地方の信用組合の不正融資が日本核武装に・・・・
地方の信用組合の不正融資事件が日本核武装にまで発展。日本は核武装によって何を守ろうしているのか?
第1話
心地よい目覚めだった。時計を見ると、針は5時30分を指している。部屋のカーテン越しに外を見るとだいぶ明るい。
今日は、常磐線特急「ひたち」(JR東日本)が運行する特急列車で、恒例の「藤原川期成同盟会」による地元国会議員団への陳情に出向く予定。
いつもは、バスで東京赤坂の議員宿舎に向かうのだが、今回は特急「ひたち」で東京に向かう。特急「ひたち」は東京駅といわき駅を結び、上野駅や日立駅を経由し、この特急は、常磐線の沿線を効率的に移動するため、旅行やビジネスの利用者に人気がある。
「ひたち」の運行は、日中の時間帯に設定されており、所要時間は東京駅からいわき駅まで約2時間程度である。
陳情団は湯本駅から無事に午前7時15分、特急「ひたち」に乗り込んだ。
座席を確保すると、スマホで今日のニュースを確認、ネットは日本核武装の話題で溢れていた。
「え!こんな事ありなの?」私は思わず声を上げた
第2話
「日本は核武装なんて絶対に不可能。
確かに、日本は神風特別攻撃隊をつくった国。民族の性質は、80年や100年そこらでは変わらない。そんな国に核兵器を持たせたら何をやるかわからないとアメリカは考えている。
アングロ・サクソンの国はそういう考えの下で、絶対にドイツと日本には核兵器を持たせないはずだ。
つまり、根本的には信用していない。国家という存在は本来そういうものだ。そうでなければ、とっくに世界連邦はできており、世界に平和がやってきているはずだ。
結局、日本に核武装は必要ないとともに、政治的・物理的にもできない。そもそも日米原子力協定があるので、核武装をした瞬間に、あるいは核武装の意図を表明した瞬間に、日本の原発のウランは全部アメリカに回収されてしまう。日本は多くのエネルギーを失い、現在の生活が維持できなくなってしまう。本当に馬鹿げた話。」私は車窓に流れる風景に目をやりながら、日本核武装に思いを巡らした。
「でも、何故、今、核武装なんだ。ひょとしたら、日本政府は日中戦争を想定しているのかもしれない。アドバルーンを打ち上げたのかもしれない。事実、中国は尖閣領空にヘリコプター飛ばしている。これは、準戦時状態と言ってもいい。日本政府は、中国の尖閣進攻を想定しているのかも知れない。!戦争が始まるのか?中国尖閣進攻⇒日中戦争⇒日本の核武装。」そんな疑念が私の脳裏にふと湧き上がった。
と、特急「ひたち」は水戸駅で停車した。
https://www.youtube.com/watch?v=ZTYFeE7fYVw
第3話
背広の胸ポケットのスマホが鳴った。スマホを慌てて開く、オンブズマンからの連絡だった。
いわき市オンブズマンはいわき市で活動している弁護士が中心になって活動している組織である。ひょんなことから、行政組織に詳しい「行政書士」が必要ということで、不肖私が参加することになったわけである。
“諸外国では、市民の代理人として苦情を聞いて行政を是正する「公的オンブズマン」がいるが、日本にはいないので、市民自ら「オンブズマン」として行政の不正・腐敗を追及していこうと考えから、市民一人一人が行政の問題に関心を持って追及していこうとする「市民オンブズマン」の理念が広がり、全国各地に「市民オンブズマン」を名乗る団体が誕生した。
https://www.ombudsman.jp/prefs
私がいわき市農業委員会の疑惑を追及したことがあるという経験
にオンブズマンが目をつけたのかもしれなかった。
「市民オンブズマン」といっても、特別な権限はない。市民がもつ権利を最大限に活用し、「行政を市民の手に取り戻す」活動を行っている。
「江尻ですが・・」
「江尻さん。大変なことになった。いわき信用組合の架空融資が
発覚した。」山田弁護士の慌てたような声がスマホから聞こえる。
「私は、今、特急「ひたち」で東京に向かっているんです。いわき市オンブズマンに調査ための第三者委員会参加要請があったんですね?」私は先回りして言った。
第4話
早速、ネットでいわき信用組合の架空融資について確認。
ネット記事によれば
架空融資は、江尻次郎前会長ら役員で実行支店などを決定。借り入れ申込書などの偽造書類を役員が用意して、支店の融資担当者に融資 稟議 書の作成を指示し、預金者の定期預金を融資の担保にするケースもあった。
不正融資は昨年11月までの判明分だけで、迂回融資が18億円、架空融資が229億円の計247億円。大口融資先の運転資金や組合への返済に充て、元職員による横領の損失金計約2億円の穴埋めにも使った。最大10億円の使途が不明で、報告書では「組合側が事実関係を明らかにすることに極めて消極的で、解明に至らなかった」とした。
「信用組合って、いいかげんだな!」私は、ネット記事を読みながら声を上げた。
ネットで調べると信用組合の監督機関は金融庁。ついでに、信用組合法についても確認。
e-Gov 法令検索
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。
laws.e-gov.go.jp
youtubeにいわき信用金庫の架空融資についての解説動画があった。
第5話
スーパ「ひたち」は、事前スケジュールどおりに上野駅を経由して東京駅に停車した。時計を見るとAM:9:00。
東京駅は大混雑だった。販売限定枚数15,000枚のSUICAを手に入れようとする人達の行列だった。東京駅で東京メトロに乗る。10分くらいでメトロ赤坂駅に到着。東京メトロ赤坂駅付近には24時間営業スパーマーケットが目立つ。
ここから徒歩で赤坂議員宿舎に向かう。赤坂議員宿舎に到着すると地元国会議員の秘書が議員宿舎玄関で待っていた。いわき市役所担当者が秘書から入館チェックカードを預かり、陳情団一人一人に配布。
入館チェックを受けるのは、昨年に引き続き2回目である。
議員秘書に案内されて、議員室控室で待っていると、林議員が慌てて議員控え室に入ってきて、「江尻行政書士いますか?」と声を上げた。
私は咄嗟に手を挙げた。
「江尻行政書士さんですね。」林議員が私のとろにやって来て確認するように言った。
「そうです。」私は不安げに言った。
第6話
「議員宿舎の前に、車を待たせてあります。」林議員は短くそう言うと、私に名刺を差し出した。
林議員は私を玄関前にある車まで案内してくれた。私は突然の出来事に驚くばかりだった。
「江尻先生、なにかあったら、電話してください。」そう言うと、運転者に「金融庁にお願いします。」と告げた。
「江尻先生、金融庁の職員が庁舎の玄関前で待機しています。」林議員は簡潔にそう言うと、去って行った。
「金融庁? 」私は、車窓を流れる霞ヶ関の風景に目をやりながり思わず呟いた。
しばらくして、立派なビルが現れた。車はビルの前で止まった。
車が止まると、金融庁の職員と思われる職員がやって来た。
私は車の窓を開けた。
「江尻先生ですね。お忙しいところ、本当に申し訳ございません。」職員は深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします。突然、林議員に言われてやってきたのです。」私は本当のことを言った。
「本当に、申し訳ございません。」職員は再び頭を下げた。
第7話
金融庁は超高層ビルの中にあった。2階のエントランスでエレベーターに乗る。金融庁の職員は17階のボタンを押した。
しばらくして、17階に到着。金融庁職員は金融審議官室に案内した。大きな審議官用デスクと黒革張の応接セットがあるだけの質素な部屋だった。
驚いたことには、大きなディスクに座っているのは、高校時代の親友北原悦男だった。
「北原君?」私は思わず声を上げた。
「江尻君 久しぶり。」北原金融審議官が笑みを浮かべた。何十年ぶりかの再会だった。北原金融審議官とは常磐線で湯本駅から通学した仲間だった。通学に利用した常磐線の混雑が今でも妙に記憶に残っている。かけがえのない青春だった。
審議官は応接セットに座ること勧めた。私が応接セットに座ると
審議官もゆっくりと腰を降ろした。
「何十年ぶりかな。」秘書がコーヒーカップをテーブルの上に丁寧に置くと私が口火を切った。
「30年くらいかな。」北原審議官は懐かしいような顔をして言った。
「高校時代、君には全くかなわなかったよ。おそらく、君とは
レベルが違っていた。」私は軽い冗談を言った。
「地元議員の林議員に行くように言われたんだよ。」私は事の経緯を北原審議官に説明。
「僕が林議員にお願いしたんだよ。」北原審議官は笑みを浮かべながら言った。
「何故?」私は思わず呟いた。
第8話
「江尻君、いわき信用組合の件だがね。どうしてもわからない使途不明金があるそうだね。」北原金融審議官は厳しい表情をして言った。
・・・・・・・・・・
「使途不明金についてはよくわからない。我々第三者委員会が今後調査することになる。」私はしばし沈黙後、言った。
「僕はまだ第三者委員会のメンバーではない。いわきに戻ったら正式にオンブズマンとしてメンバーになる予定なんだよ。」私は正直に言った。
「オフレコなんだがね。「コロナ予備費」と呼ばれる予算の使い方の不透明感がぬぐえない。国会に使い道を報告した12兆円余り最終的な用途を正確に特定できたのは6.5%の8千億円強にとどまった。9割以上は具体的にどう使われたか追いきれない。」北原金融
審議官は飲みかけのコーヒーカップをテーブルの上に置いた。
「え! 9割以上も使途不明金。11兆円も。」私は、驚きの声を上げた。
「君も「官邸幹部の核武装発言」を知っていると思うが、突飛な発想かもしれないが、巨額の使途不明金が核開発の資金になるような気がする。世界20の核兵器製造企業に329の金融機関が55兆円を提供。日本からは7銀行等が2兆円提供されているんだよ。」北原金融審議官は私の顔じっと見ながら言った。
「ところで、核開発ってどのくらい資金がかかるんだ?」私は確認するように言った。
「1967年の米国家情報評価(NIE)では、弾道ミサイル用の核弾頭開発に5億〜6億ドル(当時の価値)が必要。これは、2000年代初頭の価値に換算すると約28億ドルから34億ドル(約4,200億円〜5,100億円)くらいだな。」北原金融審議官は冷徹に言った。
第9話
東京からいわきに戻ると、いわき信用組合不正融資事件第三者委員会のメンバーとして正式に就任。
他の第三者委員会メンバーは弁護士と会計士。私は行政書士オンブズマンとして第三者委員会のメンバーになったわけである。行政書士が第三者委員会のメンバーになるのは珍しいはずだ。
最初の仕事は、いわき信用組合不正融資事件を象徴する人物から
の事情聴取だった。
相手の人物は、いわき信用組合の職員の中で、不正融資スキーム
の中心人物である江尻次郎前会長から特別に可愛がれた。
江尻前会長と相手の人物は高校の同級生の息子という関係がある。住いも近接していて関係が深いという事情もあって、いわき信用組合のドン江尻次郎前会長の寵愛を受けたのかもしれない。
相手の人物は、いわき信用組合からギャンブル資金を横領した事実がある。信じられないのだが、有名国立大学を卒業しているらしい。
「あなた、いわき信用組合から横領しましたね。」私は最初から
切り込んだ。
「江尻前会長と親戚なんですか?」相手の人物の口からとんでもない発言が飛び出した。
「甘えるなよ!ちゃんと答えろよ。」私は一喝した。
相手の人物は怯えたような顔して私の顔を見た。
第10話
第三者委員会の調査により、いわき信用組合不正融資事件概要が明らかになった。
事件概要を要約すると、次の3つの不正内容で構成されていることとが判明した。第三者委員会の調査が事件概要解明に大きな役割を果たしたことは言うまでもない。
①2004年3月から24年10月まで、当時の幹部が主導し、大口融資先の企業グループを支援するためペーパーカンパニーを使っての迂回融資や預金者に無断でつくった偽造口座を介しての無断借名融資により、少なくとも1293件、総額247億7178万円の不正融資が行われた。
②2010年2月から14年8月にかけて、元職員Aが計1億9582万円を横領した。
③2009年6月、元職員Bが帯封のされた100万円の束から20万円を抜き取った。
以上の3つの不正内容は一見すると無関係に思われるが、実際は大きなきな関連がある。
これら三つの不正を承認・決定した「当時の幹部」が、江尻次郎氏(77)を頂点とする代表理事たちだった。
しかし、江尻元会長は第三者委員会の調査に応じたものの肝心なことの説明は全くなく、雲隠れしてしまっている。
江尻氏は昨年11月1日付で会長を引責辞任し、いわき信組や第三者委員会の聞き取りに応じたが、業務のことを記した手帳やノートを「捨てた」と答えたり、虚偽と疑われる説明を繰り返した。マスコミの取材にも、福島民報(昨年11月20日付)に「コメントできない」と述べただけで雲隠れ。問題の一部始終を知るのに、肝心なことを語っていない。
私が担当した部分、元職員の横領については殆ど解明できたが、何故いわき信用組合が、いわき市内の建設会社に巨額の不正融資したのかは謎の部分が多い。
私は、いわき市内の建設会社に対する巨額の不正融資の解明にとりかかった。
第11話
アメリカの権威ある外交雑誌にフォーリンアフェアーズに、次のような日本核武装論が掲載された。
ワシントンは核不拡散政策の厳格な順守を見直し、カナダ、ドイツ、日本という少数の同盟国による核武装をむしろ奨励すべきだろう。この3カ国は、合理的な政策決定と国内の安定という面で実績があるし、アメリカとその同盟国に大きな恩恵をもたらしてきた戦後秩序の再建に貢献できる。ワシントンにとって、このような「選択的な核拡散」は、パートナーが地域防衛でより大きな役割を担い、アメリカへの軍事依存を減らすことも可能にする。これらの同盟諸国にとって、核武装は中ロなどの地域的敵対勢力の脅威だけでなく、同盟関係への関与を弱めるアメリカの戦略見直しに対する信頼できる防護策となる。
https://www.foreignaffairsj.co.jp/.../202601_graefrath.../
私は「使途不明金が核発兵器開発の資金に利用される可能性がある・・」と北原金融審議官が不意に呟いたことが妙に気になって
いたのである。
「アメリカは、日本の核武装望んでいるわけか。ひょっとしたら・・・日本はアメリカの意を受けて、既に核武装を着々と進めているのかもしれない。」ふと、そんな思いが私の脳裏に湧き上がった。
https://www.youtube.com/watch?v=VL8qIL9bx2Y
第12話
https://www.arabnews.jp/article/japan/article_138378/
ネット記事を開くと、日本の犯罪組織が、イランの核開発に関係していたという驚くべき情報があった。
どうやら、日本の犯罪組織がイラン核開発のために、核物質のウランとプルトニウムを輸送する計画をしていたらしい。
検察によれば、日本の反社会的組織のリーダであった海老沢容疑者は2021年と2022年に、イランの将軍を装ったアメリカ麻薬取締局(DEA)のおとり捜査でアメリカのマンハッタンで逮捕され、DEAに起訴された。
今回のDEAの起訴により、日本の反社会的組織が「核物質の密売」を行っている事実が明らかになった。
アメリカ連邦検事局によれば、海老沢容疑者は司法取引で「兵器級プルトニウムを含む核物質」を堂々と密売した」ことを認めた。
密売しようとしていた核物質は米連邦政府の研究所での調査の結果、核兵器に十分使用できるものであったという。
私が、日本の反社会組織が核開発に関係していたという事実に驚愕したことは言うまでもない。
第13話
https://www.youtube.com/watch?v=mYptybSJFig...
とても寒い朝だった。窓の外を見ると雪が降っている。温暖ないわき市でも雪が降るくらいだから、全国的に雪が降っているのだろう。
最近、理由はよくわからないのだが、突然、私の脳裏に全く脈絡のない思念が浮ぶことがある。いわゆる思念送達である。思念伝達とは、言葉や身体的接触といった物理的な手段を用いずに、ある人の思考や感情、意図が別の人に伝わる現象を指さす。
送り手が意図的に念を送る場合もあれば、無意識のうちに強い感情や思考が伝わってしまう場合もあるとされている。
「核爆弾製造に関心がある日本人は私を含め、軍事関係者でもなければ殆どいないはずだ。そもそも日本は核兵器を作れるのだろうか? また、作れたとして、その他にはどんな問題が起こるのだろうか?」突然、脈絡のない思念が私の脳裏に浮かんだ。
早速、私はネット調査を開始していた。ネット情報によれば、日本には、商業用原子炉があるのでプルトニュウム240は製造できるが、核兵器の製造原料であるプルトニュウム239を製造する兵器用原子炉がない。
兵器用プルトニュウム239は高速増殖炉でも製造できるが、
日本が開発していた高速増殖炉「もんじゅ」は廃炉となっている。高速増殖炉「もんじゅ」はプルトニュウム239を製造できる設計になっていた。
さらに、近代的な核兵器を作ろうとすると、トリチウムとデューテリウムという特殊な物質が必要となる。これらは核分裂反応を効率的に起こすための「ブースター(起爆促進剤)」と呼ばれるもので、現在世界に存在する核兵器でこれを使っていないものはありません。つまり、絶対に必要な材料である。
具体的には、福島第一原発で貯蔵している全てのトリチウムを使っても、たった1発分しか作れない。核兵器を持っている国は例外なく、このトリチウム生産炉を保有している。なぜなら、トリチウムは放射性物質で、寿命が12年しかないからだ。つまり、12年経つと半分に減ってしまうため、核兵器の威力を維持するには継続的に新しいトリチウムを生産し続けなければならないからである。
現代の核保有国が持っている本当の核兵器、つまり核融合兵器(いわゆる水素爆弾)を作ろうと思うと、今度はリチウム濃縮施設が必要になる。
これらのどれをするにしても、IAEA(国際原子力機関)を離脱しないとできない。完全に核不拡散条約(NPT)の違反行為になる。
さらには、敵国まで運搬するミサイルと、そのミサイルを発射するプラットフォーム(発射設備)が極めて重要だ。本当の問題は、そのミサイルをどこに配置し、どうやって発射するかだ。
核武装論を唱える人たちは、どのように使うかという核戦略がたぶん頭に入っていない。本当に核兵器を保有して使用する覚悟を持っている国というのは、自国民がある程度死ぬことも覚悟の上でやっている。
結論としては、日本が核兵器を保有するためには、相当な覚悟が必要だと言うことなる。巷では、日本は非常に短期間で核兵器製造できるとの情報が流布されているが、核兵器製造には10年以上の年月が必要だ
第14話
早朝、突然、携帯電話が鳴った。北原金融審議官からだった。
アメリカで、日本に関して、今大変なことになっているらしい。巨額の資金を使って、「日本核武装支持議案」を成立させるために日本は議会に対してロービー活動をしているらしい。
「北原金融審議官、本当ですか?何故、そんなことが・・」私は思わず声を上げた。
「私もあまりにも、唐突な話なので驚いているんだよ。まさか、高市政権が日本核武装を進めようとしているのか?」北原金融審議官は慌てたように言った。
「日本核武装については、非核三原則あるし、それに、IAEA(国際原子力機関)を離脱しないとできない。完全に核不拡散条約(NPT)の違反行為になる。現実的に考えて日本核武装なんてあり得ない。それに、核兵器を製造する技術なんてありやしないですよ。」私は確信ありげに言った。
「心配なのは、巨額の使途不明金が、日本核武装のために使われているかもしれないということなんだよ。金融庁が矢面に立たなくちゃいけなくなる。」北原金融審議官は心配げに声を低めて言った。
「いわき信用組合の不正融資事件も関係しているかもしれない
ですね。」私は声を低めて言った。
「ん・・・・・・・」北原金融審議官は沈黙した。
「2月8日に衆議院選挙あるよ。」北原金融審議官が思い切ったように言った。
「アメリカでのロビー活動が成功し、選挙によって高市政権が勝利すれば・・・日本核武装はかなり現実的になる。」私は思わず呟いた。
「じゃ、これで。」北原金融審議官は電話をきった。
第15話
https://www.youtube.com/watch?v=xGNeqROpa7o
事務所のTVをスイッチオンすると、イタリア首相メローニが飛行機のタラップを降りてくる姿が映し出された。
新聞報道によれば、メローニは、日欧州共同の世界戦略を協議するためにはるばるイタリアから日本にやってきたのである。
現在、世界は広域経済圏をめぐる主導権争いが熾烈化しつつある。中国の「一帯一路世界」という時代錯誤的な世界戦略に代わって、日英伊が主体となる日欧州連合によるグローバル戦略がまさに始動しようとしていた。
事務所のTV放映画面で日伊合同協議会合のメンバーとして、金融庁No2の北原金融審議官が参加していることが確認できた。
アメリカの安全保障戦略の専門家のあいだで「日本は核兵器を保有すべきだ」という議論が、静かではあるが着実に広がりつつある。
これまで国際的な核拡散はアメリカにとって絶対的な禁忌であり、アメリカはあらゆる手段を使って核保有国が増加することをいかに抑えるかに腐心してきた。ところが、最近になって徐々に「タブー」でなくなりつつある。世界は日欧州共同世界戦略による激動の時代を迎えようとしていた。
当然、日本の「核武装」は日欧共同世界戦略により承認されることになるはずだ。」ふと、私の脳裏に想念が浮かんだ。
第16話
https://www.city.iwaki.lg.jp/.../1712125815706/index.html
市内の住民から集会場廃止についての相談があった。
人口減少や高齢化が深刻な東北地方では公共施設の統廃合が重要な課題となっている。いわき市も例に漏れず、「いわき市公共施設等総合管理計画・個別施設計画」作成しており、公共施設の統配合を計画している。
公共施設には様々な立場の人が関わっているだけに、老朽化が進んだり、利用者が減ったりして、いざ統廃合となると意見の対立を招きやすい。住民(自治会長)の話によると、市では、自治会に対し、解体か無償譲渡を強引に迫っているらしい。
住民から手渡された計画書の内容は次のとおりであった。
「いわき市は、人口減少による税収減と、14市町村が合併した広域都市であるため公共施設が多く、維持費が他の自治体より高くなっています。特に、公共施設の約4割が1981年以前の旧耐震基準で建設されており、老朽化が著しいことも問題です。
人口減少の影響
市の人口は、2024年の約31万9千人から2060年には約17万4千人まで減少すると推計されています。これにより、公共施設の維持がさらに困難になると予想されています。
集会所の今後の対応
廃止・譲渡の可能性
集会所は、廃止対象となる可能性のある施設の一つです。また、行政機関の複合化や、集会所の地区への譲渡なども検討されています。
住民との対話
市は施設の合理化を進める一方で、質の高いサービスを維持する「いわきモデル」を構築するとしています。住民との対話を重ねながら、今後の対応を決めていく方針です。」
確かに、自治会にとっては、振って湧いた災難には違いない。事実上の集会場の廃止と言えなくもない。
市民オンブズマンいわきの事務所は、福島地方裁判所いわき支部と道路を挟んで向かい側にある弁護士事務所だった。
いわき市の集会場廃止計画は、行政書士オンブズマンの私にとっても、看過できない由々しき問題だ。そこで、「市民オンブズマンいわき」の事務所を訪れ責任者である山田弁護士と事前協議を行うことになったわけである。
第17話
https://www.youtube.com/watch?v=C1Wq1vveWko
弁護士事務所に入ると、早速、会議室に案内された。
「江尻さん、いわき信用組合の第三者委員会ご苦労様です。」
「すいません。お役に立たなくて。」私はピョコンと頭を下げると、座りごちがよさそうな椅子に腰を降ろした。
「金融庁の東北財務局が、いわき信用組合を告発するそうです。」山田弁護士が地元新聞を私に手渡した。私は手渡され
た新聞の記事に目をやった。
いわき信用組合(福島県いわき市)が資金を反社会的勢力に提供していた問題で、財務省東北財務局(仙台市)が今週中にも、協同組合による金融事業に関する法律(協金法)違反の疑いで信組と元役員らを福島県警に告発することが18日、関係者への取材で分かった。
「やっぱり。告発しかないですね。」私は新聞を読みながら呟いた。いわき信用組合の報告書が事実と異なっているので協金法の虚偽報告に当たりますね。嘘のオンパレードですからね。業務の一部停止と改善命令じゃ・・信じられないですね。」私は呆れたように言った。
「全く。馬鹿げた話ですね。福島県人として恥ずかしいですね。」山田弁護士は残念そうに言った。
「金融機関が反社と関係していたなんて信じられない。」私は付け加えた。
「今日お伺いしたのは、住民から相談あった案件について、山田先生のアドバイス受けたいと思いまして・・・」私は話題を変えた。
第18話
「これは、まだ計画段階ですね。計画の段階では、オンブズマン活動は無理だと思われます。」山田弁護士は市が作成した計画書を捲りながらこともなげに言った。
「江尻さんのオンブズマン活動を拝見させて頂きました。ネットで。」弁護士は目の前にあるパソコンで、以前、私がオンブズマン活動をまとめてアップしたサイトを開いた。
https://di17qiiwakishinongyeweiyuanhoubuzhexuandingniguan...
「役所がやっていることは、市民の無知をいいことにして、イイカゲンなことが数えきれないほどありますね。」私は驚きの表情浮かべながら言った。
「確かに。」山田弁護士は大きく頷いた。
「いわき信用組合のようなことが、役所で起こる可能性は十分にあるんです。」私は山田弁護士の同意を求めるように言った。
「そうですね。」山田弁護士はパソコンに表示されている私のサイトを見ながら言った。
「現在のオンブズマン活動は、お金に係ることが中心ですが、
行政書士先生のオンブズマン活動は重要だと私は思っております。」山田弁護士は、私の顔をじっと見ながらいった。
「山田先生、市民のために、行政を監視しなければならないと思っています。」私は確信したように言った。
http://www.sendai-ombuds.net/ombuds-fbook/
第19話
弁護士事務所を出ると、道路向かいにある裁判所に向かった。私が担当している成年後見の年間業務報告書を提出するためである。
成年後見業務は年間業務報告書を例年11月末日までに裁判所に提出
しなけれならない。そんな事情もあって、裁判所のすぐ脇にある
いわき市民オンブズマン事務所を併設している弁護士事務所をついでに訪れたわけである。
成年後見業務をしていなければ行政書士が裁判所を仕事で訪れることは全くない。成年後見業務の担当部署は2階にあった。
「成年後見年間業務報告を提出したいのですが・・」私は事務室に
入るなり言った。事務室は書記官がひとりいるだけで閑散としていた。私が日常、業務のために訪れている行政機関の事務所の雰囲気とは全く異なっており、なんとなく違和感がある。
「成年後見年間業務報告書の届出様式が変更になったんです。」書記官は私のところにやってくると私の顔を見るなり言った。以前、裁判で争った時の担当書記官だった。相手も私に気が付いたようだった。
書記官は私から成年後見年間業務報告書を受け取ると、ページを捲った。
「付与申請もするんですね?」書記官は私に確認するように言った。
「します。」私は咄嗟に答えた。
「じゃ、切手代110円が必要です。」書記官は事務的な口調で言った。
第20話
ネットに公開されている麻生太郎氏に係る「日本核武装」ついての質問趣意書によれば、
https://www.shugiin.go.jp/.../html/shitsumon/a170141.htm
当事外務大臣だった麻生太郎氏は、立憲民主党 辻本清美から国会で「日本核武装」について質問を受けたことがある。
「核をつくる能力(略)を持っていることも確かです」「ロケットを、少なくとも移動衛星、静止衛星、偵察衛星等々を飛ばす、搬送する技術も日本はあります」と答弁して、日本が核兵器製造能力を有することを明らかにした。
日本には、現在、核爆弾の原材料となる「プルトニュウム」を核爆弾数千発製造できるほど大量に有していることは紛れもない事実である。
つまり、日本は、事実上核武装していると言っても過言ではない。
米国務省は二〇〇八年一〇月一一日、北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したと発表した。これについて「ブッシュ大統領から首相への直接の指定解除通告は、米国務省の正式発表の三〇分前」と報道されている(読売新聞、二〇〇八年一〇月一三日)。
報道が事実であれば、すでにライス国務長官が解除の書面に署名してから三時間が経過しており、マスコミも報じた後だったことを考えると、極めて遅い通告だったといわざるをえない。
このことは、北朝鮮テロ支援国家解除により、「日本の隣国が核兵器製造をアメリカから容認されたのだから、日本も核兵器を製造すべきではないか。」という至極当然な論議が起こることを、アメリカが極度に恐れたからかも知れない。米国内には日本の核武装への懸念があるのだ。
「日本が核武装できないのはアメリカの反対があるからじゃないか。」私は、ネットに公開されている質問趣意書を読みながら思わず呟いた。
第21話
https://www.youtube.com/watch?v=4X81jGz4-nk
平成21年の第171国会 外交委員会 第19号の会議録には、日本に核持ち込みをするための日米間密約があったかどうかの記載がある。
勿論、当事、外務大臣だった中曽根氏は
「他方、我が国が、核兵器を持たず、そしてつくらず、また持ち込ませずという非核三原則、これを堅持するということにつきましては、これまでも歴代の内閣によりまして累次にわたり明確に表明をされているところでございます。
我が国を取り巻く安全保障上の環境は大変に不安定なところもございますけれども、政府といたしましては、今後ともこの非核三原則を堅持していく立場に変わりはございません。」
と回答している。
さらに、宗谷海峡、津軽海峡、対馬東水道、対馬西水道、大隅の五つの重要海峡の領海幅を三海里にとどめたのは、核を積んでいる米軍の艦船による我が国領海の通過が核持ち込みに当たらないようにするためであり、我が国の領海幅は本来国際法上認められている幅である十二海里まで拡張すべきであると主張されておられます。
との質問に対して、中曽根氏は
「今委員がお述べになられました宗谷それから津軽などの五つの海峡の領海幅を三海里にとどめる特定海域の設定は、海洋国家、また先進工業国であり、また貿易国家でもあります我が国におきましては、国際交通の要衝でもあります海峡を商船や大型タンカーが自由に航行できる、それを保障するということが大事である、総合的な国益の観点から不可欠であることを踏まえたものでございまして、この政府の判断に現時点では変わりはないところでございます。」
と無難な回答しているが、真意は、領海幅を3海里としたのは
領海幅を12海里(国際法)とすると公海部分が消滅してしまう海峡が生じないようにするためであった。公海であれば、アメリカの核を積み込んだ艦船の通過が政治問題化することはないわけだ。
ということは、日本が核反撃をアメリカの核によってできるということになる。
「なるほど、最悪の場合、日本は核反撃できるのか?」私は会議録に再び目をやった。
第22話
元いわき信用組合理事長 江尻 次郎の邸宅は、硫黄の香りが漂ういわき市常磐湯本温泉街にあった。
江尻 次郎の兄は東大卒の会社経営者だった。衆議院選挙に出馬して落選している。元理事長江尻 次郎も早稲田大学を卒業している。おそらく、地元では江尻兄弟はそろって優秀であると有名だったのだろう。江尻 次郎自身も自分は一般の人とは違っていると自負していたのだろうか?
「俺のやることは絶対正しい。」という意識が、今回のいわき信用組合事件の大きな遠因になっていたのかもしれない?
江尻 次郎が横領した有名国立大学卒いわき信用組合職員を可愛がっていたのもそんな事情があるのだろうか?
不正融資の指示を出したのは江尻次郎元会長だったと言われている。ただ、近所の人に江尻 次郎の人柄を尋ねると悪く言う人はいない。江尻 次郎は周囲が意見を言えなくなってしまう昔堅気のリーダーだったのだろうか?
いわきの人たちはあまりこの事件を語りたがらない。いわき信用組合と取引きがあったり、職員に知り合いがいたりして、身近な金融機関であるという事情、それに、自分が所属する地域・組織にもどこか似た体質があるのでいわき信用組合問題は語りにくいのだ。
「ひょっとしたら、いわき信用組合のような事件が日本全国各地で起こるかも。」近所の人に話を聞きながら、ふと、そんな思いが私の心に湧き上がった。
第23話
いわき市では、市水道局の工事入札を巡る贈収賄事件が発覚し、いわき市小名浜t区の管工事会社の社長が贈賄容疑で逮捕されたことがある。いわきは、未だに、前近代的な体質が残存している地域であると感じさせる事件であった。
いわきには、地域や組織に古い前近代的な体質が残っている。
自分が所属するコ地域社会コミュニティーは「前近代的体質や地域の同調圧力」から脱し切れているのか。いわしん的な組織風土は自分が所属している地域や組織の中にもあるということを、いわしん事件を契機として正面から受け止める必要があるのではないか?いわしん事件を自分ごととして考えていく必要がある。
いわしんの口座を解約し、地銀に口座を新設した人がいる一方で「お世話になったから、口座を解約するわけにはいかない」という人もいるのではないか?どちらの考えも理解できるが・・そんなとりとめもないことを考えながら、私は、湯本駅前駐車場に向かって一方通行の狭い道を歩きだした。
第24話
https://www.youtube.com/shorts/BHKZpNH7-SM
反社会組織と金融機関との関係は絶対に許されない。
みずほ銀行の事例 (2013年)では、 暴力団関係者への巨額融資が長期間にわたり放置され、コンプライアンス態勢が不十分であったとして金融庁から業務改善命令を受けている事例もある。
みずほ銀行の「隠蔽」の構図であるが、 金融機関は、反社との取引が発覚すれば、金融庁の処分や企業イメージの低下に直結するため、内部で把握した情報を長期間隠蔽しようとする動機が働きやすい。いわき信用組合不正融資事件もこの構図があてはまる。経営者(江尻次郎元理事長)自らが反社会組織と関係を続けていたことは驚くべきことである。
おそらく、江尻次郎元理事長は、不正融資の事実という弱みを反社会組織に握られていたために反社会組織と関係を続けなければならなかったのだろう。
金融庁の金融機関に対する検査は厳格に行われなければならないのは確かである。いわき信用組合事件についても、金融検査が厳格に行われていれば、大事にならないうちに防げた可能性は十分にある。なにしろ、金融検査によらずして、いわき信用組合職員のSNSによる内部告発で事件が明らかになったというから、笑うに笑えない。金融検査官は一体どんな検査を行っていたのだろうか?疑問を感じざるを得ない。
記事をブログに投稿し終えると、諦めにも似た感情が私の心に湧き上がった。
第25話
事務所の電話が鳴った。内閣情報調査室の山本という男からの突然の電話だった。
「今、お時間よろしいでしょうか?」山本は丁寧な口調で言った。
「午前中なら問題ないですが。」私は咄嗟に言った。
事務所に現れた男は、四十代前半、細身で物静かな印象だった。渡された名刺には「内閣情報調査室 参事官補佐 山本 光」とだけあった。
「内閣情報調査室の方ですか?でも、何故、私の所に?」私は、突然の来訪者に驚いたように言った。
「いわきの案件について、我々も把握しています」と山本は言った。
「しかし先生、問題はその先にあります」
山本は事務所の面談室の椅子に腰降ろすと、突然、テーブルに一枚の組織図を広げた。
組織図には、いわき市の公共工事入札に関与した業者の名前が連なり、その資金の流れが矢印で示されていた。そして矢印は、最終的に一つの名前に収束していた。
防衛関連企業の名前だった。
「これは、どういうことですか?」私は怪訝そうに言った。
「地方の公共工事利権と、防衛省の調達汚職が、同じ構造の中でつながっています」と山本は静かに言った。
「そして、その構造の上に乗っかる形で、核武装に関する特定の政策誘導が行われようとしている」山本は、しばらく沈黙した。
「つまり――核武装論議が、利権の隠れ蓑になっている、と?」
私は突然の来訪者の顔をじっと見ながら言った。
「全てがそうだとは申しません」と山本は慎重に言葉を選んだ。「しかし、一部の勢力にとって、安全保障の緊張状態は、非常に 都合がいい。予算が膨らみ、監視の目が緩み、国民の関心が外に向く。」
「先生にお願いしたいのは」と山本は続けた。
「いわきの案件を、そのまま表に出さないでほしい、ということではありません。むしろ逆です。しかし、出し方を、我々と一緒に考えていただけないか。」
しばし、私は沈黙した。
第26話
いわき市の公共工事入札における談合の慣行は、一朝一夕に形成されたものではない。それは、炭鉱産業が隆盛を極めた時代から続く、地域の経済的な相互依存関係の中で、徐々に、しかし確実に根を張ってきたものだ。発注者と受注者の間の「顔の見える関係」は、一方では地域経済を支える温かみとして機能し、他方では競争原理を歪める腐敗の温床として機能する。その二面性こそが、問題を複雑にしていた。
核武装論議が永田町を席巻している今、この国の安全保障の根幹を問い直そうとする動きが加速している。だが、外側からの脅威に対して国家が強固な防衛力を構築しようとするとき、その国家の内側が腐敗していたとしたら、その防衛力は一体何を守るためのものなのか。
核抑止力を持つ国家の正当性は、その国家が国民に対して透明で公正な統治を行っているという事実によって初めて担保される。住民から預かった税金で発注される公共工事の入札が、特定の業者と行政担当者の「親密な関係」によって歪められているとすれば、それは民主主義の根幹を蝕む行為に他ならない。
スマートフォンの着信音が鳴った。
私は一瞬躊躇してから、電話に出た。
「江尻先生でいらっしゃいますか」
女性の声だった。
第27話
「はい、江尻です」
私は努めて冷静な声を意識した。
「突然のお電話、失礼いたします。」
低く、しかし凛とした、知性を感じさせる声だった。射抜くような鋭い響きが受話器越しに伝わってくる。
「どちら様でしょうか」
「内閣情報調査室統括官の九条と申します。……先生が現在、第三者委員会で対応しているいわき市の信用金庫不正融資使途不明金の件で、お話ししたいことがございます」
心臓の鼓動が一段、速くなる。行政書士の事務所に、いわゆる「内調」から直接連絡が入るなど、尋常ではない。
「……私の活動が、官邸の耳に入るとは光栄ですね。ですが、一介の街の法律家が内調のお手を煩わせるようなことはしていないはずですが」
「いいえ、江尻先生。あなたが今触れようとしているのは、単なる信用組合の不正融資事件ではありません。それは、この国の『骨格』を造り替えるための聖域です」
翌日、私は、いわき駅前複合施設内の洒落たカフェの隅で九条内閣統括官と対峙していた。
九条内閣情報調査室統括官は、仕立てのいい紺のスーツを纏い、隙のない美貌を湛えていた。その瞳は冷徹だが、どこかこの国の行く末を憂うような深い陰影を宿している。
「日本が核武装を現実の選択肢として検討し始めた今、防衛予算の増額は火急の課題です。ですが、その資金源の一部が、地方の信用組合不正融資の使途不明金が、特定の政治団体へ還流しているとしたら?」
彼女はテーブル越しに、一枚の資料を差し出した。
「いわき市いわき信用組合不正融資事件は、その巨大なエコシステムの末端に過ぎません。ですが、末端の腐敗は往々にして、全体を崩壊させる引き金になる。私たちは、その『不純物』を取り除きたいと考えています」
九条内閣調査室統括官は不適な笑みを浮かべた。
第28話
メールを開くと、成年後見センターコスモスの合同研修会が東京の行政書士会講堂で開催との案内があった。
今回の研修は、市民法務部等との共催となり、通常とお申し込み方法が異なりますのでご注意ください。との記載が私の興味を引いた。
「市民法務部との共催か。面白い。」私は思わず呟いた。
早速、合同研修会に参加を申込んだ。この手の講習会には全く
興味を惹かれたことないのだが・・・
合同研修会出席ための東京出張の際、私のむさ苦しい事務所に突然現れた美人内閣調査員に会ってみたいと思ったわけである。
彼女に会って、反社会組織と金融機関との黒い関係についての
情報を得たいと思ったのである。
いわき信用組合不正融資事件に第三者委員としてまがりなりにも関わっている私にとっては当然と言えば当然の心理であると言えなくもない。
それに、私は、彼女の美貌の裏に潜む得たいの知れない「翳り」を敏感に感じ取って気になっていたということもある。
思い切つて、美人内閣調査室員に電話をすると意外にも会ってくれることになった。
第29話
メールを開くと、成年後見センターコスモスの合同研修会が東京の行政書士会講堂で開催との案内があった。
今回の研修は、市民法務部等との共催となり、通常とお申し込み方法が異なりますのでご注意ください。との記載が私の興味を引いた。
「市民法務部との共催か。面白い。」私は思わず呟いた。
早速、合同研修会に参加を申込んだ。この手の講習会には全く
興味を惹かれたことないのだが・・・
合同研修会出席ための東京出張の際、私のむさ苦しい事務所に突然現れた美人内閣調査員に会ってみたいと思ったわけである。
彼女に会って、反社会組織と金融機関との黒い関係についての
情報を得たいと思ったのである。
いわき信用組合不正融資事件に第三者委員としてまがりなりにも関わっている私にとっては当然と言えば当然の心理であると言えなくもない。
それに、私は、彼女の美貌の裏に潜む得たいの知れない「翳り」を敏感に感じ取って気になっていたということもある。
思い切つて、美人内閣調査室員に電話をすると意外にも会ってくれることになった。
第30話
待ち合わせ場所の新宿南口にあるPepper PARLOR 東急プラザ渋谷東急店に、女性内閣情報調査室職員九条 加奈子は時間どおりにやってきた。
このカフェは、ペッパー君だらけ。 ペッパー君が ずっとそばに居てくれる。 受付もペッパー君が行う近未来的な解放感に溢れた店である。もちろん、 オーダーした商品も ロボットが運んで来くる。
九条 加奈子内閣情報室員は、素晴らしい美人だった。
早速、名刺交換、お洒落な椅子に腰降ろすと、 ペッパー君が注文したアフタヌーンティーを運んできた。
「私、退職することになりました。」九条 加奈子は唐突に話を
切り出した。
「退職ですか?内閣情報調査室に何年勤務されましたか。」
私は言葉を継いだ。
「10年です。」
「失礼ですが、何故、お辞めになるんですか?」
「渡米するんです。危機管理を勉強するため、グロービス経営大学院に留学するんです。」
「ところで、内閣情報調査室の概要について教えて頂けませんか?」
「内閣情報調査室は公安と何が違うんですか?・・・」
簡単に言えば内閣情報調査室は内閣官房内にある組織で情報を集約し分析して、内閣官房長官や内閣総理大臣に報告することが主な仕事です。
内閣情報調査室は警察庁(公安警察)、法務省(公安調査庁)、外務省(各大使館、国際情報統括官組織)、防衛省(情報本部、自衛隊情報保全隊、各中央調査隊)から上がってくる情報を集約して分析し内閣官房長官や内閣総理大臣に報告することが主な仕事です。
又、他国の情報(諜報)機関との交流や情報交換なども行っています。
情報調査室は日本情報(諜報)機関の事務局という感じですかね。
内閣情報調査室は各機関からの出向者も多いです。」九条 加奈子は淡々とした口調で話し始めた。
第31話
江尻先生、いわき信用組合の件だけど――使途不明金は、10億円どころじゃないのよ。」
九条加奈子は、飲みかけの紅茶をソーサーにそっと戻した。カップが磁器に触れる、かすかな音だけが室内に響いた。
「え――いくらですか?」
私は思わず前のめりになった。
「プラス31億円。」
加奈子は声をひそめた。まるで、この店の壁にも耳があるとでも言うように。
「本当ですか……トータル41億円も」
言葉が喉に詰まった。数字が、頭の中でうまく形を結ばない。
「先生にお会いできるのは、これが最後になるから。」加奈子は静かに、しかしはっきりと言った。「だから、本当のことを話しておくわ。――これは、茶番なのよ。」
薄い笑みが、その口元に浮かんだ。自嘲とも諦めともつかない、乾いた笑みだった。
「茶番、とは?」
「最初から、すべて決まっていたということ。筋書きのある芝居よ。」
加奈子は再び紅茶のカップを手に取り、ゆっくりと一口含んだ。窓の外では、晩秋の光が街路樹の葉を淡く照らしていた。
「この茶番劇の正体を知ってしまったら――もう、関わり続ける気にはなれなかった。」
「渡米されるのは、そのことに絶望なさったから?」
「ええ。」
一瞬、加奈子の表情に影が差した。何かを振り切るように、彼女は視線を窓の外へ向けた。
「いわしんに41億円もの使途不明金があったなんて、私には全く……。九条さん、そのカラクリを教えていただけませんか。第三者委員会の調査で、なぜ本当の金額が明らかにされなかったのか。茶番というのは、いったいどういうことなんです?」
言葉が矢継ぎ早に出た。引き止めなければという焦りが、私の口を動かしていた。
「知らないほうがいいわ。」
加奈子は窓の外を見たまま、静かに言った。
「そのうち、わかる日が来るはずよ。」
それだけ言うと、彼女は席を立った。コートの裾がさらりと揺れ、紅茶の残り香だけが、テーブルの上に漂い続けた。
第32話
十一月の夕暮れは早い。
常磐線の線路沿いに伸びる道は、かつて炭鉱夫たちが肩を寄せ合って歩いた道であった。湯本の温泉街は、かつての繁栄の面影をわずかに残しつつも、シャッターの降りた店舗が連なり、どこか寂然とした空気を漂わせていた。
私――行政書士の江尻――は、コートの襟を立てながら、今日の出来事を反芻していた。
依頼人は、いわき市内の中堅建設会社の経理担当者、佐藤みどりという四十代の女性であった。彼女が私の事務所を訪れたのは三日前のことだ。持参した書類の束には、市発注の下水道工事に関する入札記録と、不自然な資金の流れを示す通帳のコピーが含まれていた。
「先生、これを見てください」と、彼女は声を潜めて言った。「うちの社長が、市の担当者に何かを渡しているのを、私は見てしまったんです」
その「何か」が何であるかは、書類を一瞥すれば明らかだった。
問題は、構造にあった。
いわき市の公共工事入札における談合の慣行は、一朝一夕に形成されたものではない。それは、炭鉱産業が隆盛を極めた時代から続く、地域の経済的な相互依存関係の中で、徐々に、しかし確実に根を張ってきたものだ。発注者と受注者の間の「顔の見える関係」は、一方では地域経済を支える温かみとして機能し、他方では競争原理を歪める腐敗の温床として機能する。その二面性こそが、問題を複雑にしていた。
核武装論議が永田町を席巻している今、この国の安全保障の根幹を問い直そうとする動きが加速している。だが、私には、どうしても思えてならないことがあった。
外側からの脅威に対して国家が強固な防衛力を構築しようとするとき、その国家の内側が腐敗していたとしたら、その防衛力は一体何を守るためのものなのか、と。
核抑止力を持つ国家の正当性は、その国家が国民に対して透明で公正な統治を行っているという事実によって初めて担保される。住民から預かった税金で発注される公共工事の入札が、特定の業者と行政担当者の「親密な関係」によって歪められているとすれば、それは民主主義の根幹を蝕む行為に他ならない。
いわきの水道工事の贈収賄事件も、いわしんの不祥事も、そして佐藤みどりが持ち込んだ今回の案件も――それらはすべて、同じ土壌から生えた異なる形の植物であった。
湯本駅の明かりが見えてきた。
駐車場の入口で、私はふと立ち止まった。スマートフォンに着信が入っていた。表示された番号は、見覚えのないものだった。しかし、市外局番は東京――それも、霞が関のあたりだ。
私は一瞬躊躇してから、電話に出た。
「江尻先生でいらっしゃいますか」
低く、落ち着いた男の声だった。
「そうですが」
「内閣情報調査室の者です」と、男は言った。「先生が現在調査されている件について、折り入ってご相談したいことがございます。いわきの案件は、先生がお考えよりも、はるかに大きな話につながっているかもしれません」
夜風が、常磐の山から吹き下ろしてきた。私は、コートの襟をさらに立てながら、暗くなり始めた湯本の空を見上げた。
第33話
内閣情報室職員山本 光が再びいわきを訪れたのは、師走も押し迫った頃だった。
私の事務所に現れた桐島は、前回よりもやや表情が険しかった。コートを脱ぐ間もなく、彼はファイルをテーブルに置いた。
「いわしんの件ですが」と山本は言った。「我々が調べたところ、不正融資の資金の一部が、防衛関連のフロント企業に流れていた可能性があります」
私は、コーヒーカップを持つ手を止めた。
「どういうことですか」
「いわしんの特定の融資先企業は、表向きは地元の建設業者や不動産業者です」と山本は続けた。「しかし、その資金が転々とした先に、防衛省の外郭団体と人的なつながりを持つ企業グループが存在しています」
「地方の信用組合の不正融資が、防衛利権と繋がっている?」
「直接的な証拠はまだありません」と桐島は慎重に言葉を選んだ。「しかし、資金の流れは、そういう仮説を否定できない状況です。
窓の外では、いわきの冬の雨が、静かに地面を濡らしていた。
「核武装の議論と、どう繋がるんですか」
山本は、初めて表情を崩した。苦渋、とでも表現すべき顔だった。
「核抑止力の整備には、膨大な予算が必要です。その予算の配分に関与できる立場の人間にとって、核武装論議の高まりは、端的に言って、巨大なビジネスチャンスです」
第34話
山本は、その夜、一枚の図を描いた。
いわき市公共工事入札談合
↓地元建設業者・管工事会社
↓
いわき信用組合 不正融資
↓
融資先フロント企業群
↓
防衛関連企業・外郭団体
↓
核武装推進ロビー活動
↓
防衛予算拡大
↓
(資金が再び地方の利権構造へ還流)
矢印を描き終えて、山本は鉛筆を置いた。
これは陰謀論ではない、と彼は自分に言い聞かせた。
個々の事件は、それぞれに独立した犯罪だ。いわき市の入札談合も、いわしんの不正融資も、それ自体として許しがたい不正行為だ。
しかし、腐敗というものは、真空の中では生まれない。それは必ず、腐敗を許容し、腐敗から利益を得る構造の中で育つ。
地方の小さな利権と、国家安全保障という巨大な予算の世界が、同じ「論理」で動いているとしたら――。
その論理とは何か。
「仲間内の利益を優先し、外部の監視を拒絶し、異を唱える者を排除する」
いわしんの組織内で、不正を知りながら沈黙を守った職員たちの心理と、防衛予算の不透明な配分を見て見ぬふりをする官僚たちの心理は、根本において同じではないか。
規模は違う。しかし、構造は同じだ。
第35話
日本が核武装を選択するとして、その核戦力を管理・運用するのは誰か。
政治家か。官僚か。軍人か。
いずれも、人間だ。
そして人間が組織を作れば、そこには必ず、組織の論理が生まれる。仲間内の利益、内部告発への圧力、外部監視の排除――。
いわしんの理事会で起きたことが、核管理組織の内部で起きないという保証は、どこにあるのか。
入札談合に手を染めた市の担当者たちが「自分は国家のために働いている公務員だ」という自己認識を持っていたように、核戦力の利権に群がる人間たちもまた「国家の安全保障のために働いている」という確信を持つだろう。
最も危険な腐敗は、愛国心の衣をまとった腐敗だ。
藤堂は、窓の外のいわきの夜景を眺めた。
常磐の山々の向こうには、太平洋が広がっている。その海の向こうには、北朝鮮がある。中国がある。
脅威は確かに実在する。
しかし、その脅威に対抗するために構築される国家の力が、内側から腐敗によって空洞化されていくとしたら――。
核の傘は、誰を守るのか。
いわしんの不正融資で預金を案じた老人たちを、守るのか。
入札談合で仕事を奪われた中小の建設業者を、守るのか。
不正を告発しようとして組織から圧力を受けた内部告発者を、守るのか。
第36話
東京・新宿の高層ビル群が夕闇に沈む頃、地下駐車場の奥まった一角に、二台の黒塗りのセンチュリーが向かい合うように停まっていた。
「話は聞いている」
稲葉組三代目・稲葉剛志は、シートに深く座ったまま低く言った。六十二歳。白髪交じりの頭を丸め、指には刺青の模様が手首まで這い上がっている。その目は、長年の修羅場を経てきた者だけが持つ、静かな危険を帯びていた。
向かいに座るのは、防衛省の元高官・山城誠一郎。背広の襟をきつく合わせ、額に汗が光っていた。
「北朝鮮は今月だけで三発。中国は南シナ海の演習を倍増させた。アメリカはもう動かない」山城は声を抑えながら言った。「このままでは日本は丸裸だ」
「それで、俺に何をしろと」
「物資の調達ルートです。あなた方が持っているロシア東部のチャンネル——」
稲葉は片手を上げ、山城の言葉を遮った。
「核の話をするなら、値段は桁が違う」
沈黙が流れた。駐車場の外で、遠くサイレンの音が流れ、消えた。
第37話
朝、佐藤みどりに電話をかけた。
「覚悟は決まりましたか」
「はい」と、彼女は答えた。声は、初めて事務所を訪れた時より、ずっと落ち着いていた。「怖くないと言えば嘘になります。でも、黙っていることの方が、もっと怖い」
「どうして」
「もし私が黙っていたら」と佐藤みどりは言った。「次の入札でも、また同じことが繰り返される。うちの子どもたちが大人になった時、この街が、そういう街であり続けることの方が、怖い」
私は、受話器を持ちながら、しばらく目を閉じた。
これだ、と思った。
核抑止力とは、相手に「攻撃すれば自分も滅ぶ」と思わせる力だ。
民主主義における腐敗への抑止力もまた、同じ構造を持つ。
「不正を行えば、必ず告発される」という確信を社会に根付かせること。
それは、核ミサイルよりも、はるかに地道で、はるかに困難な仕事だ。しかし、その地道な積み重ねなしに、国家の真の強さはありえない。
佐藤みどりのような一人の経理担当者が、組織の圧力に抗して声を上げること。
私のような一人の行政書士が、市民のオンブズマンとしてその声を受け止めること。
地方紙の記者が、その事実を記事にすること。
検察が、証拠に基づいて捜査を行うこと。
その連鎖こそが、民主主義の抑止力だ。
いわしんの不正融資事件が私たちに問いかけているのは、単に一つの金融機関の経営問題ではない。
私たちの社会が、腐敗に対する免疫力を持ち続けているか否か、という問いだ。
そしてその免疫力を失った社会が、たとえ核戦力を持ったとしても、それは本当の意味での「抑止力」にはなりえない。
核の傘の信頼性は、究極的には、その傘を差す国家の民主主義の健全性にかかっている。
私は、電話を切り、コートを手に取った。
今日もいわきの空は低く垂れ込めていた。
私は、確かな足取りで、事務所の扉を開けた。
第38話
黒田蒼は三十四歳、元海上自衛隊の潜水艦乗りだった。今は漁師を装い、日本海側の小さな港町に暮らしている。稲葉組の「物流担当」として動き始めてから三年が経つ。
依頼の内容を聞いたとき、黒田は一度だけ「断る」と言った。
組の幹部・村上が机を挟んで向かいに座り、封筒を置いた。分厚い封筒だった。
「断る権利はない。お前が横浜でやったことは、まだ消えていない」
黒田は封筒に手を伸ばさなかった。ただ、窓の外の灰色の海を見つめた。
任務は単純に見えた——ウラジオストク近郊の廃棄施設から、小型のコンテナを受け取り、日本海を渡って能登半島沖の指定座標に届ける。中身については「知らなくていい」と言われた。
だが黒田は元潜水艦乗りだ。放射線の遮蔽に使われる鉛のライニング、特殊な冷却システム——コンテナの仕様書を一目見ただけで、それが何であるかは分かった。
公安調査庁の久我涼子は、三ヶ月前から稲葉組の動きを追っていた。三十八歳、独身。上司からは「仕事に取り憑かれている」と言われる。
最初の異変に気づいたのは、組の資金移動の分析だった。暗号資産を使った複数の迂回送金。送金先をたどると、一つはモスクワ近郊のペーパーカンパニー、もう一つはパキスタンの核技術者が過去に関与したとされる研究機関に行き着いた。
「これは密輸じゃない」久我は深夜のオフィスで、画面を見ながら呟いた。「これは国家計画だ」
問題は、稲葉組の背後に誰がいるかだった。資金の一部は、ある政治団体の隠し口座を経由していた。その団体の顧問名簿に、桐島誠一郎の名前があった。
久我はファイルを閉じ、タバコに火をつけた。
煙が天井に向かって昇るのを見ながら、彼女は思った。——これを表に出せば、政府が揺れる。出さなければ、日本が変わる。
どちらにしても、もう後には引けない。
第39話
能登半島の漁港。
黒田は小型漁船のエンジンをかけながら、携帯の画面を確認した。座標は頭に入っている。天気予報は「波高三メートル、視界不良」——むしろ好都合だった。
しかし出港の三十分前、桟橋の端に人影が見えた。
「黒田さん。」
振り返ると、久我涼子がコートの襟を立てて立っていた。
「乗せてください。」
黒田は無言で彼女を見た。
「あなたが何を運ぶか知っています。どこへ持ち込まれるかも。」久我は続けた。
「でも、あなたを逮捕しに来たわけじゃない。」
「じゃあ、何しに来た。」
「止めに来た。——一緒に。」
波の音だけが響いた。黒田はエンジンを切った。
「俺が断ったら?」
「あなたは断らない。」久我はまっすぐ黒田の目を見た。
「あなたもこれが間違いだと分かっているから。」
第40話
船は暗い海を進んだ。
黒田は舵を握りながら、久我に話した。自衛隊を辞めたこと、横浜での過去、組に取り込まれた経緯。久我は何も言わずに聞いていた。
「俺は日本を守りたかった。ただそれだけだった。」黒田は言った。
「稲葉組も、同じことを言うでしょうね」久我は静かに答えた。
「でも守り方を間違えれば、守ろうとしたものを自分で壊すことになる。」
指定座標に着いた時、海上には何もなかった。
黒田は衛星電話を取り出し、反社会組織の組長稲葉に繋いだ。
「座標に着いた。だが引き渡しはできない。」
そう言うと、しばし沈黙した。
「お前は何をしている。」霧島の低く冷たい声が衛星電話から流れてきた。
「俺には無理だ。」
そう言うと、黒田は電話を切った。久我がすでに海上保安庁本部へ連絡を入れていた。二十分後、海上保安庁の巡視船が近づいてくるライトが見えた。
黒田はコンテナを見た。無骨な金属の箱。その中に、日本の未来を変えるかもしれないものが入っている。
黒田はコンテナを持ち上げた。重かった。物理的な重さではなく、それが持つ意味の重さが。
最終回
稲葉剛志は翌朝、自宅で逮捕された。国会議員三名を巻き込んだスキャンダルの首謀者として、一週間後に週刊誌が報じた。
核物質はロシア連邦保安局と共同で回収され、詳細は「国家安全保障上の理由」により非公開とされた。
黒田蒼は取調室の椅子に座り、窓の外を見ていた。灰色の空。
「なぜ最後に止まったんですか。」捜査官が聞いた。
黒田はしばらく黙っていた。
「核を持てば安全になると思っていた。でも海の上で考えた——兵器で守れるのは土地だけだ。人は守れない。」
窓の外で、雪が降り始めた。
久我涼子は廊下でそれを聞いていた。
ファイルを胸に抱き、彼女はゆっくりと歩き出した。事件は終わった。しかし、日本が何によって守られるべきかという問いは、まだ誰も答えを持っていなかった。
核武装によっては日本は守れない。核武装では人間を守ることはできないのである。




