旧くて新しい街
「私たちは魔境を越えてやってきました。」
「嘘を言ってはいけない魔境を越えることは誰にも出来ない。」
堂々巡りの話し合い。かれこれ1時間は過ぎている。僕はじっと待っていた。いつかの老獣人がきっと此処に居るはずだ。あの時名前を聞くのを忘れていたのが悔やまれる。
此処は、自警団の詰め所のようだ。
この獣人族の廃墟は、様変わりしていた。それほど痛んでいなかった建物はそのまま利用されていて、未だあったが、他は作り変えられて、きちんとした町並みが復元されていた。元の廃墟の面影は,僅かに残っているが、それでも人がいる。人の営みがあると言うことは、街に活気と騒々しさを与え、生き生きと息づいていると言うことだ。
波止場も直され、大きな船も停泊できるようになっている。其処は特に賑わっていた。
詰め所は二階にあったのでその窓からボーと眺めていた僕の目に、あの時会った探検者ギルドの女性が見えた。波止場から此方に歩い来るところだ。目で追っているとこの建物に入ってきた。これで身分が証明されるかな。若しかしてもっと疑われるかも知れないが。
あの時は鑑定も掛けていなかった。今回はどんどん掛けている。この詰め所にいる人達は皆獣人だ。体格も良く、20歳から40歳までの人達だった。皆スキル持ちだ。
彼女が入ってきた。
「不信者がいたって?」
「これは団長、此方にいらしていたのですか。今日はノーズにいらしているとばかり思っていました。」
「いや、行っていた。今帰ったところだ。」
これは驚いた。団長になっていたのか。出世したのかな。
「君は・・。あー!あの時の不審者か!また来たのか。何しに来た!」
これは,疑われる方に振り切ったか。仕方が無い。持久戦か。
「僕はカムイ・ククルス。アフロマの魔導師だ。その節は,ろくに話も出来ずに国に帰ってしまったが。今回はアフロマの使節団、魔法士団長として此方に訪問したのだが、扱いが酷いのでは無いかな。」
「何が団長としてだ!あの時も怪しい奴だと思っていたが、今回は随分偉そうだな。」
矢張り疑われていたようだ。何か証明できる物は・・・「ヌポっ!」「!なんだこれは!」
「待て!これは、精霊の使いでは無いか!」
隠れていたのに何で出てきたヌポポよ。しかし、妖精を知っているだと。此方に精霊樹が在るのだろうか。それともエルフがいるのか?ちょっと、ピンチか?
「貴男の加護妖精か?」
「はい。僕のです。此方にも妖精を持っている方がいらっしゃるのですか?」
「こっちには居ないが、ノーズには居る。エルフの先生が加護持ちだ。」
そんなこんなで、僕達はノーズに連行されてしまった。
今は船に乗っている。三時間ほどで着くそうだが。随分速い船だ。帆船では無い。モーターのような仕組みでもあるのだろうか。魔道具だろうか。音は余りしないところを見ると、魔道具だろう。
「カムイ、大丈夫でしょうか。私怖くなってきました。」
ルーシー。彼女は、魅了のスキル持ちだ。今僕に其れを使ってどうしようというのか。無意識だろうが,僕には利かないぞ。妖精の加護はこう言うスキルは跳ね返してしまう。僕は知らん顔で答える。
「僕も怖いよ。皆もそうだろう。でも,こう言う事は覚悟の上で付いてきたんだろう?」
「・・・はい。弱音を吐いて恥ずかしいです。」
サムが此方を見て僕に目配せをした。ははあ。何時ものことなのか。これは一度言い聞かせておかないと,パーティーが,ギスギスし始めるな。
ベンは、彼女に気があるらしいが、困ったことになった。ヨウゼフはどうか。
「ヨウゼフ、ルーシーのことだがお前は大丈夫か?」
「俺ですか?俺には何もしてきません。人族の女は僕の事を怖がりますんで。」
そう言うこともあったな。獣人族の中にいればこいつはモテモテだ。今は人族の女に対してコンプレックスは無いみたいだな。加護持ちだしスキルは利かないしな。
「カムイさん、ルーシーは寂しがりなんです。自分に注意を向けて貰いたい。そうして、ついスキルを使って仕舞うらしいです。悪気は無いんです。許してやってくれませんか?」
フラン、君は良い奴だな。分った、今回は見逃そう。君に免じて。だが二度目は無い。そう言ってフランからルーシーに伝えて貰うことにした。
ノーズの国に着いた。これからエルフと逢うことになる。