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入学の日の前日、俺は馬車で王都へと向かっていた。
舗装された道のため揺れもなく馬車の中は快適だった。アークトク領から王都まではだいたい馬車で1日もあれば着くぐらいだ。
森の中を開拓して道を作っているため道の周りは森で囲われており、たまに魔物が出没する。半径200mほどで魔力探知を発動して魔物が出てこないか確認している。魔物を見つけては遠隔で第4位階風魔法の風刃を発動して倒している。雑魚い魔物のためレベル上げの足しにもならないが。
「ストップ」
しばらく馬車に揺られて王都に向かっていたが、前方に何やら停滞している場所を魔力探知で捉えたため一旦馬車を停めてもらった。
魔力探知で状況を探っていると馬車に乗っている人を守るために騎士団が馬車を囲むようにして陣形を組んでおり、その騎士団と向かい合って立っているのは立派な剣を持ち、装備は薄汚れていて所々に返り血が付いている。
「貴様ら何者だ!!」
騎士団をまとめ上げている一人のおじさんが声を張り上げた。
「高そうな馬車だな〜貴族サマか〜? さぞかし金目の物がいっぱいあるんだろうな!ケヒヒヒ」
「貴様ら盗賊か、悪いことは言わん。今手を引くなら見逃してやる。そこをどけ!」
「おっとこわいこわい、ケヒヒヒ、それはこっちのセリフだぜ、金目の物を置いて逃げるんなら見逃してやるよ〜ケヒヒヒ」
おぉー、漫画の世界だけだと思ってた超ド定番のお決まり展開じゃないか。これからの展開が面白そうだなもう少しだけ様子を見てみるか。
俺は少しワクワクしつつも今は様子を伺うことにした。
「そうか、全員構え!盗賊共を撃退せよ!」
騎士団をまとめ上げていたおじさんがそう言うと騎士団と盗賊たちの戦闘が始まった。
騎士団なだけあって、そこそこ動けるみたいだ。それに対して盗賊たちも意外と強い。やっぱり今生きている盗賊たちはそれなりに強いんだな。強くないと盗賊なんてやっていけないよな、弱けりゃ魔物のエサになるだけだし。
今のところ一進一退の攻防が繰り広げられているが、盗賊たちのほうが数が多く騎士団はかなり苦戦を強いられている。持久戦となると敗けるのは騎士団だろう。
「さすがは貴族サマの騎士団だな〜、だがそろそろ限界なんじゃねぇか?ケヒヒヒ」
盗賊たちは余裕そうだ。うーん、どうしたもんかな、お決まりの展開なら、俺が助けに入って盗賊たちを蹴散らして『一人で盗賊たちを倒すとは、あの強い人は一体何者なんだー!』ってなって馬車から可愛い女の子が出てきて感謝されて仲良くなる展開だろうけどそれだとなんか面白くないんだよなぁ〜。
いっそのこと盗賊たちの仲間として騎士団をボコしてバッドエンド的な方向でも良いんだけど、さすがにそれは可哀想だしな〜。でも騎士団なら盗賊たちが出てくることぐらい想定して対応できるようにしとけよって話なんだけどなぁ人手不足なのか?それとも弱小貴族かそんなところなんだろうか?
そんな事を考えていると、俺の後ろの方から安っぽい馬車が来ていることが魔力探知でわかった。俺は自分の馬車を森の中へと移動するように指示した。俺は護衛はつけていないため俺と馬車を操縦する御者しかいない。
安っぽい馬車が俺の前を通り過ぎ、戦闘が続いている前方まで進んでいった。その馬車俺と同じで乗っている少年と御者の二人だけだった。
少年はそれなりに実力がありそうだったし、まさに主人公登場って感じだな。なんだか面白くなってきた。
前の戦闘に気づいた少年は馬車から飛び降り剣を抜き構える。
「お前たち!何をしているんだ!」
「あぁん?誰だテメェ?」
「僕は通りすがりの一般人だ!」
「君!ここは危険だ!早く逃げなさい!急いで王都に行き助けを呼んできてくれないか?」
騎士団のおじさんが少年に向かってそう声をかける。
「いえ、ご心配には及びません。僕がこいつらを倒してみせます。」
少年が自信満々に騎士団のおじさんに返事をする。
あの少年まじで主人公じゃね?身なりは冒険者っぽい身なりだけど、ちゃんとした剣を持ってるし。
「この数に勝てると思ってんのか?ガキはお家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろ!!お前らやっちまえ!」
何人かの盗賊たちが、少年に向かって斬り掛かる。
少年は盗賊の剣を躱し、盗賊を斬り伏せる。
「ぐあーー!」
盗賊たちが、一人また一人と倒されていく。
あの少年結構やるな〜。
「第二位階火魔法【火矢】」
「なんだと!?こいつ魔法使いか!」
少年は火矢を発動させ盗賊たちに浴びせる。
盗賊は為すすべ無く倒されていく。
「ぐおーー」
そして最後に残った盗賊のリーダーを倒して戦闘が終わる。
騎士団たちは戦闘が終わり緊張が解けたのか安堵した表情を浮かべていた。そして騎士団の中から「一人で盗賊たちを倒すなんて」とか「一体彼は何者なんだ」だったり「魔法を使えるってことはどこかの貴族様なのか?」といったこえがチラホラと聞こえてくる。そして騎士団をまとめ上げていたおじさんが少年に話しかける。
「我々を助けていただきありがとうございます。」
「いえ、僕は当然のことをしたまでです。」
そんな会話をしていると馬車から一人の少女が出てきた。
「私たちを助けていただき、ありがとうございます。申し遅れました、私アレキサンド王国第一王女アレキサンド・ラティアと申します。以後お見知りおきを。」
少年は少女の上品な立ち振舞いに見惚れてしまい惚けた顔になっていた。返事がなく不思議に思った王女は少年に声をかけた。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもありません。ゴホン。僕は当然のことをしたまでです。僕の名前はメインキャ・ラクターです。お怪我はありませんか?」
「おかげさまで、かすり傷一つありません。」
「よかったです。まさか馬車に乗っているのが王女様だったとは驚きです。」
なるほど、これは主人公君と王女様のイベントシーンとして発生していたんだな。なかなかに良いシーンを見させてもらった。うん。これからこの主人公君のことを陰ながら応援してあげようかな。その方が面白そうだし。よし!ここはもっと絆を深めてもらうとしようか。
陰でニヤニヤ悪い顔をしていたヴィランはそう思い、魔法を発動した。