隙間からこぼれた陽が、細々と地面を照らしている。なぜか野球部が練習でよく使っているバッティングネットが一つあり、その周りに硬式ボールが散らばっていた。中には、遠くへ転がっているボールもある。
バッティングネットの前に人が集まっていた。集まっていたのは野球部の人たちだった。白いユニフォームが、校舎の影と初夏の陽射しの中にむごむごと浮かんでいた。
克磨は人だかりの外にいて、私のことに気付くと近寄ってきた。
「なんでもない。帰るぞ」
ぶっきらぼうにそう言うと、私の手を引いて今来た道を戻ろうとした。素直に従いはせず、私は踏ん張ってその場に立ち続けた。私の手を引く克磨の力が増した。それになお歯向かって、人込みへと目をやった。人と人の隙間から、彼らが何を問題にして集まっているのかが覗けた。
彼らの中心で、野球部の帽子を被ったジャージ姿の女の子が倒れていた。垣間見えた彼女の右側頭部から血が流れ、彼女の頭部周辺の地面に赤い円が描かれていた。陽で照る砂の白と、木陰で陰る黒が彩る校舎裏の地面に、一箇所だけ赤色のグラデーションが施されていた。
「いったい、何があったの?」
誰に問うわけでもなく、私は呟いていた。いやそれは克磨に問いかけたものかもしれない。克磨なら、私の問いぐらい簡単に答えられると思ったから。
「わからない。けど、まだだ」
声の方を向くと、克磨は無表情に張りついた目で私を見ていた。克磨の言うことを聞いておけばよかった、と後悔した。
「おい、武登、見世物じゃないんだ! 下がれ!」
バットを担いだ野球部員の一人が克磨に怒鳴った。バットの銀色が太陽光に照って眩しい。
「そうだな、悪かった。晩家さん、ほら」
庇護するように私の名を呼んだように感じた。繋いだままの手を引いて、私を問題の外へと導いた。
輪の外へ出ると、救急車の音が低く聞こえてきた。その音はだんだんと高くなった。