あらくねらいふっ!
気が付くと、そこは海の中だった
穏やかで、暖かく、どこまでも透き通っている、そんな海だ
辺りを見回すと、魚や珊瑚礁は確認出来ない、海の底は何処までも続いている感じがした
(・・・あれ)
意識が朦朧としている、寝覚めのふわりとしているような感覚に似ている
(俺なんでこんな所に・・・)
思い出そうとすると頭が重い、体を動かそうとするが走りきったあとのような倦怠感が身体中に巡っている
(うみの・・な・・か・・)
海水にしては温かい、お風呂よりはぬるいが体を包み込む水は心地よく、仄かな眠気さえ誘う、そして水の中であるからには無意識に呼吸をしなくてはと思った
(い・・き・・息・・・!?)
冷静になる、どう見ても深い深い水の中だ、酸素などあるわけもない
(がっ・・・!おぼ・・れ・・・!)
両手で口を塞ぐ、辺を見回し出口を探そうとするが
(でっ・・出口は・・・!)
目を凝らすが朧気に見ていた通りどこまでも続いてそうな海の中だ、上も下もない
(・・・まずいっ・・息がもう・・!)
限界を感じ口を開く、想像通り口から、鼻から、水が入り込む
(ちっそ・・・く・・ゥ゙ッ!し・・しぬ・・・・!)
子供の頃、町民プールで溺れかけた事がある、体が動かず、身体中の穴という穴から水が入り込んだ、今思い出すのは体中が冷え切るようなそんな時のトラウマだ
『落ち着いて!』
誰だ、誰かの声、姿は見えない
『ゆっくり深呼吸して、これは水じゃないから、息はできるはずよ』
深呼吸してと促される、水の中で?どうやって?
(ふ・・ざ・・けんなっ・・・!現・・に・・・み・・水・・・が・・入ッ・・てるじゃね・・か)
『イメージの問題よ、目を閉じて…そう、ここは自室のベッドの中、干したてふかふかベッドの中にいるわ、日曜日のお昼、ご飯を食べてちょうど眠たくなったころね…』
言われるがまま目を閉じた、イメージなんて自分は不得意だが必死に思い浮かべた、言われるがまま、自分の心地よい時間を…
(あっ・・・)
体を包み込む感触が水から空気に変わった気がする、肌に当たる感覚も綿や羽毛のような、身近なものに変わった
(息・・・できてる)
先程まで溺れてたのが嘘のように感じる、今目の前に広がる光景が海の中から広大な大空に思えてきた
『ここではイメージがそのまま具現化されるからね、さっきみたいに負のイメージを想像しちゃうと不味いけど、逆もまた然りって感じなの』
(イメージ・・・はっ)
情報が一気に頭の中に押し寄せる、声の主は誰か分からないが、質問したいことが山程でてきた
「あんた誰だ!ここは何処で、俺に何した!」
声に力が入る、今の感情は恐怖と不安でいっぱいだ
「何か不思議な所だし…修学旅行の帰りで…同級生のみんなは⁉誘拐か!目的は何だ!金か!」
『ちょ・・ちょっとまって、順番に説明するわ、落ち着いて?ね?』
「落ち着いていられるか!俺は今日早く帰ってバイトに・・バイ・・ト・・・」
急いで腕時計を見る、時計は16時で止まってるようだが
「バイト時間が…!マズイマズイマズイ店長電話しなきゃ・・!」
ポケットを確認するがスマホが見当たらない、それどころか家の鍵もチャリの鍵もない
(っ!ぜんぶ無い!カバン中だっけ…?どうしよ…)
再び何も無い空間に向かって叫んだ、今度は怒り混じりだ
「おい誘拐犯のひと!俺をここから出してくれ!うちの家は貧乏だから金なんかないぞ!他所をあたってくれ!!」
バイト先の店長は仕事に対してとても厳しいもので、アルバイトだろうが遅刻はもちろん無断欠勤も許されない
(確か旅行先から大体2時間で着くって言ってたから・・・あーここが何処だかわからんし、終わった・・・・)
潔く諦める事にした、無断欠勤は店長が一番嫌うものなので、緊急という事であとで連絡しよう
再び虚空に目を向ける、誘拐犯はここから出す素振りがないようだ
「おい誘拐犯のひと聞こえるか、俺はバイトが忙しい金欠学生なんだ、脅しても殺してもサイフにはお守りとテレカと23円しか入ってないし、人質としても家には病弱母と小6の妹しかいない、諦めてほかあたってくれ」
再び沈黙、先程の声の主は反応しない
「・・・・このっ、黙ってないでいい加減にっ」
『落ち着いてぇぇぇえっーーー!!!!』
「うわぁぁぁぁ!耳がぁぁぁぁ!!」
後から耳元に大声で叫ばれ、キーンという音とともに一瞬怯んでしまった
声の方向に振り向くといつの間にか人がいた、女性だ、背丈は自分の身長より少し高い感じ、黒髪ストレート、前髪はきれいにぱっつんと切り揃えられている、服装は白いワンピースのようなものを纏っており、年齢はどれくらいだろうか・・・検討もつかないが年上だろう
『だだだ大丈夫だからねっ!おおお落ち着いてっねっ落ち着いてっ!怪しいところじゃないからここははねっだいだい大丈夫だから大丈夫だかかからっねっねっ!!』
「そっちが落ち着けぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
様子を見るとだいぶ焦っているようだ、いや挙動不審なのが分からないがさっきの質問責めに動揺したのかもしれない
「ふぅ・・・あんたが誘拐犯か」
彼女?も大きく深呼吸をし、落ち着いたようだが…下を向き目が泳いでいる、下腹部で両手を合わせどことなくもじもじしている雰囲気に感じられる
『あ・・・あのっ誤解し・・してるっ・・ようだけどっゆ・・・誘拐犯とかじゃ・・・な・・ないですっ』
声ちっっっっっっっっさ!!!最初に語り掛けてきた流暢な言葉は?さっき鼓膜破る勢いで出した大声はどこへいったと思うぐらいぼそぼそ小さな声で彼女はしゃべり始めた
『あのあのあなたは・・いわゆる死・・・死んじゃって・・・わ私はそ・・その方々を・・みっ・・べべつっ・・別の・・世界へ導く・・・』
非常に聞き取りづらいが必死に聞き耳を立ておとなしく聞いていたが、とうとう口を挟んでしまった
「はぁぁあっ!?死んだぁぁ!!?俺が!?!?!」
『ひぃぃぃぃいいいぃいっ!!!』
衝撃告白からつい大声でしゃべってしまい、彼女は両手で頭を押さえしゃがみうずくまってしまった
「あ・・・悪ぃ・・じゃなくて・・悪かったです?いきなり大声だしちゃって・・」
自分もいきなり大声をぶつけられたのに…しかも誘拐犯?に敬語って…
『怖い怖い怖いなんで私なの・・・担当女の子って聞いてたのに男の子じゃない部長の嘘つき・・・うぅうう』
「あのー・・・もういいっすか」
『ひゃっ!?あうあうあの・・・あ・・あのうあっ・・わ私・・あのっ・・』
「分かった!ちょっと距離を置くから落ち着いて!」
謎の誘拐犯が落ち着くまで距離を置くことにした、どうやら彼女は男の人とか大声は苦手?らしい、それからしばらくの時間が経った
『ああのっもう大丈夫です・・ありがとうございますっ』
「どういたしまして、あー・・・」
調子が狂うな、なんともひとを誘拐した人物には思えない、一人ではなく複数犯か、それともデカい組織の末端か
(いや問題はそこじゃなくて・・・)
自分がすでに死んでいるということだ、記憶が正しければ直前まではバスで帰路につく途中で、もしそれからバスで大事故があり死ぬとしてもその部分の記憶が丸々無いのはおかしい、現に手も足も動くしキズもない、死んでいるなんて状況は考えられない
「あの・・・俺が死んだってのは・・いつ頃の話・・・ですか?」
『い・・いつ頃というのは・・・あなたのいた時間軸で・・だ大体今日の16時とお聞きしてます・・・』
「16時・・?まさか」
再び腕時計を確認する、針が16時で止まり動いていない、ヒビやキズは無いので故障ではないと思う、何故か完全に止まっている
「・・・今何時なんです?俺はここにきてどれぐらい時間がたった?」
『た・・魂が・・は運ばれてきたのが大体・・あなたのいた時間軸で・・1時間前くらいですね』
まだここに連れてこられて1時間、本当に誘拐ならば関係者が気付くのもまだ難しい時間帯だ、スマホや持ち物も没収されているようだし、同級生や先生とも隔離さているこの状況で助けを呼ぶのは難しいだろう、何より誘拐犯が目の前にいて、水槽?のような部屋に閉じ込められ、見たところ出口らしきものはない、絶望的だ
『あっあのっ本当に誘拐じゃないんです、証拠の映像があります・・・・』
「えっ?映像?」
突如何も無い空間に映像が映し出された、プロジェクターとかではない、どんな仕掛けかは分からないがとても鮮明な画像だ、そこに映し出されたものは・・・
「嘘だろ・・・」
黒焦げになったバス、屋根は吹き飛んでおり中の乗客は形も残っていない、爆弾が爆発したかのような後だがバス全体が焼かれているように黒くすすみがかっているのと、多少形を保っているところをみて爆弾ではないと思った
「・・・なんで・・こんな・・・」
『・・・き・・聞くところによると‘落雷’の直撃みたいです、大きな・・周辺一帯が停電になるような大きな‘落雷’・・・』
映し出されている映像から説明している彼女に視線を移し、睨みつけながらとっさに反論した
「落雷でこんな風に・・爆発後みたいになるかよッ!俺は窓際に座ってて、西日が強いから窓の庇を降ろした覚えがある、つまり晴れてた!落雷なんて落ちるはずがない・・なのにこんな・・こんなことってあるか!!」
感情が昂ぶり声が大きくなる、すでに自分が死んだという事実を受け入れられない、やりたいことがたくさんあった、バイトで貯めた金で母親を温泉にでも連れて行かせたかった、かわいい妹に美味いものをたくさん食わせてやりたかった・・・母と妹2人より早くこの世を去るという申し訳ない思いを胸に、今は理不尽な仕打ちに対する怒りや憎悪に駆られている
「・・仮に今見せたのが良くできた合成で、俺を騙そうとしてるなら・・・」
それから先は言わなかった、身代金目当ての誘拐犯がわざわざ人質にこんな事見せて言っても無駄だしメリットがない、何より反応を見るにこの人たちはバスを襲った犯人ではなさそうだ、行き場のない怒りだけが胸の奥に溜まるのを感じる
「俺は・・・もう戻れないのか・・・?」
『・・ごめんなさい、私たちではどうすることもできません・・』
足に力がなくなる、体中の血の気が引き足から崩れ落ちた、母や妹のことを想い思わず目頭が熱くなった
『・・あっ・・あの感傷に浸ってるとこ悪いんですけど・・そろそろ本題に移りたいんですけど・・』
「・・・なんだと?」
目の前でこれほどショッキングなことが起きてるのにお前は何をいってるんだ?と言いかけたが冷静に考えれば今の状況も彼女の目的も全く分かっていない、少なくとも誘拐犯とかではなく友好的なのは分かった、目元をぬぐい、彼女の話を聞く頭に切り替えることにした
「信じられんけど死んだ・・・っていうのは分かった、それについて今はこれ以上聞かない、あんたの・・いやあなた方の目的を教えてくれ」
『あっ・・ありがとうございます・・これからあなた・・・えっとお名前は【ローリー・コンドー】さんでしたか、これから復活準備に入ってもらいます・・・あなたのいた時間軸とは別の世界で』
「・・・・何だって・・・???」
『本来ならわが社を利用するにあたり18歳以上は有料復活となるのですが18歳未満は全て無料で行う事が出来かつ特典として好きな種族性別能力を選び新たな世界での生活を円滑かつ不自由なく暮らせる一生安心パックが適応されます、早速お手元のクリエイティングボードで好きなように』
「まてまてまてまて!!ストップ!ストォォォップッ!!!」
さっきまでとんと小声で話してきた彼女が急に饒舌になりペラペラ喋り始めたらと思ったら理解が追い付かないワードが波のように押し寄せてきた
「最初に言うけど俺の名前は【楼李 近道】だ!コンドーじゃないっ・・・・・あとさっき俺は死んだって・・・証拠も・・生き返れるのか???」
『えぇ・・・別の時間軸の世界ですが・・』
「その時間軸ってのはよくわからないけど・・・ようするに別人になって違う世界で生まれ変わる・・・ってことか?」
『はぁ・・・簡単に言えばそうですね』
「その話拒否したらどうなる?」
『・・・それはやめたほうがいいかと・・そうなるとあなたの魂は輪廻の環から外れて完全に消滅します・・・そうなった場合あなたがもといた世界での痕跡が完全に消滅してしまう、初めから無かったことになってしまう』
・・・好きなように容姿をとか一生安心とか言って結局は大仰なセールスの押し売りじゃないか、しかも命の手綱握られている、元の世界にも戻れない分タチ悪すぎる、まぁこの人たちも営業なのかわからないが今のこの気持ちを言っても無駄だろう・・・
「・・・家族や同級生や友達のいない世界で再出発なんてする意味ないけどな、けど拒否して無かったことにされるのはもっと辛い・・・」
『・・・あのう・・同じ‘落雷’で亡くなった方々なら・・・みなさん同じ世界で復活しているはずです・・それぞれ担当は別ですが同じ‘導き先’だったはずなので』
「なにっ!!じゃぁ向こうでみんなと再会できるのか!!」
『えぇ再会できると思います・・それと復活すればローリーさんの時間軸・・元居た世界に帰れないこともないと思うんです』
「なっ・・・本当かっ!帰れるのか!?」
『一度抜けた魂が元の器に戻ることはありません・・ましてや元の器が消滅していればなおさらむりです、ですが新しい器に定着し、次元転送という形をとれば・・・向こうの世界ではそういった別次元の存在を招き入れる術があるとか・・それを使えば可能かと思います・・推測ですが』
「よくわからんが復活さえすれば同級生と一緒に元の世界帰れるかもしれないってことだな、それなら復活しない手はない!!」
先ほどの絶望的状況から希望が湧いてきた、家族や仲間の元へ帰れる、これ以上ない喜びだ
「じゃぁさっそくやってくれ!その復活とやらを!!」
『あっあのう・・ごめんなさい容姿をそのクリエイティブボードでメイキングしていただかないと・・・』
ふと足元にアイパッドらしきものが落ちていた、拾い上げると画面に名前、容姿、種族、持ち物等かなりこまかい入力をするコマンドが表れている、正直自分はこういったゲーム最初のメイキング作業は苦手で、適当に決めてさっさと本編を始めたい派なのだが・・・
「こういうのは俺センスないんだけど・・おまかせ機能とかはないのか?」
『う~ん・・そういった機能は正直・・・あっそうだ、なりたい人物とかはいませんか?芸能人とか憧れの俳優とか・・・動物や昆虫、無機物でも大丈夫です、そういった‘理想’があれば私がスキャニングし、クリエイティブボードに反映できると思います』
「昆虫とか正直・・・あっ!なら俺ジュワちゃんになりたいかな!」
『??ジュワちゃん?とは?』
「ガーノルド・ジュワイビネガーていう俺の世界のハリウッドスターで・・筋肉モリモリマッチョマンの超かっこいい人物なんだ、そうだなイメージは・・ゴニャンザ・グレートに出てきたジュワちゃんかな、あの時のジュワちゃんのような・・【屈強なあらくれ戦士】になりたいっ!!」
『はぁ・・とりあえずメモしておきますね、えぇと漢字は・・わかんないから【クッキョーナアラクレセンシ】と・・・』
現物も見てみましょうと、彼女はおもむろに俺の額に手を当て念じ始めた、今までハイテクだったけどこのスキャニングという行為は超能力みたいなものなのか?思わず疑問に思った。
そしてまた何もない空間に映像が映し出された、大好きな映画のワンシーンだ、ジュワちゃんが敵に圧倒されるハラハラするシーンでもある
『・・えーとっこの方がジュワちゃんさんですか?』
「ペロデター1じゃん!そうそうこっちの逃げ回っているのがジュワちゃんでこの後滝つぼに落っこちて泥だらけに・・・」
思わず饒舌になる、映画は・・特にジュワちゃん映画は大概見た、筋肉隆々の俳優が暴れまわるさまは見ていてスカッとするのだ、嬉しそうに語る自分をみて彼女も思わず笑顔がほころんでいた
『ふふふっ・・映画、お好きなんですね、スキャニングは完了しましたのであとは自衛のための武器か・・個人の能力を決めてもらいます』
「自衛・・・その新しい世界は物騒なのか?」
『・・・簡単分かりやすく言うとローリーさんの居た世界で恐竜や・・大型古代生物が普通に外を歩いているような世界です・・・人もいますが、人同士の争いも絶えませんね』
「おいおい・・・俺は平和な日本からなんだぞ、外国ならともかく銃も握ったことないんだ、そんな危険なとこで生きていく自信なんてないんだが・・」
『そのための自衛手段です・・・一応クリエイティブボードにも自衛例として武器と使い方、術の使い方等記載欄はありますが、ご自身で何かお考えがあるなら末尾のフリー欄に事細かく記載ができますので・・』
キャス・・なんのことだろう、バチードッターに出てくる魔法みたいなものだろうか、唐突に自衛手段と言われても武器なんて扱ったことないし、せいぜい剣道竹刀ぐらいだ、超能力とか魔法とかもいまいちピンとこないしどうしたものか・・・
「そうだな・・・よしこれにしよう」
『‘気功’ですか?気功術と呼ばれるマナコントロールの術ですね、これなら武器を使わず敵を倒すことも可能でしょう』
マナコントロールがよくわからないが・・・ようはあれだ北獣のケンで主人公が指先一つで敵を爆散してたようなやつだろう、用途が色々幅が広そうなのでとりあえずこれにした
『・・・さて準備は整いましたので早速復活に取り掛かろうと思います、準備はよろしいですか?』
「あぁ・・こっちは大丈夫準備オッケーだ」
『復活したらまず新しい体に慣れていただくために慣らし作業をしてもらいます、ミッションボードに従い行動してください』
こくりと頷く、質問も考えたが特に今は思い浮かばなかった
『では行きます・・・』
彼女が両手を俺のほうへかざし、俺の体の周りには光る魔法陣のようなものが描かれた、その後足先から光の粒状に体が消えていっている、痛みはなく何処か暖かいような感じだ、光の粒子状が顔付近に迫ったときにふと思い出した
「あっ・・お姉さん今までありがとう!誘拐犯と疑って悪かった!名前をー・・・」
最後の光景お姉さんは優しく微笑み、手を振ってくれた、名前を聞くことはできなかったがまた会いたいなと思ってしまった
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
光が晴れ景色が変わる、真っ暗な石作りの部屋に松明の様な灯りがついている、どうやら薄暗い地下室のようなところらしい、復活とやらは成功したのだろうか?
(・・・・・あ・・?)
さっきと打って変わって体が重い、岩に体が潰されて思うように自由に身動きできない様な感覚だそして何より・・・
(立てない・・・)
時間がたち視界も良好になってきたが一向に立つことができない、腕立て伏せのような姿勢でずっといる感じだ、体が拘束されているのかと思ったがそうではないらしい
(ジュワちゃんでとは言ったけど最初からジュワちゃんじゃなくて赤ん坊からの始まりになるのか?それにしては視点が若干高いというか・・・)
埒が明かないと思い、腕立て伏せの状態で力いっぱい移動した、すると・・・
(・・・!!速いっ!?)
おそらく人間の走るそれ・・よりも速いかもしれない、腕立て伏せの状態で
(赤ちゃんのハイハイの挙動・・じゃなさそうだが・・・俺の体に何が起こっているんだ・・・?)
謎は深まる、ちょうど部屋の出口らしき上階へ続く階段があり、ひとまずはそこへ向かうことにした
(広さ的には教室の半分、いや体育館倉庫ぐらいか?)
木箱が部屋の隅におもむろにいくつも置かれており、床には洋紙?が錯乱していた、出口近くの樽の中には中世に出てくる剣、盾、弓に槍が入れられており、その横には革製の鎧のようなものも飾られている
(ちらかっちゃあいるけど、倉庫みたいなとこなのかね)
出口階段の目の前で振り返り、自分が目覚めた所をみると檻のような作りになっていた、大型犬を入れるような大きな鉄製の檻だ
(目が覚めたら檻の中、で地下倉庫のようなところ、腕立て伏せの状態での歩行・・何か怪しいぞ)
そして松明の近くまで移動し分かったことがあった、床をみると出口階段から自分が目覚めた檻に向かって紫色の液体が続いていた、最初は暗くて何の液体かはわからなかったが
(もしかしなくとも‘血’かこれ・・・人はいるって言ってたけど血は紫色なのか・・?)
自分の体の外傷を確認したいが、腕立て伏せの状態で固定されているため、首を向けることもできない、力を入れるが全く動く気配がない、唯一動く両腕で前に進むほかなかった
階段を上がり開けた広間に出た、今度は石造りじゃない、木造作りの白壁、広さは先ほどの地下室の倍はあるだろうか、机やいす、ベッド等物が特に置かれていないところみると人が寝泊まりしているようではなさそうだ、ただの空き部屋なのだろうか・・部屋を観察していき、部屋の中央に錯乱している物体に目を疑った
(!!!死体だ・・人間の死体・・!!ゲェッ・・ゥッ・・)
四体はある、どれも剣やナイフを片手に絶命している、床には彼らの‘血’と思われる赤色の血と、そこから地下への自分のいた檻へと続く紫色の‘血’がちょうど交わっていた
(気持ち悪い・・けどなんだここで争ったのか・・・?こいつらを殺した犯人は・・痛手を負い地下の俺の居る檻に逃げ込んだってとこか・・・?)
外傷がとりあえず見当たらない自分は紫色の‘血’の持ち主ではない・・・と思いたいが確認ができないので何とも言えない、床に滴っている量からしておそらく致命傷だと思うが、当の自分はまるでピンピンしているし謎は深まるばかりだ
早く出たいと思い辺りを見回したところ開きっぱなしのドアがあった、おそらくあそこがこの部屋の出口だろう
(ドアが開きっぱなしだからそこから出られるかな・・・おっ?)
出口付近に姿見があった、今自分の身に起きている状況を確認できるチャンスだ、さっそく姿見の前に移動し自分の姿を確認する
(え・・・なんで・・・?)
鏡に映っているものは、ぷっくりとしたお尻、八本はあろう足、大きさはちょうど1mぐらいの人間の子供サイズ、肌は真っ白、つま先と何個あるかわからない‘目’は真っ赤な色をしていた
(う・・・そ・・・人間じゃないし・・・これはどうみても・・・・)
生前おばあちゃん家でよく見かけたでかくてグロテスクなやつ、だがそいつは益虫で、ハエやGなどを捕食する人間にとってありがたいやつでもあった、そいつの名は・・・
「俺・・ジュワちゃんじゃなくて・・・でかい蜘蛛になってるーーーーっ!!?」
つづく