第37話:泥濘(でいねい)の帰還
【前回までのあらすじ】
霧隠家の「偽りの霧」を心眼で打破した武だったが、チームの危機を察して戦略的撤退を選択する 。SSSランクの負荷に耐えた黄金の右腕からは、限界を告げる蒸気が噴き出していた
「……浅野、長谷川。悪いが、この霧を晴らす手段を整えるまで、ここは預ける」
武の言葉に、浅野家直系の戦士は岩の盾を突き立てたまま、短く頷いた。
「案ずるな、蔵野。我ら浅野は『不退転』が家訓。お前が視界を取り戻すまで、この地を一歩も引かぬ」
長谷川鉄門もまた、十手を構え直し、霧の奥に潜む気配を牽制する。
『……蔵野武、早々に立ち去れ。貴様の黄金は、磨き直されるべきだ。我ら長谷川が、この場の「秩序」を繋ぎ止めておく』
「……感謝する」
武は、まいが操縦する整備車両へと機体を収容させた。
ハッチが閉まる直前、武が見たのは、霧の深淵から不気味に赤く光る、ゼロコアの「新たな執行官」の双眸だった。
広島・蔵野家のガレージ。
戻ってきた武を待っていたのは、心配そうに鼻を鳴らすレオンと、泥とオイルにまみれた「まい」の悔し涙だった。
「……ごめんね、武おじちゃん。私がもっと、霧を透過できるマブイ波形を見つけられていれば……」
「気にするな、まい。お前がいたから、俺は迷わずバットを振れた」
武は黄金の指で、まいの汚れた頬をそっと拭った。
阿蘇の火山から広島の霧へ。戦いのステージが上がるにつれ、今の装備では太刀打ちできない「壁」が見え始めていた。
「……新しい機材、いや、新しい『戦術』が必要だ。まいのオペレーションと、俺のスイングを完全にシンクロさせるための……」
武はガレージの片隅に置かれた、古びたからくり野球の教本を手に取った。
それは、大宮橋右衛門の時代から伝わる、マブイと機体を同調させる秘儀の片鱗。
ゼロコアとの本戦まで、残りわずか




