なろう異世界史 迷宮篇⑯
「なるほど、リアル志向ね」
「なんか……かわゆくありません……」
「ま、まぁ、取り敢えず入ってみようよ」
「はぃ……」
渋々といった様子で、エリーゼは俺の後ろをついてくる。
オサカ迷宮スタジオの入口――
目の前にそびえ立つのは、まるで古代遺跡のような巨大な門。
厳つい石造りのそれは、冒険の舞台へと続く「異世界の扉」を彷彿とさせる。
門をくぐると――
広大な敷地の中には、まるで魔法の世界に迷い込んだような幻想的なエリアが広がっていた。
空には浮遊する巨大な岩々が漂い、異次元の植物が生い茂る。
空気はひんやりとしており、どこか不気味ながらも、ワクワク感を掻き立てる。
入口付近には、巨大なモンスターの骨や剥ぎ取られた皮が飾られており、それらがまるで迷宮の守護者のように見える。
足元には、迷宮へ続く石畳の道が精巧に敷かれ、まるで映画のセットの中に入り込んだかのような錯覚を覚えた。
「いよいよだな……!」
興奮を隠せない冒険者たちは、足を踏み入れるなり、その場の雰囲気に完全に飲み込まれていく。
だが、俺にとっては――
「いや、普通に冒険者してたら当たり前の光景なんだけどな……」
テーマパークのコンセプトとしては分かるが、これ、俺たちが普段から命懸けでやってることだぞ?
入口を越えていくと、さらに深奥へと続く迷宮の世界が広がっていた。
壁一面には古代文字が刻まれ、時折、足元で鳴り響く怪しい音が緊張感を煽る。
案内表示は巧妙に設置されており、観光客でも迷わず進めるようになっている。
……が、その先に待つのは、仕掛けられたトラップや凶暴なモンスターたち だ。
迷宮スタジオは、「観光客向けの安全なエリア」と「ガチ冒険者向けのリアル戦闘エリア」 に分かれており、それぞれが異世界の冒険を満喫できるような作りになっている。
実際、戦闘を求める者にとっては、実戦訓練としても十分な環境だろう。
とはいえ――
「これ、普通に冒険者してたら無料で体験できるんだが……?」
俺は思わず遠い目をした。
「……テーマパークにする意味が分からない……」
エリーゼを見ると、彼女も若干呆れたような顔をしていた。
「ねえ、これってわざわざお金払ってやるものなの……?」
「いや、オレもそう思う」
目を輝かせ、興奮しながら武器を構える冒険者たち。
まるで本物のクエストに挑むかのように、意気揚々と迷宮へ足を踏み入れていく。
「……なんだろ、あの人たち」
俺は思わず呟いた。
「完全に職業病じゃないのか……?」
普通にクエストを受けて、依頼がないときはここで疑似クエストを楽しむ。
「………」
討伐して金を稼ぎ、討伐するために金を払う。
しかも、休養してるはずなのに、わざわざカネを払って仕事してる感覚……
ほんと、意味が分からない。
そんなことを思いながら、俺たちは迷宮スタジオの奥へと足を踏み入れるのだった――




