なろう異世界史 迷宮篇④
王国の首脳陣が「なんか違う……」と思いながらも、事態は進行し、市場はどんどん活性化していった。
新しいペット商店が街に登場し、「カワイイは正義! もふもん!」という店がオープンした。この世界では、ペット=『もふもん』という呼称がすっかり定着し、街中には「もふもん店」が乱立していく。
名前の由来はシンプルだ。どこかの転生者が「もふもふしてるモンスター」と言ったことで、その名前が広まったらしい。
頭ハッピーセットメルヘンなのか? と思ったが……まぁ、それは置いておこう。
「もふもん」の人気は急上昇し、街を歩けば必ずと言っていいほど、「もふもん」を連れた親子の姿を見かけるようになった。
だが、生き物(魔物)を取り扱うには問題がつきものだ。
しばらくすると、徐々に問題が発生し始めた。
まず、カワイイからと手元に置きたがる勘違いな人々が多かった……それが間違いの始まりだった。
当然、カワイイといっても生き物は生き物……
毎回同じ容姿だと飽きも来てしまう。
それに加え、エサ代や魔物の世話ができなくなる者が増えていき、やがて──
捨てられた「もふもん」……いわゆる、「野良もふもん」が、街に現れ始めた。
だが、元々は魔物だ。
野生に戻されると、かなり厄介なことになる可能性が高い。
捨てられた「もふもん」は、生きるためにエサを求めるようになる──
他にも問題はあった。
もふもん店で売れ残りの「もふもん」「老もふもん」などの問題もあった……
こっちはほんとにひどい……
不衛生な場所に詰め込まれ、何も処置もしない……
エサ代さえ、ケチられて、痩せこけたもふもんたちが……
もふもん店の闇の部分だ……
そして、野良もふもんがあまりにも増えすぎたため、国はついに手を打たざるを得なくなった。
地方行政も動き出し、もふもん店には管理責任を徹底させ、免許がなければ取り扱えないという新たな法律が制定された。
だが、ここまで事態が大きくなる前に、事の発端を作った転生者が再び問題の中心に浮上してきた。
「お前、どう責任を取るつもりだっ! 今回の件、どういうつもりだっ!」と、王国の首脳陣は詰め寄る。
だが、転生者はいつものように軽い。
「増えすぎたんだったら、迷宮に戻せばいいじゃない」と。
そうして、溢れていたもふもんは魔物不足の迷宮へと戻されることになった……
それでも、全てというわけには行かず、逃げ延びた「もふもん」たちは、山へ森へ川へと逃げていった。
くしくも、魔物不足問題の解決に繋がっていくのだった。
だが……
――冒険者ギルド近くの酒場で
「よう、景気悪いな、どうしたんだ?」
「え、ああ……ちょっとな」
スカウト風の冒険者がエールを飲みながら答える。
「最近、迷宮に魔物……いや、もふもんが大量にいるんだよ」
「ああ、知ってる。迷宮に魔物が戻ったんだ。喜ばしいじゃないか」
「そうじゃねぇ……そうじゃねんだよ、問題は……」
「な、なんだよ。そんな悲しい顔をして」
「……きねんだよ」
「ん? なんて?」
「もふもんに攻撃できねぇんだよぉぉぉ!」
「ど、どういうことだよ……」
「あいつら、見た目がカワイイじゃねぇか……オレにはナイフで攻撃することが出来ないんだよ……可愛すぎて、オレの良心が痛むんだよ……おめぇはどうなんだよ?」
「オレか? オレはべつに……」
そう言いかけたとたんにスカウトの冒険者が机を叩いた。
「おめぇは鬼かっ! なんで攻撃できんだよぉ! この畜生がぁぁ!」
「お、落ち着けって……」
「す、すまねぇ……だけど、このままだとオレは冒険者やめなきゃならねぇ……森や山にも、もふもんが溢れ出してても、何もできねぇ……オレ、どうしたらいいんだ……」
「……ま、まぁ、今日はオレの奢りだ。すこし頭冷やせよ。所詮、アイツらは魔物だぜ。退治してなんぼだろうが」
「……そんな風に割り切れねぇよ……」
――ゴキュ
スカウト風の冒険者は胸の中がもやもやしながら、エールを飲み干した。
そして、もふもん問題は予想外の方向へと向かうのだった。




