第3話:マブイを打つバット
「構えろ、武。その右腕の黄金は、お前の怒りだ。だが、野球は怒りだけでは打てん」
深夜の水前寺グラウンド。剣心は、武に向かって一球の古びたボールを投げ渡した。
「それは『マブイ石』の端材を練り込んだ練習球だ。お前のその黄金のマブイを、指先から球へ流し込んでみろ」
武が言われるままにボールを握ると、右腕の黄金の回路が脈打ち、球体が淡く発光し始める。
「いいか。からくりを動かすには、最低限『ボイラー』と『バッテリー』、そして『蒸気タービン』の3点が必要だ。お前の体はその全てを内蔵している」
剣心は、武のサイボーグ化された胸部を指差した。
「だがな、ただ出力を上げるだけではタービンが焼き付く。マブイグミ(魂入れ)の真髄は、術者の深層心理による制御だ」
「制御……」
「そうだ。バットを振る瞬間、肺の蒸気圧を極限まで高め、マブイを一点に凝縮させろ。それができなければ、神奈川の小澤兄妹が放つ『属性の変質』を纏った魔球には、かすりもしないぞ」
武はバットを構え直した。
まいの操る「整備蛍」が、武の関節部に冷却水を吹きかけ、オーバーヒートを防いでいる。
「振れッ!!」
剣心の怒号。武は全力でスイングした。
黄金の軌跡が空気を切り裂き、高圧の蒸気が排気ダクトから吹き出す。
「……惜しいな。今のは『ただの打撃』だ。マブイで空気を『捕らえて』いない」
厳しい言葉。だが、剣心の瞳には、弟が持つ無限のポテンシャルへの期待が宿っていた。




