表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なろう異世界史  作者:
19/38

なろう異世界史 迷宮篇①

 物流問題から150年が経過した街には、平穏が漂っていた。


 復興が進み、街はすっかり賑わいを取り戻している。

 

 そんな中、オレは次の目標を考えていた。


「エリーゼ、迷宮に行ってみようか」


「迷宮、ですか?」


「そうだ。あそこにはまだ、未解明の領域がたくさんある。少しでも街の発展に役立つものが見つかればいいと思ってな」


「……ご主人様がそうおっしゃるなら、私はどこへでもお供します」


 そうして向かったのは冒険者ギルドだった。

 オレは数百年前に登録して以来、ギルドに足を運んでいなかったが、エリーゼを同行させる以上、彼女の登録を済ませておきたかったのだ。


 ギルドの扉を開けると、昔と変わらない活気ある光景が広がっていた。

 若い冒険者たちが行き交い、受付では慌ただしい声が響いている。


「受付で済ませるから、少し待っていろ」


 カウンターに近づくと、受付の女性がやや驚いた表情を浮かべた。


「あの……このカード、かなり古いですね。今日はカードの更新ですか?」


「いや、迷宮に行こうと思ってるんだが、相方がカードを持っていなくてな。作って欲しいんだ。まぁ、ついでにオレのも更新してもらおうか」


 エリーゼは少し緊張した面持ちで、オレの後ろに立っていた。


「……ご主人様、私は大丈夫ですか?」


「もちろん、心配いらない」


 受付の女性がにっこりと微笑み、手続きを始める。


「それでは、少しお待ちください。登録内容の確認が必要ですので」


 そう言うと、彼女は古代の謎技術の道具を使って登録作業を始めた。あの装置、いつ見ても不思議だ。どうなっているんだろうか?


 そんなことを考えながら窓の外をぼんやりと眺め、街の様子を見ていた。しばらくすると、受付の女性が手続きを終え、二人分のカードを差し出してきた。


「はい、登録終了しました。ご確認ください。以降の説明は○○様ならご存知かと思いますが、必要でしたらお伝えしますよ」


「いや、大丈夫だ」


「それでは、ご利用ありがとうございました」


 綺麗にお辞儀をした受付の女性に、オレは迷宮について尋ねてみた。


「それで、迷宮についてだが……最近、何か変わったことでもあったか?」


 オレが言うと、受付の女性は一瞬戸惑った表情を浮かべた。


「いえ……その……(見てもらったほうが早いかもしれません)」


 何かを隠しているような雰囲気だ。


「何か問題があるのか?」


「いえ……迷宮に行くのですよね?」


 言葉を濁すような彼女の態度に違和感を覚えたが、深く追及するのも気が引けた。


「まあ、行ってみれば分かるだろう」


「それじゃあ、行こうか、エリーゼ」


「はい、ご主人様」


 ――迷宮への道中


 最寄りの迷宮は北の街道を二十キロほど進み、脇道から山に入った先にある。

 初心者向けとされる迷宮だが、エリーゼにとっては初めての体験だ。


 オレたちは必要な装備を揃えるために街を散策した。エリーゼの防具、食料、ロープ、ランタンなどを購入しながら歩く。エリーゼは初めて見るものばかりに興味津々の様子で、オレも自然と笑顔になった。


「これで準備は万全だな」


「はい、ご主人様。よろしくお願いします」


 乗合馬車で街を離れ、途中で野宿を挟み、ついに迷宮の入口に到着した。


 ――迷宮の入口


 だが、オレは違和感を覚えていた。ここに来るまでの道中、魔物に一度も遭遇していないのだ。

 普通なら一度や二度くらい接触があってもおかしくない。


 それがまるで、道中そのものが静まり返っているかのようだった。


「エリーゼ、何か気づいたことはあるか?」


「いえ、ご主人様……けれど、この静けさ、少し不自然ですね」


 エリーゼも感じているのか。

 その言葉が、さらにオレの胸に不安を募らせた。


 迷宮の入口に立つと、さらに奇妙なことに気づいた。

 迷宮独特の威圧感がない。


 まるで、そこにあるべき生き物の気配が消え失せているかのような感覚だ。


「昔、転生者の誰かが言っていたな……」


 “迷宮は生物みたいだ”と。


 魔力が血液で、魔物がその一部だとしたら――ここはまるで、死体のように静まり返っている。


 この違和感の正体は何なのか。


 何か起きているのか?


 ――胸の奥に広がる不安を抑えきれないまま、オレは迷宮の入口をじっと見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ