なろう異世界史 迷宮篇⑦
「「はぁ~しあわせ」」
と、ギルドの一角で二人共恍惚とした表情を浮かべ「レモナティ」を飲んでいた。
「なんですか。あの、この世の可愛さを凝縮した生き物わぁ。ずっと、どこでも一緒にいたいぉ」
「ほんとですよねぇ。あの可愛さはある意味凶器ですよぉ。はぁ~」
「あ~ティバ迷宮ランドに就職したい」
「おいおいおい! ここはどうすんだよっ!」
と、おねぇさんの不用意な発言にギルマスが突っ込んだ。
「なら、もっと仕入れてくださいよっ! かわいいやつ!」
「ぐっ……こんな初心者の迷宮じゃ、予算が降りないんだよ……」
「………」
どの世界も世知辛い……そう思わずにはいられなかった。
「そうだっ! ご主人様!」
――パンッ!
エリーゼは両手で手を叩き、相談を投げかけてきた。
「その、『ティバ迷宮ランド』に行ってみませんか!?」
「えええっ! いいな、いいな! わたしもいきたいっ!」
エリーゼの提案にお姉さんが釣れてしまう。
そんな様子を目の当たりにした、ギルマスが困惑した表情を浮かべた。
「おいおいおい……勘弁してくれよ……人手が足りなくなるだろうが……」
「他にいるじゃないですか。わたし一週間の有給をつかいますねっ! 今まで溜まってるので使わせてもらいますっ! ふんすっ!」
「まてまてまて……ほんとに勘弁してくれ……」
ギルマスは頭を抱えた……
しばらくの後――
転生者が謎の古代魔道具を魔改造させた通信システムで、ティバ迷宮ランドホテルに連絡を取った。
「えっと、ホテルの予約、なんですけどね…」
受付のお姉さんは、しばらくの間、真剣な顔つきで帳簿を確認していたが、やがて力なく肩を落とした。
「えぇぇぇ……一ヶ月待ち? それも最短でですか? えっ、埋まった? じゃあ……半年待ち……で……すか……?」
――チンッ!
お姉さんは力なく机に突っ伏し、全ての希望を失ったような目をしていた。
「……なんですか、これ……一ヶ月待ちが埋まって、半年待ちですって……わたし、どうすれば……」
しばらく呆然とした後、ふと何かが切れてしまったように、お姉さんは無表情になった。
「おい、これの依頼を頼むぜっ」
「……す、すみません、予約が……一ヶ月待ちですねぇ」
「はぁ? 何言ってやがる。この依頼をだな……」
「はい、すいません……予約、半年待ちですね……はい…、うん……うっ……」
お姉さんの目から涙がポロポロとこぼれた。
「お、おい……どうしたってんだ……」
「おめぇ、受付のお姉さん泣いてるじゃないかっ! 何、したんだよっ!」
「い、いや、オレは普通に依頼をだな……」
「おめぇの顔が怖くて、脅したんだろぉが! 最低だなっ!」
「ちげぇ~よっ! ふざっけんなっ! このひょうたん顔がっ!」
「んだっと、てめぇ! やんのかっ!?」
険悪なムードが漂い、周囲の冒険者たちが興味津々で集まり出す。
――ガンッ!
突き飛ばされた男が別の冒険者にぶつかる。
「てめぇ! やってくれたなっ! おらっ!」
次の瞬間、拳が飛び交い始めた。
ああ、もうむちゃくちゃだよっ!




