なろう異世界史 物流編⑨
領主からの畑を作る了解を得て、早速開墾をしようとするのだが――
その提案を人々に伝えてはみたが……街の人々の視線は冷たい。
「今さら、何をするつもりだ?」
「やりたいのなら、オマエがやれっ! お前のせいでこうなったんだからなっ!」
そうだ。
この反応は当然なんだ。
オレが世界を壊した。
オレだけじゃないが、何もしなかったオレも同罪だ……
だから、この非難は浴びて当然の報いなんだ……
だからこそ、オレだけでも……
オレは拳を握りしめ、ひとりうなずいた。
「それでも……やるしかないんだ……」
だが――問題はそこからだった。
スコップを握りしめ、荒れ果てた土地を見つめる。
何から始めればいい? どこを掘る? どれくらい深く? 種はどうすれば?
まるで分からない。
「……畑って、どうやって作るんだ?」
唖然とし、無駄に鍬を振るってみるが、固い土はビクともしない。
「あ、あれ? こんなに硬いのか……?」
オレはただの穴掘りですら手間取る始末だった。
それを遠巻きに見ていた街の人々は、嘲笑交じりにこう言った。
「やっぱりな。転生者様とやらは力を使わないと、何もできないらしい……」
「はは、そんな様でオレたちを救う? そんなんで何から、何を救うつもりなんだか。笑わせるなっ! くそっ!」
――ガッ!
その領民の一人は手に持っていた、スプーンを地面に力の限り投げ捨てると、乾いた音が響く。
その言葉に、心の奥で何かが軋む。
だが、何を言われようと、オレは引き下がるわけにはいかない。
ここの人たちを救う――
それが今のオレの原動力であり、贖罪なんだ。
オレは、歯を食いしばりながらスコップを握り直した――
開墾作業に苦戦しながらも、次に控えるのは食料の確保だった。
「くそ……時間がない。やることが山ほどある……」
調理、分配、農作業……すべてが初めてのことばかりで、頭がパンクしそうだ。
オレはふと手をかざし、自然と転移魔法を使おうとした。
(今なら、すぐに食料を確保できる……これで問題は――)
その時だった。
「……また、その力を使うの?」
エリーゼの静かな声が背後から響く。
「……仕方ないんだ、全てをこなすには、これしか方法がないんだっ!」
開墾の作業は思った以上に難航し、食料の確保も課題として重くのしかかっている。
その全てを賄うには、もう力を使うしかなと思っていた……
だが……その考えは違っていたのだ。
時間がない。
全てをやらなければならない。
せめて、移動くらいは時間を短縮しなければ……
その思いが、オレを力を行使しようとする、ただの言い訳だったのだ……
そして、その思考のまま再度、オレは手をかざし魔法を発動しようとした、その時――
「……世界を壊した力を、また使うの?」
静かな声が耳に届く。
振り向くと、エリーゼが真剣な眼差しをこちらに向けていた。
「エリーゼ……?」
彼女は少し俯きながら、絞り出すように言った。
「一人で全てをやろうとして、その力を使おうとするのは分かるわ……けど……その力を使うたびに、人々は、きっとこう言うの……『やっぱりな』って」
――ドクンッ!
胸の奥が、跳ねた……
その後、強く締め付けられる感覚に襲われる。
オレの脳裏に、これまで向けられてきた人々の冷たい視線がよみがえった。
「あの力を使ったせいで……オレは……」
拳を握るが、転移魔法の光は薄れ、消えた。
エリーゼはオレを見つめ続けている。
「でもっ! どうすればいい! ……何もできなかったら、みんな……」
「あなたが何かをしようとするたび、みんなは怯えてるのよ。あなたの力じゃなくて、あなた自身を信じさせなきゃ……」
彼女の言葉が、胸に深く突き刺さる。
オレは、魔法を使わずに、自分の足で歩み始めた。
「……分かったよ。やるしかないな、地道に」
エリーゼは、小さく微笑んだ。
話数を間違えて、引っ込めた話数ですが、今日のうちに上げ直しておきます。
一度読んでいた方は、申し訳ございません。




