第22話:月下の誓い、男たちの対話
【前回までのあらすじ】
『大巌亀』を退けた武だったが、その右腕は過負荷でオイルを吹き、瀕死の状態にあった。まいが必死の応急修理を施す傍ら、武は阿蘇の夜風に吹かれながら、九龍と並んで座っていた。
冷却ホースから漏れる白い蒸気が、月光に透けて消えていく。武は動かない右腕を膝に乗せ、焦げたジャージのポケットから、くしゃくしゃになったプロ野球のスカウト名簿を取り出した。 [cite: 2026-01-24]
「……九龍。あんた、なんでこの山を守ってる」
九龍は重弓騎兵の矢を磨く手を止め、遠い火口を見つめた。
「阿蘇松井家は『マブイ樹』の番人たい。この地熱は、神さんが預けてくれた命の火。そいばゼロコアのような外道に、汚されたままにはできんとよ」
九龍が武の方を向き、不敵に笑う。
「あんたこそ、何のためにその黄金の腕ば振るう。単なる復讐じゃなかろうが」
武は名簿を見つめ、静かに答えた。
「……俺は、ただの大学生だ。単位を取って、野球を続けて、いつか親父と同じマウンドに立ちたい。その『当たり前』を、財団は奪いやがった」
武が黄金の指先で地面をなぞると、岩盤に深い溝が刻まれる。それはもはや、人間の力ではなかった。
「この腕は、もうボールを握るための感覚を忘れてるかもしれない。でも、バットを振る理由は見つけた」
「ほう、なんたい?」
「汚された球を、全部打ち返して、元の場所に届けることだ。……九龍、あんたの山を、元の綺麗な阿蘇に戻してやる」
「……ハッ、生意気な大学生たい」
九龍はそう言うと、磨き上げたばかりの「地熱蜂の蜜」が入った竹筒を武に放り投げた。
「そいは傷に効く。さっさと治せ。後編の試合は、俺一人じゃ勝ちきらん」
二人の視線の先、阿蘇の深部から、さらに巨大で邪悪な「マブイの鼓動」が響き始めた。 [cite: 2026-01-24]




