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早朝からボコボコになった俺は軽くシャワーを浴びてから親父と母さんと朝食をとる。
今日の献立はコーンスープに色とりどりのサラダ、ワイバーン肉スモーク焼きに丸いパンだ。
ワイバーンの肉はかなり高級食材らしいが、俺の家では割と普通に食卓に出てくる。さすがは貴族様だと感じるところだ。ワイバーンの肉やこの食材たちはどこで採れたものなのか気になったときに給仕しているメイドに聞いたことがある。そしたら全てがアークトク領地で採れたものだそうだ。その土地で採れたものをその土地で消費する、まさに地産地消だな素晴らしい。領地もかなり広大で街外れには畑なんかもよく見かける。親父のお父さん、つまり俺の祖父にあたる人が結構なやり手だったようで昔は辺境ということもあり道も舗装されておらず、輸入しようにも食糧がなかなか届かなかったそうだ。その時に俺の祖父はどう考えたかというと、食糧が無いなら自分たちで作ってしまおうと考え深淵山脈の麓を耕して(破壊)自分たちで作物を育てていたみたいだ。自給自足ができるようになり、余裕ができた祖父はついでに道も舗装し王都へと簡単に行けるようにしたみたいだ。
ちなみに深淵山脈の土地は普通なら耕すことができない。なぜなら土地の魔力濃度が高く、地面が抉れても時間が経てばすぐにもとに戻ってしまうためだ。
しかし、俺の祖父は自身の闇魔法固有特性で第10位階魔法のその先を修めた者にのみ取得できる技の魔法で耕せるように改変したみたいだ。じいちゃん凄すぎるわ。そんなじいちゃんだが、俺が生まれるとっくの前に亡くなっていて死因は深淵山脈の覇者である光龍シリウスを討伐しようとし、その結果敗れ亡くなってしまったようだ。光龍シリウスも無傷ではなく、かなりのダメージを与えたようで祖父の時代は深淵山脈を飛び回っていたらしいが近年その姿は見られないそうだ。漢なら一度は夢見る龍の王、深淵山脈の覇者である光龍シリウスの討伐、じいちゃんの死に様は聞いただけでもかっこいいと思う。俺がいつか、光龍シリウスの前に散ったじいちゃんの無念を晴らしてやろうと思う。
「父上、お祖父様が光龍シリウスと戦ったと聞いたのですが、なぜ戦ったのですか?」
「ん?あぁ、俺の父はかなり酒癖が悪くてな、あの日は俺の15歳の誕生日だったんだが、ついつい飲み過ぎたようで、その時屋敷から深淵山脈を見るとシリウスが飛んでいてね、何を思ったのか急にシリウスを討伐してくるって言って飛び出していってねそれっきりさ。」
じいちゃんかなり破天荒な人だったみたいだな。
「そうだったんですか、聞いていた話と少し違いました。」
「それはそうさ、領主が酔っ払って光龍シリウスに喧嘩を売ったなんて広められないからな。」
「それもそうですね。」
「あの頃はかなり苦労したもんだ、父上が亡くなってすぐに俺は領主になり、このアークトク領を守るために必死になった。父上は当時の騎士団長だったイイヤーツ家の家長、今の騎士団長シュギルの父君を無理やり光龍シリウスの討伐に連れて行ったみたいで、シュギルの父君も一緒に帰らぬ人となった。シュギルは昔からの幼馴染でな、シュギルと二人で領地を守るのに東奔西走したものだ。」
「父上の苦労が目に浮かびます。」
「まぁ、今ではいい思い出になっているがな、ところで我が息子ヴィランよ」
「はい。何でしょうか」
「王都学園への入学がもうすぐだと思うが支度はできているのか?」
「はい。いつでも行けるよう準備しております。」
「うむ。ならよし。」
「父上のご期待に添えるよう、頑張ります。」
「うむ!」
この世界では平民や貴族に関係なく15歳になると王都にある王都学園へと入学することが義務付けられている。
正直言って学園に行くよりも深淵山脈の攻略をしたい。だが、特別な理由がない限り学園に通わなければならない。この特別な理由とは例えば父上のような場合だ。父上は15歳で急遽領主になってしまい、なおかつ国の防波堤となっているアークトク領を守護しなければならなかったため学園には通っていない。
学園でそんなに学べることはないと思っているが、義務付けられているため仕方ない。王都には試練の塔と地下迷宮があるみたいだし、そこの攻略でもして楽しんでおくか。
「何か必要なものは無いか?」
「はい。特にはありません。」
「わかった。金銭面に関しては気にすることは無いからな、王都のどこでも使えるカードを渡しておく。一応金貨も合わせて渡しておく。」
「ありがとうございます。」
さすがは親父だ、やっぱり持つべきものは金持ち貴族の父だな。
そうして、俺は入学の日までに全ての支度を終えるのだった。