第03話「メイド死にゲーをする 3日目」
ご主人様が朝食のおこぼれをくださるなら、ここでパンを食べる選択肢はナンセンスだろう。
ただ朝食を食べる暇もなく電車に飛び乗った今日。
もう引っ越そうかな。
買っちゃおう。
昨日は誘惑に打ち勝てたのに。
改札の前でパンのこんがりと焼けた匂いを充満させているパン屋が悪い。
トマトとほうれん草のカルツォーネ 400円
ブラックコーヒー 150円
計550円
全然懐が痛んでいない。
周りの人々が速いテンポで喉にパンを突っ込んでいるのを眺めながら、優雅にカルツォーネを味わう。
ほうれん草の他にはコーンとベーコン。
油がほうれん草の甘みを引き出し、コーントマトほうれん草に小麦と全体的に甘い。けれどもそこにベーコンの塩気が輝きだす。
「カルツォーネってストッキングって意味らしいよ」
「えー、ズボンじゃなかったっけ」
私が座っていたテーブルを通り過ぎた女子高校生らがそんな会話をしていた。
少しばかり食欲が下がってしまった。
それに今のJK一緒の電車に乗っていた気が……。
まあ、いいかとトレーを返し今日も私はご主人様の元へと赴く。
ご主人様が部屋のドアを開けると、香り立ったコンソメの匂いが私の鼻孔を貫いた。
ぐうぅぅぅぅ。
そして鳴る私のお腹。
え、食べていいんですか。
はい、着替えてきますねー。
さっさとメイド服に着替えてリビングテーブルに座る。
今日お出しされたのは、くねーでるコンソメずっぱ?
何ですかくねーでるって。
肉団子みたいな意味と、なるほど。
ではずっぱは。
汁物的な、なるほど。
肉団子が入ったコンソメスープということですね。
美味しくない訳がありませんね。
現にスープが私の冷えた身体を温めます。
春ですけど、先ほどホットなコーヒー飲みましたけど、座った電車の座席の下からぼうぼうと暖房が出てて暑かったですけれど。
肉団子の方は肉にくしさふぁありなふぁなら、柑橘系のピューレの酸味ふぁ相乗して美味しすぎます。
あっという間にスープに浮いていた肉団子みっつを平らげてしまった。
どうして美味しいものって食べると無くなってしまうのでしょうか。
え、おかわりですか。
いただきます。
今日もゲームをやって行きますよ。
昨日の続きからです。
新ステージは砦みたいですね。
なんでしょうこの既視感は。
あ、セゴビアの旧市街ってこんな感じですよね。
特にあそこにあるお城にクリソツ。
ってことは砦ではなくお城ですか。
うーん敵はガイコツ、ガイコツ、ひとつ飛ばしてガイコツ。
3体一度にとびかかってくるのはずるくないですか?
いたいいたい。
うぉぉぉ離れろ。
振りほどいたらガイコツはあっけなく死んだ。
そして私の分身はどこからか飛んできた矢に刺さって死んだ。
GAMEOVER
ガイコツは一体一体確実に砕いて、砕いて、砕いて。
矢は当たる前に軌道から外れて。
前進。
ガイコツを砕いて砕いて砕いて、前進。
部屋を開けたらこんにちは!
もうこんなんホラーゲームよ。
少しばかりダメージを貰ったが、砕く。
階段を登って、うわぁ
GAMEOVER
なにあれ樽が転がり落ちてきて爆発したんですけれど。
ドンキーコ〇グ?
始めにガイコツを三体砕いて進む。
次もガイコツを三体砕いて進む。
階段から樽が落ちてくるので、昇る素振りをしてから戻る。
おっし。
解った。
このゲームは記憶ゲーだ。
分かれ道の階段だ。
下るか、昇るか。
下ろう。
何か敵出てこないんですけれど、どんどん下って行っても大丈夫か?
うわぁでっかい鎧。
でっかい鎧がでっかい小野を振り下ろして
GAMEOVER
無理じゃん、あんなの避けきれないよ。
え、ご主人様なんでしょうか。
休憩?
ハイ、休憩。
メリエンダメリエンダ。
今日のおやつはプリンとカプチーノですか。
うまー。
ゲーム再開。
覚えた流れでガイコツ三体。
また三体。
樽を回避して。
分岐点。
今度は上に進んでみよう。
ゲームなのだからクリアできるように作られているはず。
なんかでっかい小野を持った悪魔がいる。
ボスですか。
逃げられないですね。
お、結構柔らかい?
R1回で10分の1削れた。
あと9、8、避けて7。
6、5、避けて4。
3、2、避けてうわぁ
GAMEOVER
なんか後ろから飛んできた爆発物で死んだんですけれど。
後ろに敵いたんだ。
ガイコツ三体、ガイコツ三体。
上に登って小野悪魔と対峙する前に後ろへ進む。
いるじゃんゲエコツ。
砕いて砕いて。
ほら来いよ、小野。
RRR、避けてRRR、避けてRRR、避けてR。
おっしゃ成敗。
セーブポイントの解放だぜ。
何ですかご主人様今いいところで。
お昼ご飯!
いただきます。
今日のごはんは、ごはん味噌汁、ぶりの照り焼き、茶わん蒸し、こんにゃくの煮物におしんこう。
デザートは大学芋。
くぅー、ご主人様分かっている。
ぶりの照り焼きうっま。
え、遠赤外線でじっくり焼いていると……。
アパートで炭火って大丈夫なんですか?
ゲーム……業務再開。
次のエリアに入った途端。
デル〇ラクエストみたいなでっかいドラゴンが燃え盛る息吹を
GAMEOVER
もう一回。
エリアに入った瞬間に脇道に逸れる。
おお、ドラゴンの下を通っていける。
ガイコツを倒して、ガイコツを倒して、進む。
でっかいイノシシが出てきたので回避して、R。
あ、分身が吹っ飛んだ。
まだかろうじて生きている。
一定のエリアに入ると戻って行くのか。
引っ張って戻ろうとしたら尻にR。
引っ張って戻ろうとしたら尻へR。
おっしゃ、イノシシ倒した。
またガイコツを三体倒して、セーフティエリアだぜ。
私ってゲーム結構上手いのでは。
奥へと進んでガイコツを三体処理。
さらに進んで階段を登ろうとすると登ろうとした矢先に鎧がいた。
鎧が持っていたのは棒状の長いもの。
分身が攻撃する前に三連続攻撃をされて
GAMEOVER
無理では……。
もう一回。
ガイコツを三体倒して、階段へ。
鎧が攻撃した後に攻撃すればいいのでは。
階段を降りて戻ると、棒を持った鎧はついてきた。
あ段差がある。
え、鎧さん段差登れないんですか?
うぷぷぷ。
段差の上で鎧の攻撃を避けた後に2回Rで鎧は死んだ。
階段を進んで行くと青白い光が飛んできた。
頑張って避けたけれど、あれに触れたら死ぬのでは。
とりあえず光を無視して先を進むと、大広間にガイコツがいっぱいいた。
は?
慌てて回避しようにも、ガイコツたちは今までと違って攻撃がさっきの棒の鎧と同じくらい速い。
え、無理では
GAMEOVER
丁度良く休憩ですか。
おやつはロールケーキとほうじ茶ですか。
いただきます。
ゲームを再開。
なんかあの大量のガイコツを倒せる期はしないので逆へと行ってみましょう。
チントンカンと金槌が振るわれる音が聞こえて、その音の主はむきむきのマッチョだった。
話しかけようとしてRを押してしまった。
マッチョに攻撃する私の分身。
マッチョは切れて分身にドロップキック
GAMEOVER
背後から笑い声が聞こえてくる。
今度は攻撃をしないようにしよう。
マッチョは分身を視認するとドロップキック
GAMEOVER
さらに笑い声が大きくなってくる。
前と後ろが無理ゲーなら横から行ってみよう。
なんかデブい鎧が休憩している。
背後から近づいてR。
1ダメージ。
は。
鎧が反撃して
GAMEOVER
背後を振り返るとご主人様が涙を流しながら笑っていた。
何が面白いんだよ、こっちは真剣なんだ。
ガイコツを三体倒して、棒鎧をはめる。
玉を避けて、ガイコツゾーンを駆け抜けて先へ。
ガイコツは丁寧に一体ずつついてきた。
狭い道に入って計十二体のガイコツを倒した。
さらに進むと、アップテンポな曲が流れ始めた。
そして翼を生やした悪魔が落ちてきて分身は死んだ
GAMEOVER
私の心も死んだ。
今日はもう帰っていいですか。
はい。
わーい、10万円だぁ。
10万円じゃ足りないよ此畜生。
前任者のメイドもこんな気持ちだったのだろうか。