第4話
屋敷内に侵入警報が鳴り響く中、廊下を駆けて三人はガレージへと向かった。ガレージへと通じる扉は閉ざされたままだ。突入に備えシェリーはスマホ画面にガレージ内の監視カメラ映像を呼び出した。綾は少し背伸びをしてシェリーのスマホを覗き込んだ。表示されたカメラ映像に侵入者の姿はない。四輪バギーやダートバイク、他の備品類に変化は見られない。
「侵入者は警報に驚き出ていったのでしょうか?」とシェリー。
「それだとよいのだが……」
「とりあえず出て状況を確かめてみましょう」
シェリーは鍵を開け、ガレージへと出た。そして扉の傍にある制御パネルに暗証番号を打ち込み警報を解除した。けたたましい警報が鳴りを潜め、落ち着きを取り戻したガレージで各自状況確認を始める。ガレージのシャッターにこじ開けられた形跡はない。
「これはどうしたことだ!」
レオの叫びが綾の耳に入った。二人でそちらへと向かう。着陸装置はこちらに来た時と同様に直立し変化はないように見えたが、違っていた。
レオがいる側の中央部の外装が手前へせり出していた。その中は空洞となっていた。そこは引き出しのような収納スペースとなっていたようだ。
「どうされました?」
「ここに入れていた。重要な品が消え失せている」レオは体を小刻みに震わせている。「これは大変なことになった」
「こじ開けられた様子は……」
「ない……」
「これは……」あまりに手際が良過ぎる。
「これは興味本位にやってきた者の犯行ではありませんね」とシェリー。「犯人はここに狙いの品があることを知っていて、あの着陸装置の扱いも心得ていたよう……」
シェリーからスマホの着信を告げる楽曲が流れてきた。会話を中断しシェリーはその対応にあたる。発信元は警備会社で警報についての問い合わせだ。シェリーは警報は自分たちの不手際による誤報であることを告げ詫びを入れた後通話を切った。
「犯人は装置の扱いも心得ていた……」
警報が作動したもののガレージのシャッターの扱いも心得ていたようだ。
「そんな。これはお星の乗り物で……」
「そうよね。ここで何が起こっていたのか。見てみましょうか」
シェリーはスマホの画面をタップし警報時のカメラ映像を呼び出した。
全員で見られるようにシェリーはしゃがみ込み態勢を低くした。ガレージのシャッターが整然と開き始め、それに伴い警報が鳴り響く。開いたシャッターの隙間から入ってきたのは白く丸いマシュマロのような集団だ。
「これは!」
レオに心当たりがあるようだ。
マシュマロ達は真っすぐレオの着陸装置に向かい、体内から取り出した小型端末を装置に向けてかざした。装置が反応を示し、引き出しがせり出してくる。マシュマロたちはその中に収められていた。黒いケースを取り出し白い体を震わせた後それを頭頂部に載せ外へと滑るように駆け出していった。
「お知り合いですか?」
「あぁ、知っている。競合相手という関係ではあるが、ここまで強行処置を取ってくるとは思いもしなかった。彼らの拠点はここから離れた場所にある。この事故の知らせを受けてすぐに駆けつけられる距離にはないはずだ」
「……もし、今回の事故が周到に練られた計画の一部ならそれも可能だと思われます」
「今回の事故は仕組まれたもので、偶然ではないということか?」
「はい、今回のレオ様の地球への来訪は秘匿されてものですか?」
「そのような性格の会議ではない。むしろ、これまでの研究成果を公に知らしめるための集まりだ」
「では競合相手の方もご存じで……」
「知っている。特に隠してはいない。彼らにも協議に参加するよう声を掛けていた」
「それがこんな結果に……」
「残念なことだな……」
「レオ様が地球まで持ってきたのはそれほどに重要な物だったんですか」と綾。
「お前たちには見慣れた存在かもしれんが、我々には重要だ。それにあいつらがその扱いを誤り外部に流出させることにでもなれば一大事になりかねん」
一体地球に何が持ち込まれたのか。見慣れた危険物とは何なのか。綾はその興味を抑えきれなくなってきた。
「一大事って危ない物なんですか?」
「扱いようによってはこの星の環境を破壊しかねない」
「何なんですか」
危険なウイルスか、それとも毒劇物あるいは核物質のような物か。
「虫だ、お前ものよく知っているこの星にも生息する昆虫だ」
「えっ!」
「それがどうして……」
「遺伝子操作を加えて繁殖力と耐久性を高めている。そんな存在が流出すればこの星にとってどんな脅威になるかわかったものはない。お前たちも外来生物の流入には手を焼いているだろう」
「それはそうですが、なぜ昆虫なのですか?」
「食糧問題を解決するためだ。無人で自立制御、自動修復機能を持つ探査機であればそれについては考えることはないが、いざ我らが出向くことになればその点が重要課題となってくる。拠点建設のための重機類は使いまわし、資材は現地調達で住むのだが、問題となるのはいつもその点だ。その調達には栽培や飼育に頼る他ない。運ぶ貨物が莫大な量になってしまうからな。その解決策にようやくめどが立ちそうなのだ」
「虫を食糧にということですか?」
シェリーの言葉に綾は喉の奥にむずかゆさを感じた。そこで想像するのをやめた。その気分が胃まで伝わっては問題だ。
「姿そのままで食うわけではない。変質を防ぐために粉末に加工する。お前たちも同じことをしているはずだ。加工した粉末を焼き菓子に混ぜて売り出しているはずだ」
コオロギのクッキーの事なら知っている。まだ口にしたことはないが。
「姿そのままに料理したり、菓子にもなっているはずだ。それで目がつけられ、このほど実用化となりこの星で他の共同体を招いて商談会となったわけだ。会場は我々がロッジと呼んでいる施設で行われる」
「あの方たちは商談によらず成果を奪い取ろうと考えたのですね」
「そのようだな」レオは少しの間黙り込んだ。「奴らはまだ近くに潜んでいるかもしれん。逃走用の脚がなければ遠くへはいけないからな。この騒ぎについては仲間に連絡を入れておいた。先方に動きがあれば捕らえることはできる」
「……では連絡を待つほかありませんか」
「商談はどうなるんですか?」
「残念だが、物を取り返すことができなければ流れることになる」
「……そうですか」
シェリーはまたスマホの操作を始めた。画面を何度も突きスワイプを繰り返す。
「レーダーと上空を行く監視衛星からの情報によると昨日からこれまで、この上空を付近を通過したのは定期便の航空機と何機かの航空機です。それらはすべて素性が知れています。未確認の飛行物体が一つありますが、それは通過の時間からしてレオ様の降下装置と思われます。この数時間でこの島へ飛来または飛び立った物体はありません」
「となると……」
「彼らはまだこの島にいると思われます」
そうだとしても、この小さな島であってもこの三人で捜索にかかるには骨が折れるだろう。
「何か手がかりはありませんか……」とシェリー。
「手がかりと言ってもな……」とレオ。「お前たちこそ何か見なかったか?お前たちの説によると奴らは今回の作戦のために事前にこの島、もしくはこの付近に乗り込んできていたはずだ。ここで作戦のために潜伏していた……」
最近、この付近で話題になったものを思い浮かべてみる。外の友人とも連絡は取ってはいるが目新しい話題は耳にしていない。何も不審な出来事は起こっては。
「あぁ、もしかしたらあのうさぎ……たち……」
「あっ、あのうさぎ!」
「うさぎとは?」
「少し前にこの島に突然白いうさぎが姿を見せ始めたんです。態度も野良うさぎらしくなくって、どこから入ってきたのかと思っていたら……まさか」と綾。
「うさぎと言えば耳が長い小動物だな」
「はい」
「なるほど、あれなら簡単に姿を真似ることができる。そいつらはどこで見かけた」レオは軽く体を左右に振った。
「よく見かけたのは雑木林の中ですね」
「草地との境のあたりでしょうか」とシェリー。
その辺りだ。今日の昼間豚まんの賭けの際に出くわし、レオの降下装置を見に行った時もその辺りからこちらの様子を窺っていた。
「ダートバイクで出向かいましょう」シェリーは傍に止めてあるオフロードバイクに歩み寄り、そのシートを軽く叩いた。
「バイクですか……」
「バイクなら木々の間もすり抜けられる、彼らの迎えが現れてもすぐに急行できるわ」
「それはそうですが……」
裾の長いスカートで地道を蹴散らす乗り物を走らせるのは気が進まない。
「レオ様は……」
「わしはシートの後ろにでも載せてもらえばしっかりと貼りついておく」
「では、急ぎましょう。とりあえず向かうのは草地との境界辺り. そこから北上していきましょう。ついてきなさい」
シャリーは挿したままだったキーを回しバイクのエンジンを始動させた。こうなっては仕方ない。なるようになれだ。綾はもう一台のバイクに向かいハンドルに掛けてあったヘルメットを手に取りエンジンを始動させた。
屋敷から雑木林を貫き島の南側へと続く石敷きの遊歩道。シェリーと綾の二人は、過去に白いうさぎを目にした辺りまで南下し、そこから木々の間を縫って林の奥へと入っていった。ここを起点に屋敷に向かって北上をする計画だ。これをレオの迎えがやってくる明け方までやるつもりだ。その後は彼ら自身に任せてもよいだろう。それがシェリーの方針だ。
月明りだけの雑木林にヘッドライトの輝きを頼りに分け入って崖際まで到達すれば折り返し、反対側へと向かう。
「次行くわよ」バイクのエンジン音に負けじと叫ぶシェリーの声が雑木林の中に響く。
三回目の折り返しの後、木々の間を抜けたバイクは突然開けた土地に出た。そこは駐車場付きのコンビニほどの面積を持つ広場となっていた。
「これはどういうこと……」二人はバイクを止め辺りを見回した。
「……なんですか、これは」綾は思わず驚きの声を上げた。
バイクのヘッドライトに照らされた広場は自然によるものではない。何者かが木々を伐採し、地に残っていた根は掘り起こされ広場の隅に積み上げられている。すぐにも業者が入り建設工事が始められるほどにきれいに整地が施されている。表土の様子から見てそれがなされたのはつい最近のことだ。これだけの土地整備をするためにはそれなりの重機が必要になる。そしてそれ相応の物音も生じるはずだが綾はその気配も感じることはなかった。
「一体いつの間にこんなことに……」シェリーも同様のようだ。
レオはバイクから地面に飛び降り、這うように積みあがられた切り株へと近づいていった。そこに到着するとレオは身体を上下に伸縮させ左右に揺れるなどした。
「この切り口はこの星の工具ではないな……」レオの声が耳に響いてきた。「奴らの仕業か」
「それじゃ、もう逃げた後ですか」綾はバイクのエンジン音だけが響く広場を見回した。
この様子なら既に撤収が完了しているのかもしれない。地球外の乗り物ならレーダーや監視衛星に感知されることなく飛び去ることも可能かもしれない。事実ここへの来訪の際はまったく感知されていない。
「何か残っているかもしれないわ、わたしたちも見てみましょう」
「はい」
綾もシェリーと二手に別れ広場の様子を観察することにした。月明りとヘッドライトのおかげで広場は隅まで照らし出されている。綾はシェリーとは反対側の隅に足を進めた。足元はきれいに整地され土が剥き出しの地面となって何も残ってないように見える。おかしな点は見つからない。いや、何だろう奇妙な影が地面に落ちている。何もないのに影だけがある。
「シェリー様……」綾は足を止めないまま彼女へと向け呼びかけた。
綾は何もないはずの躓き、盛大に転んだ。小石に躓くといった感じではなく大きな障害物に行く手を阻まれたといった雰囲気だ。転げるというより勢いあまって前のめりとなりそのまま倒れたというのが正解だ。危うく顔から地面に叩きつけられそうになったが、とっさに両手を出すことができたため難を逃れることができた。
「痛たたた……」手のひらや腕は痛むが怪我はないはずだ。
エプロンのポケットから虫除けや殺虫剤にスマホなどが飛び出し地面に転がっていく。
「綾、あなた何してるの?大丈夫?」背後からシェリーの声が聞こえた。
「あぁ、少し転んだだけで問題はありません」
身体的には問題はない。痛いのは何もないところで転んだことによる気恥ずかしさからくる心の痛みか。
綾は素早く飛び起きようとしたが何かの上に乗っかっているようで体が浮かび足がつかない。
「しっかりなさい」
シェリーに後ろから引き上げられ、綾はようやく足が地に着き立ち上がることができた。
「ふぅ……」息を着き両手に付いた土を払う。
「シェリー様ここに何かあります」
「えっ?何も見えないけど……」シェリーは怪訝そうに眉を寄せ綾の瞳を覗き込んできた。
「嘘じゃありません」綾は抗議のために足元を指さした。「この影はおかしいですし……」
合わせてさっき転んだ辺りを蹴りつけて見せた。
「これ、おかしいですよ」
音は出ないものの足先が見えない何かに当たり動きを妨げられる。
「絶対に」何かある。
「何を馬鹿なことを……」
宙を蹴りつける綾の姿に釣られシェリーもそこを軽く蹴りつけた。
「……あら?」足先に抵抗を感じたようで、素早く足を後ろに退いた。
改めて何度か蹴りつける。そして、無言で綾を見つめた。
「何か、ありますよね?」と綾。
「えぇ、何かあるわね」シェリーは軽く頷いた。
二人して何もない薄い影が出て地面を見つめる。
「話は聞いていたぞ」レオの声が綾の頭に響いてきた。
綾の足元までやってきたレオは左右の触手を伸ばし目の前の空間を掴み、勢いよく後方へと退いた。何もなかった表土の上に山積みになった小型コンテナが現れた。レオの手元には大きな灰色の布が握られている。それは薄くサテンのような輝きを帯びている。
「お前たちはこれを光学迷彩と呼んでいたな。これがその本物だ」レオは手にした布を左右に振った。「奴らはこれをここに持ち込んだ機材を隠すために使っていたんだろう」
居場所がばれて観念したのか、コンテナの山の反対側から数体のマシュマロが姿を現した。緊急事態だったのだろうが、隠れ蓑を頭から被ってかくれんぼとは何とも間が抜けて見える。
「見つけたぞ、盗んだものを返してもらおう!」
レオはマシュマロ達の元へと駆け寄っていた.。綾とシェリーもコンテナの山を回り込み反対側へと向かう。
レオは叫びを上げるとマシュマロ達の囲みへと飛び込んでいった。マシュマロ達のが盗み出したのは旅行用のスーツケースほどの大きさで底部の四隅に小さな車輪がついていた。これなら彼らの体格であっても取り回しは簡単だろう。と、暢気に眺めている場合ではなさそうだ。ケースの上に飛び乗ったレオにマシュマロ達が群がっていく。世にも珍しい非定型生命体の格闘戦が始まった。体格では勝るレオだが多勢に無勢とあってみるみるその体は見る間にケース上から剝がされていく。それに伴い耳に悲鳴に似たレオの罵声が届き始めた。
ついにレオはケース上から剥ぎ飛ばされ、宙を舞い地面に叩きつけられた。
「レオ様!」
入れ替わりにシェリーがケースに向かい飛び出していった。シェリーは力任せにケースを踏みつけた。一度はシェリーの勢いに後ろに退いたマシュマロ達もすぐにケース奪還のため足元へと群がってきた。シェリーは足元に群がってくるマシュマロ達を素手で掴み、ケースから引きはがし始めた。体格において遥かに巨大な人の力には敵わないようでマシュマロ達は抵抗もむなしくケースから剥がされていく。まさにちぎっては投げの表現通りにシェリーはケースから剥がしたマシュマロ達を遠くへと投げ捨てていった。
すべてを剥がし終えたシェリーは黒いケースにまたがって座り込んだ。そして、傍に転がっていたスプレー缶を手に取りその噴射口をケースに向けた。そのスプレー缶には緑の地に忌まわしき虫のイラストが描かれている。
「おとなしくなさい。わたしたちのことを研究しているならこれのことも知っているわよね。殺虫剤、虫を駆除するための薬剤よ。これ以上ここで騒ぎを起こすようなら、この荷物を開放し、あなたたちの大切な虫たちを根こそぎ全滅させるわよ」
シェリーに詰め寄っていたマシュマロ達は彼女の言葉に動きを止めた。体を震わせることもなく固まっている。レオとは同種族とあって彼らもシェリーの言葉は理解できるらしい。
「そう、動かないでじっとしてなさい。脅しじゃないわよ」シェリーは空いた左手の人差し指をケースに当てた。「これでしょ。ケースを開けるためのボタンは……」
図星だったようでマシュマロの何体かが体を震わせた。
「当たりね」口角を上げ犬歯が剥き出しとなったシェリーの顔は月光と相まって酷く凶悪に見えた。
この場に居合わせた者たちが凍りついたように動けない中で、背後から低いファンモーター音が鳴り響いてきた。レオの降下装置の起動音に似ているが、見渡す限り辺りには何もない。まだ、何かが姿を消し潜んでいるのか。綾は目を凝らし後方を見つめるが何も見当たらない。
音は次第に大きくなっていく。
「隠れていないで出てきなさい!」シェリーの言葉に応じ、それは姿を現した。
背後に出現したのはB-2ステルス爆撃機だった。いや、それによく似た機体だろう。あの爆撃機ができるのはレーダーをごまかすだけで本当に姿を消す能力は持ち合わせておらず、背後にある機体のように浮遊能力もないはずだ。これがレオ達が使う「通船」なのだろう。これならB-2爆撃機のような形状の機体がUFO呼ばわりされるのも頷ける。
ファンモーター音とともに浮かんでいる機体の下部が開き、何かがせり出してきた。それは大量の鉄パイプを束ね、その後部にはいくつもの太いチューブが接続されているような見た目だ。綾は似たようなものを武器兵器の関連番組で目にしたことがある。攻撃ヘリや戦闘機などに搭載されているガトリング砲だ。それが三つの関節を持つロボットアームに支持されていた。それは素早く動き、砲口をシェリーに向けた。
マシュマロ達は素早く後ろに退いた。
「シェリー、やめろ。もういい。そこをどくんだ。それが放つのは高出力レーザーだ。その出力はこの星のものとは比較にならん。お前の体など一瞬でに熱分解してしまう。死んでしまうんだぞ!」レオの絶叫がシェリーの脳内に響く。
「やれるものなら、やってごらんなさい。わたしが熱分解するほどなら、このケースの中にいる虫たちもただでは済まないわよ。組成的には大差ないんだから」
シェリーは宙に浮かぶ機体を睨みつけた。
それに答えるように、いくつもの赤い光点が彼女の身体の上で揺らめき、一点に集約された。
その直後に辺りのすべてがまばゆい光に包まれた。綾はその光を一生忘れないだろう。その場に居合わせた全員が上空に見たのはまばゆいばかりの光を放つ飛行体。マシュマロの機体を遥かに凌ぐ大きさの機体からロボットアームで支持されたレーザー砲が二門飛び出していた。
「ご婦人方、いろいろとお世話になったようですね。もう安心です。落ち着いてください」
柔らかな女性の声が綾の耳に響いてきた。
「助かった?」
シェリーの体から赤い光点が消え、彼らのレーザー砲は輝きを失い機体内へと格納されていった。
「よかった……」騒ぎが終わりを遂げたことを悟った綾はその場に座り込んだ。
マシュマロ達の当初の作戦は目標を大きくずれて降下し単独となったレオを襲い、その荷物を奪い逃走するといった単純な計画だった。それがあえなく失敗したのは降下地点の選定にあったのかもしれない。人も通わぬ無人島を選んだまではよかったが、シェリーと綾の行動力は想定外だっただろう。
彼らの計画は失敗に終わり、何も得ることなくこの地から去っていった。
レオはあの騒ぎの中、救援に駆けつけた共同体関係者に対し細かに状況を中継していたようで、彼らは島に着いた時は既にすべての状況を把握していた。彼らはシェリーたちの協力に謝意を示し、足早に島を去っていった。虫は少し弱ってはいたが無事だったようだ。
後に共同体からは今回の行為に対してお礼をしたいとの申し出が舞い込んできた。金銭でも良いとのことだったが、それでは思い出にならないとレオ達と共に二人で協議し選ばれたのは虫除けだった。そこで共同体からは家庭用百ボルト電源で駆動するハイテク虫よけが提供され、テラスは以前より快適なものとなった。どういう原理かわからないが虫は寄ってこなくなるのだ。台所や屋敷の周辺に出現していたあの黒いのまですべて消え失せた。
騒動から一か月が経った。
新事実を知ることになっても星の美しさは変わらない。今夜も厚着をして二人で星空を眺めている。今夜は空に赤く色づいた満月が浮かんでいる。
「きれいな満月ですね。あそこに本当に異星人が基地を作って住んでいるといっても、誰も信じないでしょうね」
綾は暖かなホットワインが入ったマグカップを両手で包み込みながら夜空を見上げた。
「わたしたちだって、一月前なら笑い飛ばしていたわ」シェリーはほほ笑んだ。
「そういえば、レオ様がどこから来られたか、結局お聞きしませんでしたね?」
「そうね、惑星探査に関する話は聞いたけど、住んでいるお星のことは聞かなかったわね。まぁ、またお会いする機会もあるでしょう。その時のお楽しみにしておきましょう」
「そうですね」
綾はあの夜の体験は誰にも話してはいない。話したところで誰も信用はしないだろう。今それでいいと思っている。話すならばみんなが彼らの存在を受け入れた時でよいと思っている。それがいつになるとしても。




