世話係
「お〜いエストラ、お前の相棒どうにかしてくれ」
そう言われても、エストラは顔をしかめるしかできない。
「お前と同郷なんだろ、ちゃんと言い聞かせてやってくれよ」
「そう言いますけど、ダンテさん。ネルは僕とは部族が違うんです。だから、言語が。言語が全く違っていて、そもそもあまり難しい会話が成り立たない。あの子はオロソの一族の中でも、あれでもまだ会話できるほうなんです」
ダンテと呼ばれたドラゴン指導員が、興味深そうにエストラの話を聞く。場所は広場の端の方。二人とも片手で器用にドラゴンをなだめつつ会話は進む。
広場ではドラゴン使いたちが各々で必要な訓練を行っている。広場は空間が限られているので、交互で休憩を取っており、エストラも休憩中だ。
「島にもいろいろあるんだな〜。仲は悪いのか?その部族同士というのは」
エストラは島からきたわりには優秀で、今までの島民とは異なり、ドラゴン使いたちからある程度は受け入れられていた。
逆に、ダンテはダルカニア帝国の中の山間民族で、ある意味同じ少数派だったので、エストラにとって唯一気安く話せる相手でもあった。
「う〜ん……。仲の良し悪しというよりかは。オロソの民のこと、僕らリュカの民はどうかすると見下しているような雰囲気があるんです。小柄だし、文化的でもないし。でも、本質は違うんです。……恐れているんです。オロソの民は、どこか、違うんです。思考が読めない」
「思考が?」
「はい。リュカの民とも、ダルカニア帝国の人たちとも。彼らの暮らしは謎が多いんです。そもそも人数も少ないし、交流もないし。でも、今まで見かけた何人かのオロソの民は、なんというか」
そこでエストラは言葉を区切った。その目には、どこか恐れがにじんていた。
「彼らはむしろ龍に近い」
オロソはリュカの民と異なり、太古の時より龍とともに生きていた。龍の世話係だと呼ぶこともあった。
誰よりも龍に対する深い造詣を持ち、龍に護られ龍を護る。それがオロソの民だ。
未だに龍の島の森の奥深くにいるとも、もうほぼ滅びたのだとも言われていた。
「よし、ご飯がそろったよ。毛玉、早く行こう」
体よりも大きなズタ袋を背負い、ダボダボなマントを羽織って、ネルは窓からホバリングすドラゴンに乗って飛び出す。
向かう先は、龍の島。




