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 部室のドアを開けると、そこにはいつも通りの風景が広がっていた。

 そこらに出しっ放しの椅子。掃除の途中のままで片されていない机。山を崩して散らかったままの書類。箱から溢れて転がったままの軟式野球ボール。

 椅子三つを使って仰向けに寝ている武登むと克磨かつま

 私はそれを見て深呼吸を一度して、肩からかけていたカバンを手に持った。

「放課後からいきなり何しとるんじゃ!」

 思い切りカバンを克磨の腹に放り投げた。グヘッ! と叫んで、克磨は椅子のベッドから転がり落ちた。

「……暴力女」

 よろよろ立ち上がって克磨は呟く。私は克磨とともに転がった自分のカバンを拾い上げて机の上に置いた。

「今まで期末対策を友達としてきた私に対して、呑気気ままに寝ていた君が悪い」

「うるせえ。オマエの都合をボクに押しつけるな」

 私と克磨は向かい合うように椅子に座り直した。克磨は右膝を立てて摩っていた。ぶつけたらしい。摩る仕草がおかしい。

「何笑ってんだよ?」

 頬が緩んだのを目ざとく指摘された。

「なんでもないよ」

 克磨はフンッとそっぽうを向いた。だから、そういう仕草が笑いのつぼなんだって。

「オマエ、本当に気味悪いぞ」

 あからさまに椅子を引いて、わたしから距離をおいた。心なしか傷付いたが、克磨にそんなことをいちいち文句たれても仕方がない。

「というよりさ、君はこの時期に部室で昼寝してるって、いったい何者だよ? 必死に勉強してろよ」

 埒のあかない話をしているのもなんだから、話題をかえた。

「どんな時期の話をしてるんだ、オマエは? まだテスト一週間前じゃないか。必死になる方がどうかしてる」

 ハラタツ。

「くたばればいい」

「はいはい」

 呆れたように克磨は溜息をついた。

「ところで、オマエは何しにきたんだよ?」

 いったん座った椅子から立ち上がって克磨は聞いてくる。そのまま床に散らばった書類を集めはじめた。私はそれを手伝うことにした。

「何しにって、テスト勉強をしにだよ。家だと集中できないから」

「さっきまでお友達さんとしてたんじゃないのか? そこまでオマエはまずいのか? ご愁傷様だな。赤点で卒業できませんでしたなんてことにならないようにしろよ」

 私は厚さ一ミリほどになった書類の束で克磨の頭をはたいた。

「言い返せなくなると腕力に訴えるのは、女の子としてどうかと思うぞ」

「男女平等」

「じゃあ、ほれ」

 と、克磨も書類の束で私の頭をはたいた。

「女の子に手を上げるなんて!」

 とりあえず女の子らしい反応を見せてみるが、「男女平等」と予想の範囲内の答えが返ってきた。

「そんなことより、外、騒がしくないか?」

 窓の方を向いて克磨は言った。耳を澄ますと、人の怒鳴り声が聞こえてきた。

「見にいってくる」

 いつもは自分から動こうとしない克磨が、それでも大儀そうではあるが立ち上がり、私のことなんて待たずに部室を出ていった。仕方ないから私は彼のあとを追った。

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