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なろう異世界史  作者:
12/38

なろう異世界史 物流編⑪

 ―――「転生者がっ……やっぱりな。何もできずに勝手に倒れやがって。お前は、ただ俺たちを不幸にしただけのろくでなしだっ!」


「違う……俺は……ただ……」


 必死に言葉を探そうとするが……喉が乾き、何も出てこない。


「何が違うだっ! 俺たちを助けるなんて大口叩いたくせに、大したこともできない役立たずじゃないかっ!」


「違うっ! 俺は……俺は、みんなのことを思ってっ!」


「何が、みんなだっ! 結局、自分は頑張ってると正当化して、許されたいだけじゃないかっ! この偽善者がっ!」


「ちがうっ!」


「偽善者!」


「卑怯者!」


「とっと出て行けよっ! この無能者がっ!」


「ちがうっ! ちがうんだっ! オレは! オレはっ!」


 必死に叫ぶが、何も届かない。否定すればするほど、胸の奥で何かが崩れていくような気がした。


 ――その時、不意に肩を揺さぶられる感覚があった。


「……様……」


 誰だ?

 俺を呼んでいるのか?

 俺はダメなヤツなんだ……放っておいてくれ……


「……ご主人様!」


 どれだけ俺が頑張っても……どうにも……ならない……


「ご主人様っ! しっかりしてください!」


「はっ!」


 目を開けると、そこには心配そうに覗き込むエリーゼの顔があった。

 オレは荒い息をつきながら、自分の額に汗がびっしりと浮かんでいることに気づく。


「……夢……なのか?」


 自嘲気味に呟くと、エリーゼは少し困ったように微笑み、そっと冷たい布を額に当ててくれた。


「悪い夢でも見たんですか?」


「……ああ、最悪な……な……」


 オレは、ぼんやりと周囲を見渡した。


 そこには誰もおらず、避難してくる声も聞こえなかった。

 心底ほっとしたが、あの夢の言葉が頭から離れない……


 天井を見つめながら、オレは呟く。


「なぁ……エリーゼ……今までオレがしてきたことは、単なる自己満足だったのか? オレが勝手に、みんなが幸せになれると信じ込んでいただけの、余計なお世話だったのか?」


 言葉を発するたびに、胸の奥がズキリと痛む。


「……すべて、無駄……だったのかな……? っ……」


 オレは気づけば涙を流していた。


 だけど……それでも……


 オレは、布団から身を起こし、震える足を踏み出す。


「ダメだ……こんなことしてる場合じゃないっ! 畑に行かないと……」


 立ち上がろうとするが、エリーゼがすぐに止める。


「ご主人様、無理はしないでください。まだ体が回復していませんよ」


 けれど、オレはその手を振り払うように歩き出した。


 畑にたどり着くと、目にした光景は予想とはまったく違った。


 炊き出しを食べていたはずの人々が、今は力を合わせて畑を耕していた。

 一人ひとりが手を動かし、地面を掘り返し、畑が作られつつある。


 言葉が出なかった。オレが望んでいたことが、今まさに実現している瞬間だった。


「これ……は……?」


「ご主人様が倒れた後、一人が鍬を手に取ったんです。すると、次々とみんなが手を貸して……今では、みんなが力を合わせています。ご主人様のしてきたことは、間違いではなかったのですよ」


 エリーゼは、唖然としているオレに優しく微笑みながら答えた。


 その言葉に、オレの胸が熱くなるのがわかった。


 オレのやったことは、無駄じゃなかった。

 人々に希望を灯せたのだと、強く思えた。


 気づけば、いつの間にか涙がこぼれていた。

 止めどもなく流れる涙を、エリーゼはそっと包み込んでくれた。


 オレ一人では何もできなかった。


 けれど、みんなの力があれば、これからはどんな困難も乗り越えられる。


 エリーゼが静かに囁く。


「ご主人様、よかったですね」


 その言葉に、オレは堰を切ったように声を上げて泣いた。


 悲しみや苦しみで流した涙とは違う――

 皆が前を向いてくれたこと、自分の行動が間違っていなかったことが嬉しくて、オレは泣いたんだ。


 ――どれだけの間、泣いただろうか?


 涙が枯れ、気持ちが少し落ち着いた頃、オレはただ無言でその光景を見守った。

 胸の中で、あふれそうな感情を必死に押し込めながら。


 その時、突然、一人の声が響いた。


「この世界は、俺たちの世界だ!」


 声の主は、最初オレを冷たく見ていた男だった。

 彼の周りには、少しずつ他の人々が集まり始めていた。


「転生者なんかに任せてなんて置けない! 俺たちだって、やるべきことがある!」


 その言葉に、オレは驚きつつも、胸の奥で何かが弾けるのを感じた。


 彼らの心にどんな変化があったのかは分からない。


 だけど……自らの意思で前へ進もうとしている――


 その変化を目の当たりにしている、わしにとってはそれだけで十分だった。


 次々と手を貸し始めた人々が、耕し、種をまき、少しずつ畑が形になっていく。


 その光景を見守りながら、オレは心の中で何度も繰り返した。


「みんな、ありがとう……」


 エリーゼが静かに歩み寄り、少し照れくさそうに微笑んだ。


「ご主人様、みんな、前を向いてくれましたね。それを、ご主人様が成し遂げたのですよ」


 オレは微笑み返し、力強く頷いた。

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