ある真夏にあった“終わり”
主人公 丹邦 崇紘をよろしくお願いします。
ジリリリリ、と外で蝉が鳴いている。
真夏の最中に狭いリビングで虚しさと苛立ちを抱えながら倒れていた。身体どころか、指先にすら力が入らない。
生来、身体の弱かった俺は常に病気がちで内気な性格だった。
小学生の頃に父親を亡くしてからは心的ダメージが大きく、その頃から38歳になった今まで引きこもっている。
……いるのだが、母がひと月前に息を引き取ったことで嫌でも外に出ないといけない日々が続いていた。
そして昨日、葬式やら手続きやらがある程度落ち着いたところだった。
そう、落ち着いたからだ。俺は慣れない手続きにより滅入ってしまっていたのだろう。
疲れ果てた身体は玄関に入ってすぐに倒れてしまい、こんな真夏だというのにエアコンもつけずに寝てしまっていたのだ。
(あーーーーーー……本当になにやってんだ)
息も絶え絶えだが、頭の中は至って冷静だった。
きっともう自分の命が長くないと本能で解ってしまったからなのか。
それとも、ずっと『死』を待ち望んでいたからなのか。
きっと、どちらもだろうな。そう心の中で嗤う。
そういや父親が死んだのも38歳だったな。
両親は幼馴染でとても仲が良く、どこに行くのも一緒だったと聞いている。
小さかった俺は父のことをあまり覚えてはいないが、テレビゲームが大好きで週1日は丸々ゲームをするのに時間を費やしていたことはよく覚えている。
体操座りをしながら父にもたれかかり、目を輝かせながらゲームをしていた父の顔を盗み見していたもんだ。
そんな父が亡くなってから、母は女手ひとつで俺を育ててくれた。いわゆる肝っ玉母ちゃんって感じだった。
生活保護を受給しながらも、俺がいつか社会人になった時のためにと短時間のバイトをしては少しずつ貯金をしていた。
いつもは明るく振る舞っていたけれど、時々泣いていたのを俺は知っていた。
知っていたのに、声をかけることも何も出来ずにいた。
結局、俺は社会人にならなかったし、母が貯めてくれた貯金は葬式代に使って無くなった。
もう、何もかもが馬鹿らしい。どこで何を間違えてしまったのだろうか。
そんなことを自問したって答えは一生答えたくない。原因が何かなんて分かりきっているのだから。
明後日にはケースワーカーさんとの面談が控えている。
今後の受給についての話らしいが、きっと就職することを薦められるんだろうな。
けれどもう、そんなことはどうでもよくなった。
(はぁ……まさか熱中症で孤独死か……)
暑さで頭が徐々にぼんやりとしてきた。
とりあえず家には冷蔵庫とテレビ、母の愛読していた数冊の小説、そして父の大好きなゲーム類、そして一枚だけの家族写真。
それだけ残して、あとは全て捨てていた。
俺が生きた証なんてものは殆どなく、この家族写真一枚で事足りてしまう人生だった。
遠のく意識の中、捨て忘れたものが無いか巡らせていく。
ちゃんと家中の片付けをしていたのが最初で最後の親孝行と社会貢献になっていればいいな。
……なんて小さな願い事をして、俺の人生はゆっくりと幕を閉じた。
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