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なろう異世界史  作者:
14/38

なろう異世界史 物流編⑬

 皆が普通の生活を取り戻そうと、頑張ってくれている。


 その様子を見るたびに、オレの心は癒されていく。


 そして、


「転生者さんは、ほんと何も知らないんだな」


ムーンルート(大根)は当然として、この時期ならグローキャロットもいいな……」


 と、畑仕事をしていた人が、色々と教えてくれる。


 畑仕事をしていた老人がじっと土を指でつまみながら、話しかけてきた。


「ここの土はな、ちょっと粘り気があるが、ルートポム(じゃがいも)にはぴったりだ。水もちがいいからな。ただ、向こうの斜面は乾きやすいから、サンベリー(トマト)にはうってつけだろうよ」


 オレは熱心にうなずきながら、必死に知識を吸収する。


「でもよ、問題は水だ。今の畑の規模ならいいが、これから人が増えりゃ、水が足りなくなるのは目に見えてる」


「もっと川の近くに畑を作らないと、水の確保が難しくなるぞ」


 川の近くに畑を広げる……か。


 そうなると、新たな土地の開墾が必須だ。


 問題はまだまだ山積みだ……


 それでも、暗く澱んでいた雰囲気から人々に笑顔が戻りつつあるのが、オレには喜びであり、救いだった。


 そんな事を思っていたのだが、直近の問題が発生しだす。


「金がないっ……」


 ―――なんとかしないとっ!


 その焦りは次第に態度に表れ、オレ自身も気づかぬうちに周囲との会話すら上の空になっていた。


 食事のときも、休憩のときも、領民たちと話しているときでさえ、頭の中は不安と焦燥感でいっぱいだった。


 刻一刻と迫る決壊の日。

 考えれば考えるほど、明日なんて来なければいいとさえ思い始めていた……


 そんなオレの様子を心配して、エリーゼがそっと声をかけてくれた。


「どうなされましたか?  ご主人様。お顔の色がすぐれませんね……お疲れになられているのではないですか?  作物も順調に育っていますし、収穫の目処も立ち始めたことですし、ここは皆にお任せして、少しお休みになられてはいかがでしょうか?」


「目処が立つ……?」


 オレは呆然とエリーゼを見つめる。


「はい、順調に作物は育っ――」


 ――ガンッ!


 気がつけば、オレの拳が近くの木箱を叩いていた。


 突然の音に、エリーゼは驚いたように目を見開く。

 その怯えたような表情が、オレの苛立ちにさらに火をつける。


「全然、目処なんて立ってなんかいないっ!  食料だって底を尽きかけてる!  それに……買い足すための金も、もうないんだっ!  さらに作物の収穫だって、まだまだ先だっ!  それのどこが順調なんだよ……!?  言ってみろよ……」


 自分でも驚くほどの怒気を含んだ声が、静まり返った空気の中に響く。


 エリーゼは、悲しそうな表情を浮かべながら、ただじっとオレを見つめていた。


 その顔を見た瞬間、オレはハッとして我に返る。

 だが、一度放った言葉はもう戻らない。

 胸が締め付けられるような後悔が押し寄せる。


「……ごめん、エリーゼ……」


 オレは絞り出すように謝る。


「お前は悪くないのに……オレ、もう余裕がなくて……それで、辛く当たってしまった……本当に、悪かった……今のオレは、何も持っていなくて、謝ることしかできない……すまない……」


 うなだれるオレを見て、エリーゼはしばらくじっと見つめた後、ふっと微笑みを浮かべ、静かに口を開いた。


「ご主人様の今までの態度、やっと分かりました……お願いです、ご主人様。お一人で悩みを抱え込まないでください。わたしにだけでも……相談してください。聞くだけなら出来ます。話すことで、少しでも気が楽になるかもしれません。だから……一人で抱え込まないでください」


「……っ!」


 ……あんなに心ない言葉をぶつけたのに、エリーゼはオレの悩みを受け止めようとしてくれている。


 それが、オレにとって、どれだけ嬉しい言葉か……

 そして、さっきのエリーゼの言葉も、ただオレを気遣った優しさからだった。

 それを、オレは……


 エリーゼの人を思いやる心、優しさ、それに甘えてばかりいたのかもしれない。


 ――それに、一人で悩んでいても、解決なんてしない。


 彼女の言葉は、その事実を分かってくれているからこそのものなんだ。


「すまない、エリーゼ……辛くあたってしまったのに情けないが、聞いて欲しい」


「はい」


 その一言。その一言だけで、オレの心は少し軽くなった気がした。


 そして、オレはエリーゼに、今の状況を静かに伝え始めた。

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