なろう異世界史 迷宮篇②
――迷宮の奥、静寂の中
ゴオォンッ!
鋼の刃が振り下ろされ、目の前の魔物が鈍い叫び声を上げたかと思うと、その場に崩れ落ちた。
「エリーゼ、大丈夫か?」
振り返ると、エリーゼがまだ短剣を握りしめたまま立っていた。
その額にはうっすらと汗が滲んでいる。
「……大丈夫です、ご主人様」
彼女はそう答えながらも、周囲を見回している。
その目には、どこか違和感を抱えたような光が宿っていた。
「ですが……ご主人様。この迷宮って、こんなに何もないものなんですか?」
彼女の言葉に、オレは一瞬考え込んだ。
たしかに、この迷宮は“初心者向け”として知られているが、それでも魔物の数がここまで少ないのはおかしい。
「いや、どういうことか分からない……こんなのは初めてだ。一度戻ってギルドで話を聞いてみるか」
「分かりました、ご主人様」
――迷宮から街へ戻る道中
静まり返った森の中を歩きながら、オレは考えていた。
この迷宮には何度も足を運んだことがあるが、今日のような違和感を覚えたのは初めてだ。
魔物の気配が薄いどころか、まるで“誰かが意図的に消し去った”かのような静けさが漂っている。
「エリーゼ、何か気づいたことはあるか?」
「ごめんなさい、何もわかりません……?」
彼女はオレの問いに答えられないもどかしさから、シュンとしてしまった。
「わ、わるい。初めてなのに、分からなくて当然だよ。はは」
と、少し元気づけようと明るく笑ってみた。
しかし……あの状況はどういうことなのだろうか?
迷宮は“生きている”という説がある。
その中で、魔物は迷宮の一部として存在し、迷宮そのものを支えていると言われている。
もし、それが正しいなら――
「もしかして、迷宮自体が弱っているのかもしれないな」
だが、それが事実なら、何が原因なのか?
それに、この現象が起きているのはこの迷宮だけなのか?
疑問が次々と頭をよぎる。
街の近くの迷宮でこれほど魔物が少ないとなれば、街そのものへの影響も考えなければならない。
迷宮から流れ出る魔力が街の基盤を支えている部分もあるのだから。
――街のギルドにて
ギルドに戻ると、受付の女性がいつもの笑顔で迎えてくれた。
「○○様、お帰りなさいませ。今日は迷宮へ行かれていたのですよね?」
「ああ。だが、一つ聞きたいことがある。迷宮の魔物が、少なすぎるように感じたんだが……これ、どうなっているんだ?」
オレが少し強い口調で問い詰めると、彼女の表情が一瞬固まった。
「……やはり、お気づきになりましたか」
その言葉に、オレの胸の中の不安が一層膨らんだ。
「どういうことなんだ?」
「それについては……詳しくお話しします。少しお時間をいただけますか?」
彼女の表情には、何か重大な事実を隠しているような影があった。




