第4話:黄金の流しうち
「……来たよ、武おじちゃん。敵影、一つ。急速接近中!」
まいの叫びと同時に、水前寺グラウンドの古びた照明が激しく明滅した。
闇を切り裂いて現れたのは、これまでの「機獣」とは一線を画す、洗練された人型の金属体。財団が誇る投手型兵種――**『猟兵』**だ。
「鉄砲兵より頑丈で、スタミナも段違い……! 財団、本気で武おじちゃんを連れ戻すつもりだわ!」
まいの持つタブレットには、敵機から放たれる圧倒的なマブイのプレッシャーが赤く点滅している。
猟兵はマウンドに立つと、右腕のボイラーを駆動させた。シュオオオッ! と、高圧蒸気が排気ダクトから噴き出し、その腕が超高速で旋回を始める。
「武、構えろ! 特訓の成果、ここで見せねば死ぬぞ!」
剣心の怒号が飛ぶ。
武は、黄金色に染まった右腕の「打撃棍」を握り直した。
サイボーグ化された肺の蒸気圧を極限まで高め、心臓部のタービンを唸らせる。
(怒りじゃない……マブイを一点に凝縮し、バットの軌道に『乗せる』んだ……!)
猟兵の右腕が放たれた。
音速に近い重球が、空気を切り裂き武の顔目掛けて迫る。
「……見えた」
黄金の瞳が、白球に纏い付くマブイの残滓を捉えた。
武は一歩踏み込む。最短距離で振り抜かれたバットが、空中で金色の弧を描く。
「黄金の流し打ち――ッ!!」
力任せの強振ではない。
【金】の属性が持つ吸着力が、敵の剛速球をバットの芯へ強引に引き寄せ、逆方向へと押し返した。
キィィィィィン! という高周波の衝撃波がグラウンドを震わせる。
打球は、まるで黄金のレーザーのように一直線に飛び――空中で次弾を装填しようとしていた猟兵の「マブイ石」を正確に撃ち抜いた。
「ガ、ア……ッ……」
火花を散らし、膝から崩れ落ちる猟兵。
武は、立ち上る白い蒸気の中で、自身の黄金の拳を静かに見つめた。
「……打てた。兄さん、打てたよ」
「ああ。だが、これはまだ序章だ」
剣心は沈黙する猟兵の残骸を見下ろしながら、不敵に笑った。
「お前の黄金が、世界を揺らす『本塁打』になるまで、特訓は終わらんぞ」
沈黙した猟兵の残骸から、パチパチと小さな火花が散っている。
武は深く、長く、肺に溜まった熱い蒸気を吐き出した。黄金色に輝いていた右腕が、ゆっくりと元の鈍い銀色へと戻っていく。
「ふぅ……。お疲れ様、武おじちゃん! 今の、最高にかっこよかったよ!」
まがが駆け寄り、武の腰のベルトに予備の冷却水カートリッジを差し込む。
その背後では、数十匹の**『整備蛍』**が淡い光を放ちながら、武の機体の継ぎ目に集まり始めていた
「……ま、まぶしいな。こいつら」
「あはは、ごめんね。武おじちゃんのマブイが美味しそうだから、みんなお腹空かせちゃったのかも」
まいの明るい声に、武の張り詰めていた神経がようやく緩んだ。
ふと見れば、東の空が白み始めている。
「よし、今日の特訓はここまでだ。戻って飯にするぞ」
剣心がバットを肩に担ぎ、家の方へ歩き出す。
「飯……。そういえば、昨日から何も食べてなかったな」
サイボーグになっても、腹は減る。いや、マブイを激しく燃焼させた分、身体がエネルギーを求めて悲鳴を上げていた。
「今日はね、おじちゃんの退院と初勝利を祝って、とっておきの**『マブイ大福』**を作ってあるんだから! 早く帰ろ!」
まいに背中を押され、武は不器用な足取りで我が家への道を歩き出した。
過酷な戦いの日々は続く。だが、この温かい朝食がある限り、自分はまだ「人間」として戦える。そんな気がした。




