なろう異世界史 物流編⑭
「……ということだ。とにかく時間がない。崩壊が目の前に迫ってるんだ……皆を助けるなんて大見得切ったのに、現実はこれだ……本当、情けないな。はは……」
「………」
エリーゼは神妙な面持ちでオレの話を最後まで黙って聞いてくれた。
しばらく考え込むように目を伏せた後、静かに口を開く。
「それなら……皆にも相談してみてはどうでしょう? 結局、これは皆が抱えている問題なのですから。今の状況をきちんと伝えて、力を借りるのが一番ではないでしょうか?」
「……っ!」
たしかに……オレやエリーゼだけじゃなく、皆の意見を聞くのも悪くないかもしれない。
オレたちだけでは考えつかないことでも、皆の知恵を借りれば、何か解決策が見つかるかもしれない。
「そう……だな。聞いてみるかっ! ありがとな、エリーゼ。助かるよ」
オレがそう言うと、エリーゼはホッとしたように微笑んだ。
「ええ、ご武運を。……ご主人様なら大丈夫です」
その笑顔に、少しだけ心が軽くなった気がした。
「よし、早速行ってくる!」
「はい、いってらっしゃい」
―――村の一角で。
「………」
聞いてみるか……
……そう意気込んできたはいいものの、どうやって切り出せばいいんだ……?
えっと、「炊き出しに必要な資金が足りません。ごめんね、てへぺろ」、……うん、そんな言い方したら殺されるな……
じゃあ、どう言えばいい……?
「うう~ん……話の切り口が……」
そんなことを悩んでいると、ギゼルがこっちに気づき、軽く手を挙げながら話しかけてきた。
「おや、転生者様じゃないか。何やら悩んでる様子だけど、金の問題かい?」
「え……? なんで、知ってるんだ……?」
「あちゃ~、やっぱりそうなのか……」
「えっ……えっ? どういうこと?」
「最近、ずっと難しい顔してたろ? それに、話しかけても生返事ばっかりだったし。なんかおかしいなーって思ってたんだよ。で、試しに ‘食料か金の問題か?’ ってカマかけてみたら、図星だったわけだ」
「うっ……ほんと、すまない。食料すら用意できないなんて、オレってクズだよな……」
「稼ぐ手段がないんだ、多少の蓄えがあったところで、いつかはなくなるもんさ。それに……これだけの人数だ。実際、あんたが助けてくれなきゃ、とっくに俺たちはくたばってたよ……オレたち、十分あんたに助けられてるんだ。だから、自分を責めないでくれよ」
「ギゼルさん……」
「よ、余計なこと言わせるなよっ! それより、問題があんだろ? まず、それを考えようじゃないか……みんなでな」
―――ある会議にて。
「さて諸君に集まってもらったのは他でもない。今日の議題はこれだっ!」
――この街がヤヴァイ!――
「いや、もうとっくにヤヴァイじゃないですか? これ以上何があるんですか?」
「まぁ聞け。何を持ってヤヴァイと言ってるのか、教えてやろう。それは……」
「「それは?」」
「金がないっ!」
「どストレートだなっ! おいっ!」
「てか……普通に話さないか?」
「そ、そうですね……すいません」
オレは焦りすぎて、なんか変なテンションになってしまったらしい……
「つまりは、金がないってことか?」
「はい……」
「それで、オレたちの食料の供給が出来ないってことか?」
「はい、その通りです……すいません……ごめんなさい……無能で申し訳ございません」
「おいおい、そう卑屈にならなくてもいいだろ……ったく、転生者様はめんどくさいヤツだな」
ギゼルはオレの言い方に、拍子抜けた感じで言ってきた。
「なんだ、そんなことか。もっと、鬼気迫る何かがあるのかと思ったじゃないか……ほんとに」
「え……お金がないんですよ? 食料だって……」
「転生者様は冒険者やってたんですよね?」
「してましたね」
「なら、森に入って、動物なり、魔物なりを狩ってきて食料にすればいいのでは?」
「ハッ! て、天才かっ!?」
「それに、オレは山菜やキノコとか見分けられるから、狩りをしている途中に探して来てもいい」
「なら、オレは近場の川で魚を釣ってくるわ」
―――ガヤガヤ
と、人々は自分に出来うる限りの知識や能力を使って、さまざまな方法で食料を確保しようとしてくれようとしていた。
オレには、こんな簡単な方法すら思いつかなかった……
――相談してみれば?――
そのエリーゼの提案の本質を、ここに来て初めて実感する。
――一人で抱え込むな。周りに相談しろ――
その本当の意味が分かったのかもしれない。
オレは、協力してくれる人々に感謝の念を抱いたのだった。
「な、案外簡単な話だろ」
ギゼルは軽くウィンクをして、オレに話してきた。
「ああ、話して良かった……ほんとによかった」
と、胸の中でほんとにそう思っていた。




