なろう異世界史 迷宮篇⑭
「ふぅ~こんな感じかな。どう、わかった?」
「ああ。説明ありがとうな。でも、リアル志向か。どんな所なんだろ?」
「まぁ、一度行ってみればわかるかもね」
「あれ? こっちにはあんまり興味なさそうだな」
「だって、かわいくないもん。興味がなくて当然よ。でも、ガチ冒険者には人気あるらしいよ」
「………」
ガチ冒険者ってなんだよ…… 冒険者自体がガチだろう……
そう思っていると、ギルドの静かな空気を破るように扉が開き、無口で無愛想な少女が入ってきた。
背は低く、下手したら小学生くらいにしか見えない。
髪は長くツインテールで、全身黒いワンピース? ぽい出で立ちが印象的だった。
「あ、チェルシー。おはよ」
「……ぁよ。リーン」
無愛想に返事をすると、表情も硬く、無駄な言葉は一切発さずに歩き出し、チェルシーが制服に着替えるため脱衣所へと向かうのを見守る。
不思議そうな顔をしているオレの様子を見て、リーンは苦笑いを浮かべ、さらに続ける。
「あー、あの子、いつもあんな感じだから、気にしないでね」
「あ、ああ……」
てか、このおねえさん、リーンって言うのか。
初めて知ったかも……オレ、失礼だったな。
などと思っていると、さっきの子がカウンターに戻ってきた。
チェルシーは静かに席に座り、ギルド内にはまた微妙な空気が漂っていた。
「だれ? 依頼の申し込み?」
と、不機嫌そうに話す。
「あ、いや、オレは……」
と言いかけた時に、リーンが説明を始めた。
「こちらは、冒険者の○○さん。ティバ迷宮ランドから戻ったばかりで、様子を聞いてたのよ」
「……冒険者? あなたが?」
そう言うと、オレをじろじろ観察して、「ふっ……」と鼻で笑われた。
「………」
か、感じ悪いぞ……この子……
たしかに、変わった受付の人がいることもあるが、ちょっと癖が強すぎる気がする。
その時、リーンが話を切り出した。
「ところでさ、オサカ迷宮スタジオにも行くの?」
その言葉に、チェルシーの耳がぴくっと動いた。
ちらりとこちらを見て、わずかに反応を示したのだ。
「ああ、行ってみようとは思う。なぁ、エリーゼもいいよな?」
「……はぃ……ごしゅじんさまが、行かれるというのならばお供します……」
歯切れが悪いな……あんまり、興味なさそうだ。
なら……
「……その後にまた、迷宮ランド行ってみるか?」
――ガバッ!
そう言うと、エリーゼは息を吹き返したように元気よく「はいっ! 是非っ!」と言ってきた。
現金なやつめ……
「でも、どうなところなんだろうな。オサカ迷宮スタジオって」
主人公が問いかけると、チェルシーの目が一瞬鋭く光った。
次の瞬間、彼女は言葉を吐き出すように話し始めた。
「オサカ迷宮スタジオは、ただのテーマパークじゃないんだ。あそこの‘狩り’は、リアルを追求しすぎてるんだよ」
チェルシーの目が輝き、彼女が熱く語りだすと、周りの空気が一変した。
主人公は少し戸惑いながら、「へぇ、そんなにリアル路線なのか」と反応するが、その一言がチェルシーの怒りを引き起こす。
「これだから……にわかが。ふぅ、仕方ないわね、わたしが直々に教えてあげるわよ。オサカ迷宮スタジオの魅力をっ!」
「お、おうっ!」
な、なんだ、なにか踏み抜いたのか? オレ?
となりのリーンさんは「あちゃ~」って困った表情を浮かべてるぞ……
「そもそもオサカはリアル感を追求した結果、魔獣の動きとか、環境がどれだけ本物に近いかを重視してるんだよ。それに比べて、ティバ迷宮ランドの‘もふもん’なんて、クソだっ!」
――ぞくっ!
その瞬間オレの後ろから物凄い嫌な気配を感じたのだった……




