一二
不祥事を起こした高校が、公式大会の出場停止をくらうという話は、マンガやニュースでよく耳にする話題だ。
「大条は金重さんが池幡さんをバットで殴るところを目撃したか、そのすぐあとにやってきたんだ。それで、思ったんじゃないか? これがバレたら、大会に出れなくなるって。だから、隠した」
克磨の声が止まり、その場に静寂が訪れた。大条くんと金重さんは目を合わせると、互いに俯いてしまった。かといって私が何か口に出せるはずもない。
「ちょ、ちょっと待って!? ね、ねえ、いったいこれはなんなんだ? 本当なの? どういうこと? わけがわからないんだけど? 大条くんも金重さんも、そんなことないだろう?」
沈んだ空気に響いたのは伏垣くんの声だった。だが、問われた大条くんと金重さんは何も答えない。
再度沈黙がおり、伏垣くんも口を噤んだ。一所に落ち着かない目が私に注がれ、そこで落ち着いた。私はなんと言っていいのかわからなかった。
ひとしきり克磨は私たちを見回し、「じゃあ、続けていいかな」と空気を読んだ克磨の声が場をふたたび混沌へいざなった。
「バットは、池幡さんが持ってきたんだ。伏垣くんの投球練習に付き合うためにね。これは、伏垣くんが証言してる。そして、血を拭ったバットは、あの場所にちゃんとあった。大条が、担いでいたんだ」
私はきらきらと太陽光を反射していたバットを思い出した。
すでに話す気力をなくしているように思われる大条くんと金重さんは、克磨の言葉を呆然と聞いていた。伏垣くんだけが視線を忙しなく移しており、話から取り残されている感があった。
彼の戸惑いはわかる。仲間に大怪我をさせてしまったと思っていたら、真に悪いのは君じゃないと言われているのだ。それも真に悪いと糾弾されているのが仲間なのだ。
「それじゃあ、詰めだ。伏垣くんの暴投で頭にボールを受けてしまった池幡さんは転倒する。転がっていたボールで足をとられたんだよね、伏垣くん?」
伏垣くんに同意をも求め、伏垣くんはそれに首肯を返した。
「倒れた池幡さんは気を失い、伏垣くんは助けを呼びにいく。それと入れ違いに、金重さんは校舎裏へ来た。違います?」
目を金重さんに向けた。金重さんは弱々しく頷いた。
「マネージャーの仕事に戻ってもらうために呼びにいったのよ。校舎裏への道のそばで伏垣くんが部室棟へ向かうところ見たけど、伏垣くんは気付かなかった。校舎裏へいってみたら、池幡さんが倒れていて、近くにはバットが転がっていて、そう。私はそれで、池幡さんの頭を殴った」
淡々と金重さんは言った。