五里霧中(ごりむちゅう)の戦列
【前回までのあらすじ】
長谷川家から告げられた衝撃の事実。ゼロコアは信州の隠密・霧隠家と結託し、広島を「偽りの霧」で包囲していた 。まいのタブレットに表示される数値は狂い始め、武の黄金の右腕も、見えない敵の気配に苛立ちを募らせる。
視界は、わずか数メートル。
「土」の浅野、「捕縛」の長谷川、そして「金」の武。三人の強者が揃いながら、誰もが霧の向こう側に潜む「何か」を捉えられずにいた。
「武おじちゃん、ダメ……! 敵の距離表示が10メートルから100メートルに跳ねたり、逆に機体の背後に反応が出たり……オペレーター用タブレットが完全に使い物にならない!」
まいが悲鳴に近い声を上げる。霧隠家が操る「水の変質属性・霧」は、マブイを霧状に散布し、機体の位置情報を誤認させる最悪のジャミングだ。
『——ククク、黄金のバッターも、見えねば空振りするだけの案山子だな』
霧のあちこちから反響する声。それは、実体を持たない亡霊との対話のようだった。
「……見えないなら、全部まとめて叩き出すだけだ!」
武が焦れてバットを大きく振るが、手応えはない。黄金の閃光が霧を切り裂くが、その隙間を埋めるように、再び濃密な「偽りの霧」が押し寄せる。
「落ち着け、蔵野! 霧隠の術中に嵌るな!」
浅野が岩の盾を地面に突き立て、防衛陣を敷く。だが、その足元の岩盤から、霧状のマブイが蛇のように這い上がり、浅野家の機体の関節部へ「サビカビ」のような腐食を誘発し始めた。
「……ちっ、この霧、機体を内側から腐らせる気か」
絶体絶命の包囲網。武は目を閉じ、右腕の黄金の指先に神経を集中させた。
五感を超えた「マブイの気配」を探り当てるまで、この試合は終われない。




