なろう異世界史 物流編⑮
「そっちにいったぞっ! 転生者様、お願いしますっ!」
「任せろっ! はぁぁぁ! たぁぁぁ!」
バロックボアは暴れ狂う大型の魔物だ。
その突進力は、一撃で巨木をなぎ倒すほど。
突進の勢いで地面が震え、周囲の木々が軋む音が響く。
そんな魔物がオレを標的にし、一直線に突っ込んできた――
「ここだっ!」
ザシュ!
オレの剣がバロックボアの喉元を正確に切り裂く。
巨体が崩れ落ち、地面に響く鈍い音が耳に残った。
「「おおっ! さすが!」」
オレたちは手際よく血抜きを済ませると、ナイフを使って肉と皮を分ける作業に入った。
山のような肉の塊を見て、自然と笑みがこぼれる。
「しかし、こんな大物久しぶりだな」
「コイツは焼いても煮ても干し肉にしても最高だよな。しかも、これだけの量だ。しばらく肉には困らないぜ」
「ああ、本当に助かるよ……」
そんな歓喜の中、村人たちは上機嫌だった。
「でも、こう……ほんとに転生者様は、オレたちとは違うと感じちまうな」
「そうだな……オレたちだったら、こんなの相手にするのに何人必要だ?」
「そんな転生者様が味方なのはいいけど、もし敵だったらって思うと……」
「おい、そんなこと言うなよ! もし気分を害して敵になんてなったら……オレたち、ひとたまりもないだろう?」
「……なぁ、オレたち、最初は転生者様を遠ざけてたよな……」
「妬みだったんだよな。力があるってだけで、勝手に怖がって、悪く言って……」
「でも、転生者様はそんなことを気にせず、オレたちのために戦い続けてくれてた……。ほんとに、自分が恥ずかしいよ」
その言葉に、誰もが静かに頷いた。
転生者への感謝と自分たちの愚かさを噛みしめるように。
エリーゼは「ご主人様」と呼ぶのをやめる気がないようだ。
「だから、『ご主人様』はやめてくれって言ってるだろう……」
「ご主人様はご主人様です」
「……好きに呼んでくれ」
「はい、ご主人様」
そんなやり取りにも慣れてきた自分がいる。
まあ、いいか……
街はたった一歩を踏み出したにすぎない。
復興への道のりはまだ長い。
中には働かない人もいて、働いている人との軋轢が生まれる前にエリーゼからの助言で、その人たちと話して見た。
「……俺は、正直、もう何もできないんだ。以前の村が襲われたとき、必死で逃げてきたけど、その時に右足を折って……それから畑仕事はおろか、走ることすらままならなくなった」
「私は……夫を失ってから、毎日がただ虚しくて。ここにいる意味が分からなくなって、何もする気になれないんです」
彼には道具の手入れを、彼女には生産物の仕分けを任せることにした。
最初はぎこちなかったが、次第に彼らの手際も良くなり、街の活気が増していくのを感じた。
そんな問題を少しづつ解決しながら順調にいい方向に向かい、どんどんとこの町は旅人たちなどから周りに噂が広がり始めると、その噂を聞いた人々が救いを求めてやってきた。
初めは数人だった移住者も、気づけば十人、二十人……次第に収容能力の限界に近づいていった。
「ようこそ、街へ。ここでは、まず君たちがどんな仕事ができるかを聞かせてもらう。そして、それに応じて役割を決めさせてほしい。私たちも食料や住居を確保するために全力を尽くすが……今は限界が近いんだ」
そう話して、彼らに生活の基盤作りを手伝ってもらう形を取った。
しかし、全てを受け入れることは難しく、食料の備蓄も厳しくなり始める。
やむを得ず、村人たちと相談の上で、ある程度の支援をした上で移住を断ることも増えていった。
「本当にごめん。今の街には、これ以上の人を受け入れる余裕がない。でも、これだけの食料を持っていってくれ。きっとどこか、君たちを受け入れてくれる場所がある」
悲しそうな顔で帰っていく彼らを見送るたびに、オレの胸は痛んだ。
最初はただ、みんなが生きていけるように、街を元に戻したかっただけだ。
でも、気が付けば復興は新たな問題を呼び込み、次から次へと押し寄せてくる。
数年が過ぎても終わりが見えない……
もう、いい加減にして欲しい……たしかに、一人だった頃よりかは今の方が遥かにマシだが、こうまで問題だらけだと、どこから手を付けていいかわからなくなる……
そんな時にも問題が発生する。
ほんと、勘弁して欲しい……
街が裕福だという噂を聞きつけた野盗たちが、夕暮れ時に現れた。
泥だらけの馬にまたがり、手には錆びついた剣や棍棒を握りしめている。
そして、『この街の財を差し出せ! 抵抗すれば皆殺しだ!』、と。




