なろう異世界史 迷宮篇⑮
「そもそもオサカはリアル感を追求した結果、魔獣の動きとか、環境がどれだけ本物に近いかを重視してるんだよ。それに比べて、ティバ迷宮ランドの‘もふもん’なんて、クソだっ!」
――この一言から、全てが始まった……
――ぞくっ!
その瞬間オレの後ろから物凄い嫌な気配を感じたのだった……
「それは、聞き捨てなりませんね……」
あ、あの、エリーゼさん?
――ゴゴゴゴゴゴ……
「もふもんは神なんですっ! あなたにはそれがわからないのですかっ!?」
「はんっ! なにが神だ。笑わせるな。なんの神だよ。貧乏神か? ああ、あの迷宮ランドにお布施してるんだよな。なら、おまえにとっては貧乏神にもなるわな。あはは」
「ちょ、ちょ、ちょ、待って、エリーゼさんはまだ一回行っただけで、お布施もなにもないわよ」
と、リーンさんが余計なことを言ってしまう。
「ははっ! なんだ、ただの『にわか』かよ。それで、もふもんを語るとは片腹いたいわ。笑っちゃうわ」
「わ、わるかったわねっ! まだ、ファンになったばかりですけど、わたしの『もふもん』に対する愛は本物ですっ! あのふわふわな毛並み、丸みを帯びた体型、そして癒しのオーラ! あれこそが至高なんですよ! 『もふもん四天王』の中で最弱でもいいんです。『もふもふ王』はわたしにとっては神に等しいんですっ! なのに、そんなことも分からないなんて、理解できません! あなた、頭おかしいんじゃないですか!? それとも、あの優雅さを理解できないなんて、感性が鈍ってるんじゃないかしら?」
「うっ……や、やるわね、あなた……そこまで『もふもん』についての愛を語るなんて、すこし見直したわ」
「わかってくれたのです……」
「けどっ!! わたしの『リアルもふもん』に対する愛はあなたより深くて大きいわよっ! いいかしら……まずは、あの『ティガノス』の抓ね。あの爪のカーブ、あれは獲物を捕らえるための完璧な形状。鋭く伸びた先端がまるで神秘的に輝いているのが、私の目にはたまらないのよ。アレこそ至高! そして、あの何の感情も見せない瞳。たまらないわっ! あの瞳で獲物を捉えたときに見せる瞳孔の変化が、まるで獣の本能を感じさせるわ。あの瞬間、世界が止まる気がするのよっ! ああ、かんじちゃうっ!」
なんだ、この戦い……
どっちも、まったく引く気配がない……
「なによっ! それより……」
「ちがうちがうっ! まったくなってないわっ! だから……」
むしろ、どんどんヒートアップしている。
オレの中のエリーゼと今のエリーゼの齟齬がひどい……
「………」
そういえば、リーンさんはどうなんだ?
あのチェルシーさんに『もふもん』のことを馬鹿にして悔しくないのだろうか?
すこし気になったオレは未だ言い争いが続く中、リーンさんに尋ねてみた。
すると、
「わたしはどっちでもいいのよ。かわいければそれだけで十分よ。あそこまでの愛は持ち合わせてはいないかな、あはは」
「………」
ただのミーハーだった。
まぁ、それでいいのかもな……
―――十分後
「はぁはぁ……」
「はぁはぁ……」
どちらも、思う存分言い合って疲れたのか、息を整えるために休憩を挟む。
「や、やるわね……エリーゼさんだったっけ? 負けたくはなけど、今回はわたしの負けでいいわ」
「そちらこそ。えっと、チェルシーさんでしたっけ? あなたの愛は本物でした。わたしの方こそ負けました……」
「「ふっ……」」
――ガシッ!
お互い健闘をたたえ合い、ガッツリと硬い握手を交わしたのだった。
~めでたし、めでたし~
な、わけあるかぁ!
ほんと、なんだこれ……
「いいわっ! わたしもついて行ってあげるっ!」
「はぁ?」
「ええ! いいんですか?」
「エ、エリーゼ?」
なんだろうか? あれだけ、罵り合っていたのにエリーゼが嬉しそうだ……
どういう心境の変化だ?
「い、いや、大丈夫ですよ……」
「なに? このわたしがついて行ってあげるって言ってるのよっ! なにか文句あるワケッ!?」
「い、いえ……」
「あるぞっ! おおいにあるっ!」
と、そこにギルマスが現れた。
「おまえ、何勝手に決めてんだよ……受付はどうすんだよっ!」
「そんなのリーンに任せればいいじゃない? ねぇ、リーン?」
「……やだ」
リーンさんは即否定した。
「チェルシーが迷宮スタジオ行くなら、わたしは迷宮ランドにいくっ!」
「たのむから、勘弁してくれっ!」
「知らないわよっ! ちょっと連絡とってみる!」
と、勝手にチェルシーは連絡を取りだした。
ちなみにどこに連絡してるんだ?
「……あ、わたしわたし、『閃光の煌き』よっ!」
……おい……音速のソニックみたいになってるぞ……
「えっ! 今狩りにいってる……当分、戻らな……い? え、ちょ、ま……」
なんか、肩を落としてるぞ……
「ど、どうした?」
「はは……組んでいるチームの人が今、別で狩りにいってて一緒にオサカ迷宮スタジオで狩れないんだって……あはは……う……」
チェルシーはそれはそれは、項垂れるように涙を流したのだった。
「そ、そうか……それは残念だったな。なら、オレらと一緒に狩る?」
「いやよっ! 素人の冒険者と一緒になんて……ガチ冒険者たちとじゃないと、SAクラスに挑戦すらできないわよ……」
あの、冒険者は全員ガチだと思うんですけど……
「あ、はい……すいません」
「それに、一週間は篭るつもりだったのに……」
「それは残念だったな……」
なんか、リーンさんと同じような状況になったぞ……
「ま、まぁ、オレらは行ってくるわ……いこうか、エリーゼ」
「……はい……ざんねんです」
「そ、それじゃあ、リーンさん、ギルマス行ってきます」
「はい、ご武運を」
「おう、行ってこい」
そうして、オレたちはオサカ迷宮スタジオに向かうのだった。




