なろう異世界史 物流編⑩
オレは働いた……
転生する前より働いているんじゃないか?
こんな使命感で働くなんて、一度もなかった。
だからなのだろうか?
ただ、時間を気にして、ある程度は働く。
それ以上は働きたくなくて、わざと手を抜いてゆっくりと仕事をこなし、さもやった風をきどっていた。
だけど、今はそんなことはない。
ずっと時間に追われる始末。
けれど、それがなんとも心地いい。
誰かを助ける、誰かの役に立つ、誰かのために働く。
こんな使命感の中で働くのがこんなにも心地いいものだなんて、知らなかった。
昔は、ただ目の前の仕事をこなして、終わらせることだけが目的だった。
でも今は、仕事が終わった後の「誰かのためになった」という充実感が心を満たしている。
そして、何より、自分が納得するまで頑張り続けられる。
オレは昔になりたかった自分になれた気がしていた。
ただがむしゃらに、前を向いて、誰からも賞賛なんて得られなくても、自分が納得するまで続けることが、こんなにも心地いいなんて、知らなかった。
手の皮は向け、豆はどれだけ潰れたかわからない。
けれど……それでも……すこしづつでも、畑になっていく。
このすこしづつでも形になっていくのが楽しい。
まるでシムシ○ィやビルド系のゲームをしている感覚だ。
失敗もある、怪我だってする。
それでも、その失敗だって経験になる。
怪我をしただけ強くなる。
そんな、かけがえのない経験がオレを押し上げていく。
「……この、荒れた荒野が徐々に畑になっていく感覚、この陶酔感、死ぬほどいいぜぇ……たっまんねぇ……」
と、たまに疲れすぎて、おかしくなる時もあるが、それでもこの達成感が好きなのだろう。
―――バタンッ
「……ご主人様!」
いきなり倒れたオレにエリーゼが駆け寄った。
意識が遠くなりかけているオレが最後に聞いたのは、何かを言っているエリーゼの声だけだった――




