第1話:月夜の再会と黄金の変質
【熊本・水前寺グラウンド ― AM 2:00】
月明かりが照らす無人のグラウンドに、金属が擦れるような、不自然な足音が響いていた。
「はぁ……はぁ……」
蔵野武は、右腕から滴るオイル混じりの血を無視して走り続けていた。
数日前まで、自分は熊本工業大学に通う、ただの「ハンパーマン(持たざる才能)」だったはずだ 。
10万人に1人と言われる、コアマブイ5という一般人以下の微弱な魂
それが今では、巨大組織「コアゼロ財団」の手によってマブイを強引に剥ぎ取られ、全身を冷たい機巧のパーツに置き換えられたサイボーグへと変えられていた。
「属性……変質……?」
意識が遠のく中、脳裏に財団の科学者の声がリフレインする。
強烈な精神的ショックと、手術台での臨死体験。
それが、本来なら無個性なはずだった武の微弱なマブイを歪ませ、あり得ない変質を引き起こしたのだ。
「誰だ!」
鋭い声。マブイを乗せた圧倒的な威圧感。
グラウンドの端、夜な夜な素振りをしていた一人の男が振り返る。
蔵野剣心。武の兄であり、月影を操る剣道錬士六段の剣士だ。
「……兄さん」
「武か!? お前、その体は……何があった!」
剣心が駆け寄る。その背後では、異変を察知した姪のまいに導かれ、自立機獣のレオンが飛び出してきた。
まいの手には、既に戦場を分析するためのタブレットが握られている 。
「逃げて……追っ手が来る」
武の言葉が終わるより早く、空から無数の不気味な羽音が響いた。
財団の放った「機獣」――自立型の攻撃からくり虫が、月を覆い隠すほどの群れで迫る
「まい、オペレートを頼む! 武は俺が守る!」
剣心が愛用のサーベルバットを構える。
だが、武は兄の前にふらりと立ち塞がった。
「いいんだ、兄さん。……もう、僕は人間じゃない。でも」
武の瞳が、鈍い銀色から、刺すような「金色」へと変色していく。
絶望の果てに掴んだ、金属性の変質が暴発する。
「僕のマブイを奪った奴らを……この『からくり野球』の世界ごと、叩き潰す」
武の右腕が変形し、重厚な金属の打撃棍へと姿を変えた。
黄金の輝きが、水前寺の夜を切り裂いた。




