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System; Reboot_3

 すっかり夜は明けて爽やかにそしてしっかりと熱を含んだ光が降り注いでくる。いつもはそんな陽だまりに身を置くのが楽しいが今日ばかりは意図しなかった徹夜の身体には少しばかり重たく感じる。

 部屋の中にいても何も進みはしない。加えて今日は休日だ。そんな理由で部屋を出る。

向かう先は食堂へ。ありがたいことに大学に学生として所属している人間なら無料でしかも毎日利用できる。その分多少は騒がしいがそれも今は却って嬉しいくらいだ。

 席を確保してから注文へと。厨房に近づくにつれて調理の香りが鼻に届いてくる。油に野菜、何より肉の匂いだ。夜の中で考えている時には不安だったり葛藤で胃のあたりが嫌な熱を持っていたのにこうしていざ食を目の前にすると多少重たいものでも食べれる気になってくる。

 それでも少しは身体は労わろうと野菜を中心にした。そこに少しだけ肉。バランス的にも良いだろう。この世界で栄養学なんて文字は見たこともないが。

 料理の皿をトレンチに乗せて自席に戻ろうとすれば、向かいに一人の女が座っていることに気づく。

「や、おはよう、カイ」


 暗めの赤髪に落ち着いた微笑、同じ魔道具研究科のアリアだ。

「ん、おはよう」


「元気、ではなさそうだね? 随分とクマが濃い。徹夜でもしたかい?」


 当然のように徹夜には気づかれる。これは部屋を出るときにはわかっていたことだ。むしろわからない方がおかしい。だがそれ以上にこのアリアは間違いなく気づくという確信のようなものもある。

「まあ、ちょっとな」


「ふぅん…。 別に外に行ったわけでもないし大して難しい課題があったわけでもないし、真面目にあの概論Ⅰでも考えたクチかな?」


「そう、だな」


「いやあ、あれはわからないね。いくら私が彫師の家系だからって暗号解読や古代語の解読は全然だよ。正直お手上げかな、真面目に期末の実習をやらせてもらうさ。そっちなら確実に満点取れるだろうしね」


「だろうな。実習だと今回の課題の刻印にちょっと何かしたくらいのレベルを刻むくらいだろ、だったらアリアにできないわけがない」


 アリアの能力について言うならシンプルに目と手先が良い。それは彼女の家柄に由来する。

 魔道具が所謂ソースコードを用いて動くものである以上そのコードはどこかに刻まなくてはならない。その刻みを実際にやるのが彼や彼女達彫師だ。勿論うちの家もそうだが簡単なものだったら魔道具を扱う商人にできないものではない、だが彫師に求められるのはより細かくそして芸術的な側面ももった刻印を扱うことだ。携帯性の高い小さな道具の狭い幅に、貴族の邸宅の一部に調和を保った文字の配置とフォントも。

 それは当然の帰結として材質や形状、文字のギリギリの崩しに自らの技量も高水準での仕事となる。その跡取りが同じだけの技術を持つのは当たり前と言えた。


「ま、そうだね。そこは間違いない。でもカイだって余裕はあるだろう? 彫師とは違うが御実家も魔道具扱いのお店だったはずだ」


「それはそうだが、うちはどっちかというとそんなに難しい刻印の刻みはやってない。難しいのは一括で彫師に外注さ。全体的な設計とか外装とかそっちの方が多い。満点確実とは言えないさ」


 王都でも魔道具の取り扱いの幅は広い。彫師の様にほぼ専門で刻印の取り扱いに注力するもの。道具として色々な工程を取り扱うもの。うちの商売は後者だ。一般家庭から、都市の外で魔獣を狩る探索者まで誰でもござれの間口の広い商売。代わりにあまりに難しい刻印の扱いはできずに任せている。俺自身もそんなに手を動かしたことは無いから確実に成功するという自身には遠い。


「だから解読の方でも試す、ということか。最初の講義だし満点はとっておきたいのはわかるよ。…でも難しいだろう? 私は30分で投げた。」


「ああ、…難しいよ。そのせいで色々考えて気が付いたら徹夜だった。正直今から実習の方に切り替えられるように練習しとこうかと思ってる」


「その方が良いよ、教授だって解ける方には期待していないさ。あれは多分、何か発想の手がかりみたいな、アイデアの原石みたいなものがあったらいいなくらいのものかな。…っと、すまない、食べてくれて構わない、邪魔をする気はないんだ」


 手でも促されて朝食に手を付ける。野菜の苦みが染みるように身体に溶けていく。優しい味だ、これは肉を控えめにして良かった。

 アリアは何も言わずにただ俺の食事風景を見ている。もうすでに食事は終えているのだろうか。多分聞いても先に食べてしまえと言われるだろう、そんな気がする。

 そうして10分ほどで食べ終えてお茶に手を伸ばしたところで、アリアがこちらに顔を近づけた。


「君、あれ解けただろ?」


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