表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖者のコウテイ 〜 ミコ様と忘却のエルフ 〜  作者: 飯咲優
第1章 秋に目覚めた物語
4/9

3

よろしくお願いします!

 この世界で生きていく基本的な方針を決めたところで、病室の入り口からコンコンとノックの音が聞こえた。


「おはよう。何か顔をしかめているけれど、ケガをしたところがまだ痛むのかい?」


 噂をすればなんとやら。そこには、昨日のエルフの男が心配そうな面持ちで立っていた。


「えと、おはようございます。ほんの少しだけですけど、やっぱり痛いものは痛いですね。」


「それもそっか。うーん、僕に回復魔法が使えたら痛みを感じるのを鈍くさせたりとかもできるんだけどねぇ。覚えるのがなかなか難しいんだよね。」


「魔法ってことは、お兄さんはエルフなんですよ、ね?」


 俺が確かめるように聞くと、彼は頷いて微笑んだ。


「そういえば君が目覚めてから、僕の紹介をしていなかったね。僕はライト=エルフの“ミシェル”。色々なところを回って旅をしているんだ。」


「ミシェルさん」


「別に、さん付けはしなくてもいいよ。さん付けされると、なんだかむず痒くて慣れてないんだ。」


 ミシェルはそう言うと少し照れるように頭をかいた。


 ……彼の名前を聞いて思い当たる節があった。

 彼はニックが旅の途中で出会う、かなり強い魔法使いのエルフのはずだ。


 父さんもよく、彼がいないと倒せない敵が多いだとか言っていた。

 それに母さんも何気に好きなキャラクターだったのかファンアートを描いていたりもしていたから。

 それなりに重要な登場人物だと思うのだが……。

 こんな初めから“ニック”に関わる場面はあっただろうか。


「ミシェルは回復魔法が出来ないって言ったけど、どんな魔法が使えるんですか?」


 俺は興味津々に聞いてみた。

 もちろん、彼自身のことを知りたいのもそうだが、この世界についても何か分かるかもしれない。


「そうだなぁ、ライト=エルフは風魔法が一番得意なんだ。魔物には剣で切り裂くように扱えるけれど、僕はあんまりそういうのは好みじゃない。」


 彼は人差し指を立ててその場で小さな円を描くと、指先に小さな竜巻が出来た。

 さらに形を変えて1足のブーツの様な形に姿を変え、それはまるで生き物のように空中を歩き出した。


「す、すごい……!」


 崇紘として生きていた世界ではあり得ない光景に、俺は素直に感動した。これぞファンタジーの世界って感じだ。


「えへへ、そうでしょう。僕は魔法で攻撃するよりも、こうやって形に変えて色んな人に見てもらって笑顔になってくれる方が好きなんだ。その方が平和的だしね。」


「じゃあ、旅をしてるのはこれを見てもらうため?」


「まぁ、そんなところかな。ただ、さっきも言ったように回復魔法がとんと苦手でね。だから旅を続けるためにも回復役の人も大募集中だったりもする。」


「じゃあ今まではどうしてたんですか?」


「そこは、うん……根性とポーションの大量摂取で乗り越えてきたよ」


 相当苦労してきているのだろう。どこか遠くを見つめながら「ははは……」と笑ってミハエルは作り出した風を消した。

 そして「空気の入れ替えをしようか」というと、部屋の窓を大きく開けてまた指をひと回し。

 

 今度は外から少し湿っぽいような風が吹き込んできた。


「……潮風?」


「ああ、うん、ここは港町だからね、海から乗ってくるんだ。森の風と比べるとべたつくけど、嫌いじゃない。」


 そう言って窓の外を見つめる彼の表情は、なにかを慈しむような面持ちに見えた気がした。


「ここは本当にいい町だよ。種族関係なく人が皆で支え合いながら生活を営んでいる。最近じゃあまり見かけなくなった風景だからね、見ているだけでも心が癒されるんだ。……そうだ、もしよかったら散歩でもしないかい?」


 確かに、怪我が治るまでずっとここで過ごすのも退屈だし、何よりこの世界の生活についても知りたいことが沢山ある。


 俺が頷くと、ミシェルはウインクをして「ちょっと待っててね」と言い残し部屋から出て行った。


 暫くすると、ミシェルとゴードンさんが一緒に部屋に来た。


「ようニック。外出したいんだって?」


「だからゴードンさん、僕が誘ったんですって。傷口は塞がってますし、リハビリがてら散歩したらいいんじゃないかと思ってね。」


「そうか、そうか。まあ、潮風は身体に良いしなぁ。ほら、こいつを使って移動したらいい。」


 ゴードンさんはそういうと、持ってきていた松葉杖を俺に手渡した。


「ありがとうございます。」


「そいつの扱いの練習ついでにキッチンまで行ってみようか。んで、腹ごしらえをしてから出かけるといいさ。」


 その提案に俺とミシェルは頷いて、ゆっくりと部屋を移動することにした。


 松葉杖を使ったのは初めてで、コツを掴むのに少し時間がかかるな……と思ったのは、なんだか恥ずかしくて口にはしなかった。


 いや、記憶喪失って設定だから言ってもいいとは思うんだけど、その、ね。


.

今後の更新は不定期ですが書き上がり次第、木曜日に更新します。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ